「就任」と「着任」は、どちらも会社の人事異動において使われる言葉です。
「社長に就任する」「取締役に着任する」
さらに、似たような言葉で「赴任」や「新任」が使われることもあります。これらの言葉はどのように使い分ければよいのでしょうか?
今回は、「就任」と「着任」の違い、さらに「赴任」と「新任」についても解説しました。
就任の意味
まずは、「就任」の意味からです。
【就任(しゅうにん)】
⇒ある地位や役職につくこと。 ⇔ 退任
出典:三省堂 大辞林
「就任」とは「ある地位や役職につくこと」を意味します。主に会社の役職やチームの担当などに就く時に使われる言葉です。
その中でも特に、高い地位や役職につく時に使われることが多いです。例えば、企業であれば社長や取締役、政治であれば首相や大臣、野球であれば監督やGMといった地位です。
逆に、そこまで高い地位でない場合は「就任」とは言いません。例を挙げますと、平社員から主任になったり、主任から係長になったりするような場合です。
主任や係長は、会社の中でも比較的地位が低い役職です。この場合は就任よりも「昇進」や「昇格」を使うのが適しています。
着任の意味
続いて、「着任」の意味です。
【着任(ちゃくにん)】
⇒新しい任地に到着すること。また、新しい任務につくこと。⇔離任。
出典:デジタル大辞泉(小学館)
「着任」とは、「新しい任地に到着すること・新しい任務につくこと」などを意味します。
「任地(にんち)」とは文字通り「仕事を任された土地」という意味です。簡単に言うと、「勤務地」のことを指します。つまり、新しい勤務地に到着したり、新しい勤務地で任務に着くことを「着任」と言うわけです。
例えば、A支店からB支店という新しい任地へ到着した課長がいれば、「課長はB支店へ着任した」と言います。また、A中学校からB中学校という新しい任地に到着した先生がいれば、「先生はB中学校へ着任した」と言います。
「着任」の「着」は、「到着」「着陸」などの熟語と同じ漢字で、「移動をする」という意味があります。また、「任」は「任務」「任命」などがあるように「役割を任されること」を表します。
この事から、「新しい場所に到着して役割を任される」⇒「移動をして任務につく」という意味になるわけです。
なお、「着任」の方は必ずしも役職が昇進するわけではありません。場合によっては左遷かもしれませんし、同じ地位かもしれません。
もちろん、昇進する可能性もあります。このあたりは状況によって判断する必要があると言えます。
就任と着任の違い
ここまでの内容を整理すると、
「就任」=ある地位や役職につくこと。
「着任」=新しい勤務地に到着すること。新しい勤務地で任務に着くこと。
ということでした。
どちらも「任務につく」という意味は共通していますが、両者には明確な違いが二つあります。
一つ目は、「移動をするかどうか?」です。
「就任」は、移動をせずに任務につきます。具体的には、「働く場所や住む場所などが変わらずに新しい任務につく」ということです。
一方で、「着任」の方はどこかに移動をして任務につきます。つまりこちらは、別の店舗や地域などに移動して、新しい環境の元で任務につくということです。
二つ目は、「到着するという意味でも使うかどうか?」です。
「着任」は、「着」という字があるように、単に「(新しい勤務地に)到着する」という意味でも使うことができます。この場合は、地位や任務につくのではなく、「新しい勤務地に到着したこと」を強調したい場合に使います。
一方で、「就任」はこのような使い方はしません。「就任」は「就く」という字があるように、必ず何らかのポジションに就くような場面で使います。
まとめると、
「就任」=移動せずに任務につくこと。
「着任」=移動して任務につくこと。「新しい勤務地に到着する」という意味でも使う。
となります。
赴任の意味
次に、「赴任」の意味です。
【赴任(ふにん)】
⇒任地へ赴くこと。
出典:三省堂 大辞林
「赴任」とは「任地へおもむくこと」を意味します。言い換えれば、「勤務地へ行くこと」を表した言葉ということです。
使い方としては、「海外へ赴任する」「埼玉から東京へ赴任する」などのように用います。
「赴任」は「行く」という動作を表した言葉ですので、「地位や役職などの任務につく」という意味までは含まれていません。この点が、「就任」や「着任」との一番の違いだと言えます。
また、細かい違いですが「着任」は「着く」という意味なのに対し、「赴任」は「行く」という意味です。
つまり、着任は「すでに到着した状態」なのに対し、「赴任」は「これから向かう状態」ということになります。そのため、両者の使い方としては、以下のような違いが出てくることになります。
- 「本日、着任しました田中です。」
- 「これから赴任する予定の山本です。」
新任の意味
続いて、「新任」の意味です。
【新任(しんにん)】
⇒ある職務に新しく任ぜられること。また、その人。
出典:デジタル大辞泉(小学館)
「新任」とは「ある職務に新しく任ぜられること」を意味します。また、「新しく任ぜれた人そのもの」を指すこともあります。
使い方としては、「新任の教師」「新任の課長」などのように用います。「新任」は「昇進」や「昇格」という意味は含まれていません。また、「降格」という意味も特に含まれていないです。
つまり、「昇格」や「降格」というよりも新しい役職や役割につくことを強調した言葉ということです。この点が、「就任」との一番の違いです。
もっと言えば、「新任」は広い意味を持った言葉です。「新任」は、ビジネスでの役職以外に教師や先生、知事などの職業に対しても使います。
そのため、イメージとしては「新任の中に就任が含まれる」と考えれば分かりやすいかと思われます。
使い方・例文
最後に、それぞれの使い方を例文で紹介しておきます。
【就任の使い方】
- 新しい社長に山田氏が就任することになった。
- 彼が取締役に就任したのは、今から三年前のことだ。
- バイデン大統領の就任がニュースを通じて発表された。
- 新しい内閣により、文部科学大臣の就任も決まった。
- WBCの日本代表監督として、A氏が就任することなった。
【着任の使い方】
- 埼玉エリアの課長から関東エリアの部長へ着任した。
- 本日付けで、千葉から着任いたしました田中と申します。
- 部長着任のあいさつとして、今後の抱負を述べたようです。
- 彼は九州から関東のエリアマネージャーに着任しました。
- 着任したばかりなので、右も左も分からない状況です。
【赴任の使い方】
- 東京から大阪へ、単身赴任をすることになった。
- 最初に、赴任の挨拶をするようにしてください。
- 海外でビジネスを行っている人が、赴任先から帰ってきた。
【新任の使い方】
- 本日付で、新任となった教師です。
- 新任の課長に仕事をすべて任せた。
- 新任の大使が来るまで待っていてください。
「就任」は、ビジネスや政治、スポーツなど幅広い分野で使うことができます。同じく、「新任」も広い分野に使うことができます。
対して、「着任」や「赴任」はほぼビジネスに対してしか使われません。注意しないといけないのは、これらの言葉は履歴書や職務経歴書などでも使うという点です。
例えば、「令和元年 〇〇店舗部長 着任」「令和2年 〇〇会社取締役 就任」といった表記です。これらの表記はそれぞれの違いを理解した上で使い分けるようにしてください。
まとめ
以上、本記事のまとめとなります。
「就任」=ある地位や役職につくこと。
「着任」=新しい勤務地に到着する。新しい勤務地で任務に着く。
「赴任」=任地へおもむくこと。
「新任」=ある職務に新しく任ぜられること。また、その人。
「就任」は高い地位に昇格する時に使い、移動をしません。一方で「着任」は移動をします。「赴任」に関しては単に「勤務地へ行くこと」です。「新任」は「新しい役職や役割につくことを強調した言葉」となります。
なお、「就任」の対義語は「辞任」もしくは「退任」です。両者の違いについては、以下の記事を参照してください。