「折衝」と「交渉」は、どちらもビジネスでよく使われている言葉です。
「取引先と折衝する」「相手と交渉する」
さらに、後ろに「力」がついて、「折衝力」「交渉力」などと言う場合もあります。今回はそんな「折衝」と「交渉」の違いや使い分けを詳しく解説しました。
折衝の意味
まずは、「折衝」の意味からです。
【折衝(せっしょう)】
⇒有利に事を運ぶように、相手と駆け引きすること。また、その駆け引き。外交的または政治的駆け引きなどにいう。
出典:三省堂 大辞林
「折衝」とは簡単に言うと「外交的・政治的に話し合うこと」を意味します。例えば、以下のように使います。
アメリカと貿易の件で折衝する。
この場合はつまり、「アメリカと貿易問題について話し合う」ということです。
「折衝」は、基本的に国と国、会社と組合など公の取引に対して使われます。したがって、話し合う内容は主に、政治・経済・お金など規模の大きなものが中心となります。
なお、「折衝」の類義語としては次のような言葉が挙げられます。
【取引・駆け引き・談判・会商・ネゴシエーション】
交渉の意味
続いて、「交渉」の意味です。
【交渉(こうしょう)】
①ある事を実現するために、当事者と話し合うこと。かけあうこと。
②人と人との結びつき。かかわりあい。関係。
出典:三省堂 大辞林
「交渉」とは「相手と話し合うこと」を意味します。この場合の「相手」とは個人や国、会社など対象が幅広いものとなります。
使い方としては、以下の通りです。
- 店員と値引き交渉する。
- 会社と給料の交渉をする。
「交渉」の方は、普段からよく使われているのでイメージしやすいかと思います。
また、「交渉」にはもう一つ意味があります。それは「人とかかわりあいを持つ」という意味です。
この場合は、「彼女との交渉を絶つ」のように使います。主に異性との関係に対して使われることが多いです。
なお、「交渉」の類義語としては次のような言葉が挙げられます。
【対話・交流・仲らい・話し合い・関係】
折衝と交渉の違い
ここまでの内容を整理すると、
「折衝」=(外交的・政治的に)話し合うこと。
「交渉」=(様々な相手と)話し合うこと。
ということでした。
両者の違いを簡単に言うと、「話し合う相手の範囲」となります。
「折衝」は、国と国、会社と組合の話し合いなど公の取引が中心であり、限定的な使い方をします。一般的には、個人同士の話し合いには「折衝」は使いません。
一方で、「交渉」は個人と個人、個人と会社、国と国など広い意味での話し合いに使われます。つまり、交渉は折衝を含んだ言葉ということです。
元々、「折衝」は「折(お)る」と「衝(つ)く)」の二つの漢字から作られた言葉です。これを簡単に説明すると、「敵が突いてくる剣を打ち砕く」という意味になります。要するに、本来の語源としては、戦いのような闘争的な要素が含まれているのです。
一方で、「交渉」という字は「交(まじ)わる」と「渉(わた)る」からできています。簡単に言うと、「他の物事と、かかわりあう」ということです。こちらの本来の語源としては、「単に他の人と接する」という意味になります。
したがって、両者のイメージとしては以下のようになるわけです。
「折衝」=闘争的に話し合う。「交渉」=穏やかに話し合う。
ここからそれぞれの言葉の意味に違いが生じることになります。以上、まとめますと、
「折衝」=限定的にしか使わない。(闘争的なイメージ)
「交渉」=広い意味で使える。(穏やかなイメージ)
となります。
補足すると、「交渉」は「関係の有無」という意味もあるということでした。この意味で使う場合は、当然、「折衝」は使えないので注意してください。
「〇」⇒異性との交渉 「×」⇒異性との折衝
折衝力と交渉力の違い
ここまで、「折衝」と「交渉」について解説してきました。ただ、ビジネスシーンでは「折衝力」や「交渉力」という言葉がよく登場します。
これはつまり、「営業がお客や取引先と話し合う力」と考えればよいでしょう。
本来は、個人間の話し合いは「折衝」は使いませんがビジネスでは使うこともあります。実際の現場では、両者は次のように区分されているようです。
「折衝力」=意見が一致しない相手と話し合う力。
「交渉力」=お互いが納得するように話し合う力。
「折衝」の方は、お互いの意見が一致しない状況からスタートします。そのため、最終的にはお互いが妥協するというケースが多いです。
一方で、「交渉」の方は必ずしもそうとは限りません。
「交渉」は、話し合いの着地点が、ある程度決まっている状況からスタートする場合もあるのです。その結果、最終的にお互いが満足して終わるというケースも十分あります。
以上の事から考えますと、「交渉力」よりも「折衝力」をつけることの方が難易度は高いということが言えるでしょう。一般的には、営業が取引先と価格交渉などをする場合に「折衝力」が使われます。
使い方・例文
最後に、それぞれの使い方を例文で紹介しておきます。
【折衝の使い方】
- TPP離脱の是非について、アメリカと折衝する。
- 貿易摩擦問題について、米国と折衝を重ねる。
- 予算の査定をするために、財務省と折衝した。
- 営業のスキルを磨くには、折衝力は不可欠だ。
- 顧客とどう折衝するかで、ビジネスの売り上げは変わってくる。
【交渉の使い方】
- 労働組合が、労働条件の改善を目指して会社と交渉する。
- もっとサービスをしてくれないかと思い、交渉をしてみた。
- 値引き交渉をするために、近くの店員さんを呼び止めた。
- 交渉を上手く行うには、押さえるべきポイントがいくつかある。
- いい加減、あなたは悪い友達との交渉を絶った方がいい。
※「折衝」を「接衝」と書くのは誤りです。よく間違われる人がいますので注意して下さい。
まとめ
以上、本記事のまとめとなります。
「折衝」=外交的・政治的に話し合うこと。(限定的・闘争的)
「交渉」=話し合うこと。(広い意味で使える・穏やか)
「折衝力」=意見が一致しない相手と話し合う力。
「交渉力」=お互いが納得するように話し合う力。
どちらも相手と話し合う場面では使われることがあります。ぜひ正しい使い分けを覚えて頂ければと思います。