弁証法とは 具体例 簡単に わかりやすく 例文

「弁証法」という言葉は、大学入試現代文に出てくる重要単語です。ただ、一般的には哲学の用語というイメージではないでしょうか?

なぜなら、実際にこの言葉を学ぶとソクラテスやプラトン・ヘーゲルなど有名な哲学者たちの名前が出てくるからです。

ただ、哲学と聞くと多くの人が分かりにくいと感じると思われます。そこで今回はこの「弁証法」について、具体例を使いなるべく簡単にわかりやすく解説しました。

弁証法の意味を簡単に

 

まず、「弁証法」を辞書で引くと次のように書かれています。

【 弁証法(べんしょう)】

対話・弁論の技術の意ソクラテスやプラトンでは、事物の本質を概念的に把握するための方法とされ、アリストテレスでは、真の命題からの論証的推理から区別され、確からしい前提からの推論を意味した。カントは、理性が不可避的に陥る錯覚として、仮象の論理の意に用いた。ヘーゲルは、思考と存在を貫く運動・発展の論理ととらえたが、その本質は思考(概念)の自己展開にある概念が自己内に含む矛盾を止揚して高次の段階へ至るという論理構造は、一般には正・反・合、定立・反定立・総合という三段階で説明されている。また、マルクスやエンゲルスは、唯物論の立場から、自然・社会・歴史の運動・発展の論理ととらえた。

出典:デジタル大辞泉(小学館)

弁証法」とは「対立または矛盾する二つの事柄を合わせることにより、高い次元の結論へと導く思考」のことです。

矛盾(むじゅん)」とは「つじつまが合わないこと・両方成立できないこと」を表します。

「弁証法」は、元々は「対話の中で相手の発言に矛盾を見つけ、その矛盾を修正していく」という意味でした。

しかし、現在では哲学者の「ヘーゲル(1770年~1831年)」が主張する意味が一般的です。

「ヘーゲル」が主張する「弁証法」とは「ある主張とそれに矛盾する主張を合わせて、どちらの主張も切り捨てずに、より高いレベルの結論へと導くこと」です。

例えば、「ゲームをしたい子供」と「勉強をさせたい親」がいたとしましょう。

どちらの主張も切り捨てずに、高いレベルの結論にするにはどうすればよいでしょうか?

この場合は、一つの例として「子供に学習ゲームを与える」というのは弁証法的な解決と言えます。

子供側としては、ゲームをしたいという最初の主張が切り捨てられていません。

一方で、親側としても「子供に勉強をさせたい」という主張が切り捨てられていません。

よって、どちらの主張も合わせた高い次元の結論になっていると言えます。このような思考法・解決法を「弁証法」と呼ぶのです。

ここで注意したいのは、「弁証法」は「妥協」することではないという点です。

例えば、「ゲームをする時間を決めて、その後は勉強する」のようなお互いが譲って妥協するような案は「弁証法」とは言いません。

「弁証法」はあくまで、両方の意見を合わせて、より高いレベルで一つの結論をまとめ上げる思考方法を指すのです。

弁証法を具体例でわかりやすく

弁証法 具体例 事例は

「弁証法」の具体例は他に何があるでしょうか?

世の中には対立・矛盾する事柄は多くあります。例えば、「経済と環境」です。

経済を発展させるべきだ」という考え方と「環境を保護すべきだ」という考え方は矛盾しています。

なぜなら、経済発展を優先させれば、自然が破壊されて環境は悪化し、逆に環境保護を優先させれば、経済は停滞してしまうからです。

そこで、環境を保護しながら経済を発展させる考えを導入したとしましょう。

例えば、「ハイブリッドカー」の導入です。「ハイブリッドカー」とは「普通の車よりも二酸化炭素の排出量が少ない車」のことです。

二酸化炭素を減らすことは環境保護につながります。一方で、新たな車を市場に導入することも経済の発展につながります。

したがって、「ハイブリッドカー」を導入する考えは、弁証法的な思考と言えるのです。

もう一つ分かりやすい例を挙げましょう。

例えば、「この図形は三角形である」という意見があったとします。これに対して、「いや違う、この図形は円である」という意見があったとします。

そこで両者が話し合い、「横から見れば三角形だが、真上から見れば確かに円である。では、これからはこの図形を円すいと呼ぶことにしよう」という結論に達しました。

この場合、新しい「円すい」という概念が生み出され、なおかつどちらの意見も矛盾することなく、より高い次元の考えが両者に共有されたことになります。

よって、弁証法的な解決法だと言えるのです。

「弁証法」の仕組みを整理すると次のような流れです。

A」という「意見」がある。一方で、「B」という「反対意見」がある。そこで、「A」と「B」を合わせて「C」という「新しい結論」を出す。

哲学の用語だと、「A」のことを「テーゼ」、「B」のことを「アンチテーゼ」、「C」のことを「ジンテーゼ」と言います。

そして、「A」と「B」を合わせることを「アウフヘーベン(止揚)」と言います。

これらの用語も覚えておくと、「弁証法」の理解がしやすくなるでしょう。

なお、「弁証法」という考え方は終わりがありません。例えば、以下のような考えがあったとします。

  • 「A」⇒パンが食べたい
  • 「B」⇒肉が食べたい
  • 「C」⇒ハンバーガーを食べればよい。

すると、次のようになります。

  • 「C」⇒ハンバーガーが食べたい
  • 「D」⇒チーズが食べたい
  • 「E」⇒チーズバーガーを食べればよい。

このように、「否定の否定」によって新たな次元が次々と生まれる思考が「弁証法」なのです。

弁証法は時代によって異なる

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「弁証法」は、時代によって言葉の解釈が異なります。

まず、「弁証法」が最初に登場したのは、古代ギリシャにおける「問答法(もんどうほう)」でした。

「問答法」とは古代ギリシャの哲学者である「ソクラテス(紀元前469年~399年)」が唱えた弁証法の一種です。

「問答法」では「〇〇とは何か?」という根本的な問いを相手に投げかけることで物事の真理を探ります。

例えば、「愛とは何か?」「善とは何か?」のように相手に対して質問を投げかけるのです。

そして、これ以上答えられないという所まで真実を掘り下げることで答えを導こうとします。

この「ソクラテス」の問答法を受け継いだのが、「プラトン(紀元前427年~347年)」という哲学者です。

「プラトン」と言えばソクラテスの弟子として有名ですが、彼が行っていたのもソクラテス式の問答法だったのです。

次に、「ソクラテス」や「プラトン」とは異なる視点から弁証法を唱えたのが「アリストテレス」です。

「アリストレス」は、相手に問うことはもちろん大事だが、あまりやりすぎるのはよくないと主張しました。

その理由は、「愛とは何か?」「善とは何か?」など答えがない質問を考えすぎると逆に答えから外れてしまうと考えたからです。

彼はバランスや調和など自然の中にあるものを見ることを重視しました。すなわち、ただ頭の中で考えるのではなく、自然科学によって物理的に物事を考えていこうとしたのです。

こうした自然科学を重視して物事を論理的に考えていこうとしたのが「アリストレス」による「弁証法」なのです。

そして、時代は進み「中世(約476年~1453年)」に入ります。中世においては「神が絶対」という時代でした。

言い換えれば、「神様以外に正しいものはない」と考える時代です。そのため、神様以外のことを考える哲学であった弁証法的な思考はほとんど世には出てきませんでした。

中世の後に弁証法的な思考が表に出てきたのは、「近代(15世紀以降~20世紀中頃)」に入ってからです。

「近代」では、神だけを信じるのではなく「人そのものを大事にしていこう」という考えが主流になります。

代表的なのが、「カント(1724年~1804年)」と呼ばれる哲学者です。「カント」は「人は理性によって物事を考えることができる」と主張しました。

「カント」は「理性」に基づいて、「自分が良いと思って行動を決定するのが自由である」と言ったのです。

つまり、人間というのは神によって行動が決められているのではなく、自分たちの意志と理性で行動しているということです。

そして、この「カント」の後に出てきたのが、冒頭で紹介した「ヘーゲル(1770年~1831年)」という哲学者です。

「ヘーゲル」は、こう言います。

  • 理性によって考えるのは大事だが、自分だけで考えていてもよくない。
  • 他者との関係である。人は他者と考えることで発展していくのだ。

要するに、「お互いに話し合いをしましょう」と言ったわけです。

「ヘーゲル」は、自分の中の理性と相手の中の理性を突き合わせ、話し合っていくことで人はもっと上の次元へ行けると考えました。

実際にその考え方が多くの人に共感を呼び、世の中に広まりました。これが今もなお使われている「弁証法」なのです。

弁証法はビジネスでも使われる

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「弁証法」という言葉は、「ビジネス」でもよく使われてます。

ビジネスでは、顧客の要望に応え、利益を上げ続けることが求められます。そのため、高いレベルの結論を出す弁証法はまさにうってつけの考え方なのです。

例えば、「古いビジネスモデル」と「新しいビジネスモデル」があったとしましょう。前者は、主に本や雑誌などの紙を使った販売戦略です。一方で、後者は電子書籍などのITを駆使した販売戦略です。

普通に考えれば、後者の方がコストもかからず時代にかなった戦略と言えるでしょう。実際に、各企業は紙媒体の市場を縮小する傾向にあります。

ところが、弁証法的な考えでは前者の古いビジネスモデルは切り捨てません。あくまで、両者を統合して過去にないビジネスモデルを構築するのです。

例えば、「電子書籍を一定数購入すれば、無料で紙の書籍をプレゼントする」という考え方などが挙げられます。

「本や雑誌などの媒体で自宅に保存しておきたい」というニーズは一定数ですが存在します。インテリアにこだわり、本棚をおしゃれにしたい人などもいるからです。

逆に、紙媒体を中心に読んでいる人でも、「通勤や旅行などの外出先ではスマホで読みたい」という人もいるはずです。

そんな人に対しては、逆に、「本を一定数購入すれば無料でキンドルなどの電子書籍端末をプレゼントする」というのもよいでしょう。

このように、「弁証法」はビジネスでも使うことができます。ビジネスでも同様に、「反対意見を排除せずにどちらの意見も高めていく考え」を指します。

したがって、うまくいけば、どちらの顧客層にも照準を合わせられるので、結果的に利益が増幅することができるのです。

弁証法の使い方・例文

 

最後に、「弁証法」の使い方を実際の例文で確認しておきましょう。

  1. 弁証法は対立するものが一つであることを証明する思考法である。
  2. 歴史はただ繰り返すのではなく、弁証法的に発展していくものだ。
  3. ヘーゲルが主張する弁証法は、お互いの意見を統合していくことである。
  4. 反対意見を無視せず、弁証法的に話しあってこそ良い社会が生まれる。
  5. アリストレスは自然学に則り、弁証法的に考えることを重視した。
  6. マルクスは唯物論の考え方に基づき、唯物論的弁証法を唱えた。
  7. 心身二元論を統一した考えにするには、弁証法的な思考が必要だ。

 

「弁証法」という言葉は、哲学的な内容をテーマとした評論文においてよく登場します。その場合は、最後の例文のように「心身二元論」と合わせて使われることがあります。

また、入試現代文に関しては「唯物論」と合わせて「弁証法的唯物論」という形で用いられることも多いです。(例文6.)

まとめ

 

以上、本記事のまとめとなります。

弁証法」=対立・矛盾する二つの事柄を統一し、高い次元の結論へ導く思考方法。

具体例」=「親子の対話」「経済と環境」「円と三角形」など。

歴史」=古代ギリシャの「ソクラテス・プラトン・アリストテレス」から、近代の「カント」⇒「ヘーゲル」という流れ。

「弁証法」とは、一言で言えば「話し合うこと」です。お互いの考えと考えを突き合わせて高いレベルの結論を出すことが「弁証法」だと覚えておきましょう。