「実存主義」という言葉をご存知でしょうか?
ニーチェやキルケゴール、サルトルなど
有名な哲学者によって広まった考えです。
哲学的な要素が強いため、
現代文や世界史・倫理の用語としてもよく登場します。
ただ、哲学となると難しい内容なため、
意味を分かりにくいと感じる人も多いようです。
そこで今回はこの「実存主義」について
なるべく簡単に分かりやすく解説しました。
さっそく、確認していきましょう。
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実存主義を簡単に
まず、「実存主義」の意味を調べると、
次のように書かれています。
【実存主義(じつぞんしゅぎ)】
⇒人間の実存を哲学の中心におく思想的立場。合理主義・実証主義に対抗しておこり、20世紀、特に第二次大戦後に文学・芸術を含む思想運動として展開される。キルケゴール・ニーチェらに始まり、ヤスパース・ハイデッガー・マルセル・サルトルらが代表者。実存哲学。
出典:デジタル大辞泉(小学館)
「実存主義」とは、簡単に言うと、
「人間一人一人の存在を大事にし、どう生きるか考えること」だと思って下さい。
一言で、「実存哲学」などと呼ばれることもあります。
始めに、「実存」の意味から解説していきます。
「実存」とは、
「現実存在(げんじつそんざい)」の略です。
「現実存在」とは、
「~~がある(いる)」と言う時の
「~~」の部分を指します。
これに対して、
「・・・は~~である」と言う時の「~~」は、
その「モノ」が何かを示すので「本質存在」と言います。
「本質」が普遍的・一般的な存在であるのに対し、
「実存」はそうした普遍性や一般性に収まらない
個別的・具体的・偶然的な存在のことを指します。
例えば、以下のような文があったとしましょう。
「山田君がいる。」
この場合、
「山田君」は「実存(現実存在)」です。
一方で、
「山田君はやさしい人だ。」
と言った時は、「やさしい人」は
「本質存在」となるのです。
なぜ実存が他のモノではなく人間を指すのかと言うと、
人間こそがもっとも個別的・具体的な存在だからです。
では、ここでもう一度辞書の説明を振り返ってみます。
「人間の実存を哲学の中心におく」
※「哲学」とは、
「物事の根本を考える学問のこと」だと思ってください。
「中心におく」とは、
「本質よりも実存を中心に置く」という意味です。
つまり、「やさしい人」のような本質ではなく、
「山田君」という存在自体を大事にしようという考えを言っているのです。
私たちは、
- 「あの人は優しい人だ」
- 「あの人は嫌な人だ」
- 「あの人は頭が固い人だ」
のようにすぐに人のイメージを決めてしまいます。
こうした考えは、
現に存在する「人」そのものを置き去りにした考えです。
人間が優しい動物だろうが嫌な動物だろうが、
現にそこに人は存在します。
であれば、「理想の人間の本質ばかりを求めるのではなく、
肝心の人間そのものをどう捉えるかが大事である。」
こうした考えが、「実存主義」なのです。
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サルトルが唱えた実存主義
ここまでの内容を整理すると、
「実存主義」=人間一人一人の存在を大事にし、どう生きるか考えること。
ということでした。
言いかえれば、「実存主義」とは、
「一人一人の良さや個性を尊重して生きていこう」
という考えを表します。
「実存主義」は、元々、哲学者である
「キルケゴール」や「ニーチェ」らが先駆者でした。
その後、同じく哲学者である
ヤスパース・ハイデッガー・マルセル・サルトルらによって、
一般的な思想として広まったという経緯があります。
特に、「サルトル(1905~1980年)」という哲学者をきっかけに、
「実存主義」は世に大きく広まりました。
「サルトル」が放った言葉で、非常に有名なものがあります。
それは、以下の言葉です。
「実存は本質に先立つ。」
「実存」とは、
先ほどの「山田君」のように
実際にそこに存在するものです。
一方で、「本質」とは、
「やさしい」「性格が悪い」など
「対象の性質のこと」でしたね。
つまり、「実存は本質に先立つ」とは、
「自分の本質は最初からあるのではなく、
一瞬一瞬の生き方が自分の本質を作り上げていく」
という意味なのです。
例えば、以下のような文があったとします。
- 菅義偉は総理大臣だ。
- 松本人志はお笑い芸人だ。
- 大谷翔平はメジャーリーガーだ。
いずれも世の中で活躍している有名人です。
しかし、
もしも「総理大臣」「芸人」「メジャーリーガー」
などの肩書き(本質)がなかったらどうでしょうか?
彼らは普通の人間と認識される可能性もあるでしょう。
そのため、
「まず実存が先にあり、本質は後からついてくるよ」
と言っているわけですね。
では、なぜ「サルトル」は「実存」をそこまで重視するのでしょうか?
さらに、詳しく見ていきましょう。
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実存主義が生まれた背景
「実存主義」が生まれた時代は、
「近代の後期」と言われています。
「近代」では、
「理性」や「合理性」を重視して人に価値を置く時代でした。
しかし、近代以前(前近代)は、
人ではなく「神が世界の中心」という時代でした。
言いかえれば、「人間を軽視していた」ということです。
人間を軽視すれば、個性や特徴は失われてしまいます。
そこで、個別・具体的な人間の存在を
尊重しようという考え(実存)が生まれました。
これが、「実存主義」という考えなのです。
時代の流れを整理すると、
「前近代(神が世界の中心)」⇒「近代(人間が世界の中心)」
⇒「個別・具体的な人間存在の尊重」⇒「実存主義」
となります。
つまり、「実存主義」とは「人間の存在・役割を大事にしよう」
という世の中の流れの中で生まれた考えだったということです。
今の世の中では、
「一人一人の存在を認める」
という考えは当たり前にも聞こえます。
しかし、昔はそうでもありませんでした。
例えば、
キリスト教やイスラム教の世界では哲学の中心は「神様」です。
決して人間ではありません。
ヒンズー教でも、哲学の中心は「修行僧」や「牛」です。
また、昔の日本でも哲学の中心は「天皇」でした。
意外に思うかもしれませんが、
「人間の存在が中心という考え」は当たり前ではなかったのです。
むしろ、歴史的・地理的に見れば、
個人が中心でない哲学のほうが普通でした。
「実存主義」は、神様や天皇ではなく、
人間一人一人の生き方を重視する考えです。
したがって、「実存主義」の根本には
「人間は自分自身の意思で、主体的な人生をつくれる」
という考えがあるのです。
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実存主義の使い方・例文
では、最後に「実存主義」の使い方を
実際の例文で確認しておきましょう。
- 実存主義は、人間の本来のあり方を実存に求める考えだ。
- 実存主義者は、実存がまずあり、本質は実存によって決まると主張する。
- ニーチェやキルケゴールは、実存主義の先駆者として知られている。
- 近代を象徴する考えとして生まれたものが実存主義である。
- 実存主義は前近代的な考えへの批判・反対から生まれた考えである。
- サルトルの実存主義は、実存は本質よりも前にあると考えた。
- 実存主義と構造主義は、お互いが正反対同士の思想である。
「実存主義」は、
近代的な内容をテーマとした文章に登場することが多いです。
その場合は、「構造主義」との
対比で用いられることが多いです。
「構造主義」については、以下の記事を参照してください。
「実存主義」は単体で覚えるのではなく、
「構造主義」と合わせて覚えておくことをおすすめします。
まとめ
以上、内容を簡単にまとめると、
「実存主義」=人間一人一人の存在を大事にし、どう生きるか考えること。
「語源・由来」=「ニーチェ・キルケゴール」らが先駆者。「サルトル」により大きく広まった。
「歴史・背景」=近代以降に、個別的な人間の存在を尊重しようとする流れから生まれた。
ということでした。
ポイントは、「実存主義」単体で覚えるのではなく、
当時の時代の流れを把握することですね。
大まかな時代背景が分かれば、
なぜ「実存主義」という考えが生まれたのか理解できるでしょう。
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国語力アップ.com管理人
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