『言語と記号』は、高校国語・現代文で学ぶ評論です。丸山圭三郎という作者によって書かれたもので、教科書にもたびたび取り上げられています。
ただ、本文を読むとその内容や筆者の主張などが難しいと感じる人も多いと思われます。そこで今回は、『言語と記号』のあらすじや要約、学習の手引きなどをなるべく簡単に解説しました。
『言語と記号』のあらすじ
私たちの日常生活は記号だらけである。数学の演算記号、交通信号、モールス信号、地図の標識といった典型的なものに限らず、人の表情やジェスチャー、衣服やアクセサリーなども記号と見なすことができる。記号とは「自分とは別の現象を告知したり指示したりするもの」であり、特定文化内の儀礼、音楽、絵画、建築なども広義の記号性を免れていない。また、「言語も記号の一つ」と考えられる。
言語記号も他の一般記号と同じく、言語以前の事物や概念の存在を前提とするとされてきた。しかし、同じ記号と呼ばれてはいても、言語記号とその他一切の記号類との間には、本質的な違いがありはしまいか。例えば、メルロ・ポンティの考えや古代神話の世界では、名は事物の本質であって事物そのものが名付けられることによって認識され、別々のものとして分けられ、存在を開始するとされる。したがって、言語記号の「名付ける」という行為は、一次的にはそれまで分節されなかった観念や事物に区切りを入れて、これを存在させていく根源的作用であり、二次的にはそのようにしてつくられた存在にラベルを貼る作用だと言える。
言語記号の根源的作用には、言語が可能にした思考によって道具がつくられ、その道具類やそれを用いた生産活動が、新たな世界をつくり出すというはたらきも含まれている。道具の使用は宇宙の秩序が人間の介入を許し、また、道具を変えることで、外界を変化させ、自分たちの世界像や世界観も変えていく。人間が道具によって作り出した、風や水、空間などの身近な違いが、そのまま世界観の違いや人間関係の把握の違いに通づるのも、世界と意識の相互差異化がもたらす結果と言えるだろう。
『言語と記号』の要約解説
本文で注目すべきは、「言語によって名付けられることで、事物が存在する」というものです。
私たちは通常、「ある事物がまず存在し、それに対して人間が名前を付ける」と考えがちです。しかし、筆者はそうではないのだと主張します。
筆者は、「事物」というのは、言葉によって名付けられることで初めて存在するのだと述べています。この事を本文中では、「名というのはむしろ事物の本質であって、事物そのものが名とともに初めて分節され、存在を開始する」と書かれています。
例えば、日本語では「犬」と「狸(たぬき)」は別の動物であるかのような意識がありますが、フランス語だと両者はどちらも「chien」と呼びます。
「犬」と「狸」という別の名前を付けられることにより、初めてその二つの動物は別の動物として存在を始めることができます。
つまり、名づけというのはこの世界に対する一つの解釈でありお互いを差異化するものであり、その事により人間の主体の意識の方も差異化されるということです。
初めからこの世界は分けられているのではなく、名づけ(言語)によってこの世界は分けられている、という筆者の主張を読み取るのがポイントとなります。
『言語と記号』のテスト問題対策
次の傍線部の仮名を漢字に直しなさい。
①地図のヒョウシキ。
②問題の本質をツイキュウする。
③ゼンテイとなる条件。
④カッショクの肌。
⑤カイニュウを許さない。
⑥責任をまぬかれない。
⑦故国をしたう。
⑧我が子のようにいつくしむ。
⑨物をかくす。
⑩権利をうばう。
⑪口にふくむ。
次のそれぞれの例を通して、筆者はどのようなことを説明しているか?
①赤信号の例と「愛」の例
②ポチと犬の例
③犬と狼の例
①「赤信号」のような記号は常に同じ意味を送り返すのに対し、「愛」のような言語記号は、様々な状況によって微妙に意味内容が異なるということ。
②「犬」に「ポチ」と名付けるのは、できあがっている事物や観念の上に名前を貼り付けることになるということ。
③日本語では「犬」と「狸」を分けるが、両者を同じ語で表す言語もあるように、個々の言語によって意味内容のくくり方が違うということ。
次の部分はそれぞれどのようなことを述べているか?
①特定文化内の儀礼、音楽、絵画、彫刻、演劇、建築なども、広義の記号性を完全には免れていない。
②「名が対象と同じ力を持つ、もしくは対象を出現させる。」
③世界が差異化されると同時に、主体の意識のほうも同様に差異化される。
①ある特定の文化圏の中では当然価値観を同じくするため、例えば、ハトの彫刻から平和のメッセージを受け取ることができるように、そのものとは別の現象を告知したり指示したりする点で、広い意味では記号の役割を果たしているということ。
②「熊」なら「熊」という名を口にすると、本物の「熊」が現実に出現して害をなすので、「蜂蜜」「褐色のもの」などと言い換えたように、「熊」のような名というのは現実の「熊」と同じ力を持ち、現実に出現したのと同じになるということ。
③言葉によってそれまで分節されていなかった世界に区切りが入れられ、事物や観念がつくられると、同時に主体である人間にとっても、そのような事物や観念がすでに存在していたかのような意識が作られる、ということ。
まとめ
以上、今回は『言語と記号』について解説しました。学校の授業だけでは分かりにくい箇所もあるかと思われます。ぜひこの記事を見直して復習して頂ければと思います。なお、本文中の重要語句については以下の記事でまとめています。
国語力アップ.com管理人
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