「民俗学」と「民族学」
どちらも「みんぞくがく」と読む言葉ですが、
なじみが薄いという印象ではないでしょうか。
ところが、これらの言葉は
「文化論」をテーマとした文章にはよく出てきます。
特に、大学入試の現代文には
頻出の単語と言ってもいいでしょう。
そこで今回は、
「民俗学」と「民族学」の違いについて
なるべく簡単に分かりやすく解説しました。
さっそく、確認していきましょう。
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民俗学とは
まずは、「民俗学」の意味からです。
【民俗学(みんぞくがく)】
⇒民間伝承の調査を通して、主として一般庶民の生活・文化の発展の歴史を研究する学問。英国に起こり、日本では柳田国男・折口信夫らにより体系づけられた。フォークロア。
出典:デジタル大辞泉(小学館)
「民俗学」とは、簡単に言うと、
「一般庶民の生活や文化の歴史について研究する学問」のことです。
辞書の説明の「民間伝承」とは
「言うことによって文化を伝えること」だと考えてください。
つまり、文献などの書物ではなく、
「人々が直接口で伝えたことを元に調査する」ということですね。
具体的にどのようなことをするかというと、
文化や風習、神話などについて調査していきます。
「民間伝承」を調査することにより、
- その土地にはどんな文化があったのか?
- どんな神様を信じていたのか?
- 何を信仰して何を恐れていたのか?
- どんな神話や昔話があったのか?
といったことを研究していくのです。
そして、
「民俗学」を覚える上で大事なのは
「一般庶民」というワードです。
「民俗学」は、名を残すようなエリートたちの文化ではなく、
ごく普通の人たちの文化を研究する学問を指します。
そのため、
研究対象は庶民の日常生活に関わるものが中心となるわけです。
民俗学の語源・由来
「民俗学」は英語で、
「folklore(フォークロア)」と言います。
「フォークロア」は、
1846年にイギリスのタムズという人が
初めて使った言葉だと言われています。
彼は、「古くから伝わるしきたり」
という意味でこの言葉を作りました。
その後、各国でも
民間伝承によって庶民の文化を研究する学問
として使われるようになったのです。
「民俗学」は、決して日本固有の学問というわけではありません。
あくまで海外発祥の学問です。
日本の民俗学は、ヨーロッパの影響を受けた後に、
柳田国男という学者によって成立されたものと言われています。
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民族学とは
続いて、「民族学」です。
先に「民族」の意味を確認しておきましょう。
【民族(みんぞく)】
⇒言語・人種・文化・歴史的運命を共有し、同族意識によって結ばれた人々の集団。
出典:デジタル大辞泉(小学館)
「民族」とは、
「言語や人種・宗教などによって分けられた集団」のことを意味します。
例えば、以下のような集団です。
- 日本語を話す日本人。
- ドイツ語を話すドイツ人。
- アメリカに住んでいるアメリカ人。
- フランスに住んでいるフランス人。
- ユダヤ教を信じているユダヤ人。
このように、言語・人種、宗教などの同族意識によって
一つに結ばれている集団を「民族」と言うのです。
したがって、「民族学」とは
「世界の民族について研究する学問」のことを意味します。
「民族」というのは客観的な基準はなく、
同一の文化や風習を共有している集団であれば全て「民族」と呼びます。
言いかえると、民族への帰属というのは
「主観的」ということですね。
「主観的」の意味は、以下の記事を参照してください。
民俗学と民族学の違い
ここまでの内容を整理すると、
「民俗学」=一般庶民の生活・文化の歴史について研究する学問。
「民族学」=世界の民族について研究する学問。
ということでした。
両者の違いは、
2つの点から比較すると分かりやすいでしょう。
1つ目は、
「研究方法」の違いです。
「民俗学」は、
「民間伝承」を参考に研究していきます。
一方で、「民族学」は、
「文字の記録」を参考に研究していくのです。
文字というのは、元々、特権階級だけが手にできるものでした。
そのため、一般庶民たちは、
自分たちの生活記録を口伝えで残すしか方法がなかったのです。
つまり、両者の研究方法の違いは、
言わば必然だったわけですね。
2つ目は、
「研究対象の違い」です。
「民俗学」は、文化や風習・神話など
一般庶民の生活の歴史を研究します。
一方で、「民族学」は、
言語・生活習慣・信仰など
民族の文化や社会について研究するのです。
すなわち、「民族学」の方は
「民族そのものについて幅広く研究する学問」
ということですね。
「民族学」は「文化人類学」とも呼ばれており、
一般庶民の研究というよりは人類そのものを明らかにしていくという意味が強いのです。
以上のことから考えると、研究対象の範囲で言えば、
「民俗学」よりも「民族学」のほうが大きいとも言えるでしょう。
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使い方・例文
最後に、それぞれの使い方を
実際の例文で確認しておきます。
【民俗学の使い方】
- 民俗学とは民間伝承を主な研究領域にしている学問だ。
- 民俗学は人間の生活史について豊富な知識を与えてくれる。
- 彼は歴史と文化が好きなため、大学で民俗学を勉強している。
- 妖怪伝説について研究するのは、民俗学に含まれる。
【民族学の使い方】
- 民族学という言葉は、文化人類学とほぼ同義である。
- この博物館には、民族学的な資料も保存されている。
- 大阪府の国立民族学博物館では、民族学の展示がある。
- 当時のヨーロッパについて、民族学的な調査を行う。
現代文では「民俗学」というキーワードは、
「伝統社会」について書かれた文章でよく出てきます。
特に使われるのが、
「近代社会」との対比です。
「近代社会」では、集団よりも個人を重視していました。
一方で、「伝統社会」では
逆に個人よりも集団を重視していました。
そこで、両者のメリット・デメリットを
比較する文章が書かれるということです。
まとめ
以上、今回の内容をまとめると、
「民俗学」=一般庶民の生活・文化の歴史について研究する学問。
「民族学」=世界の民族について研究する学問。
両者の違いは、
「民俗学」=「民間伝承」を参考に、一般庶民を研究していく。
「民族学」=「文字の記録」を参考に、人類そのものを明らかにしていく。
ということでした。
この記事をきっかけに、
ぜひ正しい理解をして頂ければと思います。
では今回は以上です。
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国語力アップ.com管理人
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