ニーチェの「永劫回帰」という言葉をご存知でしょうか?
ニーチェと言えば哲学者というイメージですが、哲学と聞くと何となく難しく感じるかと思われます。また、この言葉は「輪廻転生」との違いが気になるという人も多いようです。
そこで本記事では、「永劫回帰」の意味や使い方、例文、類義語などを含めなるべく簡単に解説しました。
永劫回帰の意味を簡単に
まず、この言葉の意味を辞書で引くと次のように書かれています。
【永劫回帰(えいごうかいき)】
⇒宇宙は永遠に循環運動を繰り返すものであるから、人間は今の一瞬一瞬を大切に生きるべきであるとする思想。生の絶対的肯定を説くニーチェ哲学の根本思想。▽ドイツ語ewigewiederkunftの訳語。
出典:三省堂 新明解四字熟語辞典
「永劫回帰」とは簡単に言うと「宇宙の全て(世の中のすべて)は、同じことの繰り返しである」という考え方のことです。
「永劫」は「無限に続く長い年月」、「回帰」は「一周して元のところへ帰ること」を表します。つまり、ずっと長く続く年月のように何度も一周し、また元の場所に帰ってくることを「永劫回帰」と呼ぶわけです。
永劫回帰で最も分かりやすい例が、「目標設定」です。私たちは何かを達成するために必ず目標を設定します。
- 大学に合格する。
- 月収100万円を達成する。
- 理想の結婚をする。
そして、目標を設定した後は「目標を達成できたパターン」と「できなかったパターン」に分かれます。月収100万円を例に出すと次のような形です。
①月収100万円を目標にする⇒必死に頑張る⇒達成できた。
②月収100万円を目標にする⇒必死に頑張る⇒達成できなかった。
この場合、「永劫回帰」は①と②のどちらも同じことの繰り返しであるであると言っているわけです。まず、②の方は分かりやすいですよね。
月収100万円を達成できなかったので、それを達成するためにはまた同じ努力を繰り返さなければいけません。いつまでもいつまでも目標を達成するまでは同じことの繰り返しです。
一方で、①の方も月収100万円を達成できたとしても、また次の違う目標が発生することになります。例えば、「次は月収200万円を目指す」⇒「次は月収500万」⇒「次は月収1000万」のようにです。
つまり、何かができるようになったらさらに上のレベルを目指したくなるのが人間なのです。言い換えれば、「目標(欲望)は消えない」ということです。この事をニーチェは「同じことの繰り返しである」と言っているわけです。
永劫回帰はニヒリズムが由来
でも、このような考え方をしていたら人生がとてもつまらなく感じないでしょうか?なぜなら、「頑張っても頑張らなくても同じことの繰り返し」ということになってしまうからです。
「時間自体は進んでいるのに、やっていることの本質は変わらない」
こう考えると、とても憂うつな気持ちになりますね。実際に、この「永劫回帰」は「ニヒリズム」というネガティブな考え方が元になっています。
「ニヒリズム」とは「真理や価値を否定する考え方のこと」です。つまり、ニーチェは次のような流れで「永劫回帰」に至ったわけです。
①「人生に真理や価値などない」⇒②「努力しても意味はない」⇒③「同じことの繰り返しである」
この結論を出してしまった時に、ニーチェは大きな苦悩に陥ることになります。なぜなら、自分で自分の事を否定することになってしまったからです。この考え方ならば、ニーチェはそもそも哲学などを他の人に説く意味がないですからね。
しかし、ここからがニーチェのすごいところです。ニーチェは、「ニヒリズム」⇒「永劫回帰」という一連の流れを克服することになります。それが、「超人思想(ちょうじんしそう)」と呼ばれるものです。
「超人思想」とは簡単に言うと「自分の影響力を大きくしていけばいい」とする考え方のことです。
ニーチェは、人生に真理や価値・目的などを見出さなくてもいい、単に「自分自身が意志を持ち、影響力を広げていけば良い」と主張しました。これが現在、「永劫回帰」が肯定的な意味として使われる所以なのです。
永劫回帰と輪廻転生の違い
「永劫回帰」と間違えやすい言葉で「輪廻転生(りんねてんせい)」があります。
「輪廻転生」とは「死んでもまた別のものに生まれ変わること」を意味する言葉です。簡単に言うと、「生まれ変わり」のことです。
私たちは死んだら「無」になると考えている人もいますが、世界(特に仏教の世界)ではそうではありません。
仏教では、死んだらまた別の人間や動物に生まれ変わり、それを繰り返すこと(輪廻)で、生物は生き死にを繰り返していると考えているのです。
よく「前世の記憶を話す人」などの話を聞きますが、まさにあれは輪廻転生を表したものと言えます。
では、「輪廻転生」と「永劫回帰」の違いはどこにあるかと言うと、「ループ(生き死にの繰り返し)を肯定的にとらえるかどうか?」です。
「輪廻転生」はループを否定的にとらえます。なぜなら、輪廻転生の最終目標はループを繰り返すことではなく、ループから抜け出して悩みや苦しみから解放されることだからです。これを「解脱(げだつ)」と呼びます。
一方で、「永劫回帰」はループそのものを肯定的にとらえます。
「永劫回帰」では、今この生が何度来ても構わない、それで良いのだと強く肯定するのです。その理由は、肯定することにより、自分自身の影響力が広げられると考えているからです。
「人生は無限ループである、だったらそれでいいではないか?」、こう強く受け入れる考え方が「永劫回帰」なのです。
永劫回帰の類義語
「永劫回帰」の類義語としては、次のような四字熟語が挙げられます。
基本的にはどれも「永遠に月日が続く」という意味の言葉が類義語となります。ただし、「輪廻転生」と全く同じ意味の言葉(同義語)というわけではありません。
例えば、「未来永劫」や「万劫末代」などは元々仏教用語でした。そのため、西洋が由来の「永劫回帰」とは根本的に異なる言葉だと言えます。「永劫回帰」は生の絶対的肯定を説くニーチェの思想ですが、このような肯定的な思想は上記の四字熟語には含まれていません。
永劫回帰の英語訳
「永劫回帰」は、「英語」だと二つの言い方があります。
「eternal recurrence」
「eternal return」
「eternal」は「永遠の」という意味です。永遠の愛を誓うための「エターナルリング」などの指輪がありますが、この「エターナル」はまさに同じ意味での言葉です。また、「recurrence」は「循環」、つまり「ぐるぐる回ること」を表します。両者を合わせることで、「永遠の循環」⇒「永劫回帰」と訳すことができます。
また、後者の「return」は「戻ること(回帰)」という意味です。こちらも同じく「永遠の回帰」⇒「永劫回帰」と訳すことができます。
例文だと、それぞれ次のような言い方です。
History repeats due to the eternal recurrence of human life.(人生は永劫回帰であるから、歴史は繰り返す。)
The life is eternal return.(人生は永劫回帰である。)
永劫回帰の使い方・例文
では、最後に「永劫回帰」の使い方を実際の例文で確認しておきましょう。
- ニーチェは永劫回帰により、自らの思想を超越した。
- 生きることを肯定した思想。それが永劫回帰という言葉である。
- ニヒリズム的な思想を超越し、超人思想になったのが永劫回帰である。
- 人生は永劫回帰なのだから、毎日を充実させるように前向きに頑張ろう。
- ニーチェは、歴史には終わりも始まりもないという永劫回帰説を主張していた。
- 永劫回帰は近代哲学を批判するポスト・モダンの哲学者達に大きな影響を与えた。
「永劫回帰」を使う例文としては、基本は哲学に関連する場合がほとんどです。ニーチェやニヒリズム、ポストモダンなど哲学的な要素が含まれる場合に使われます。
そのため、哲学をテーマとした現代文などでは比較的よく登場する四字熟語といってよいです。
逆に言えば、日常的な文章で使われることはほとんどありません。もしも日常的な文章で使う場合は、例文4.のように「毎日をポジティブに生きる」「一瞬一瞬を大事にする」といった良い意味で使うのが基本となります。
なお、「永劫回帰」は「永劫回帰する」のように動詞としては使うことはできません。
まとめ
以上、本記事のまとめです。
「永劫回帰」=宇宙の全て(世の中のすべて)は同じことの繰り返しである、という考え方。
「由来」=「ニヒリズム」を元に生まれ、「超人思想」によって現在の肯定的な意味になった。
「輪廻転生との違い」=「永劫回帰」はループを肯定的に捉えるが、「輪廻転生」はループを否定的に捉える。
「類義語」=「未来永劫・未来永久・子々孫々・万劫末代」
「英語訳」=「eternal recurrence」「eternal return」
「永劫回帰」はドイツの哲学者ニーチェが作った言葉です。一見難しそうにもみえますが、詳しく調べてみると「人生をポジティブに生きていく」という前向きな意味が込められていることが分かります。あなたも今の生き方についてぜひ考え直してみてはいかがでしょうか?