「春眠暁を覚えず」という漢詩があります。あなたはこの言葉の本当の意味を知っているでしょうか?
実はこのセリフの後には、興味深い続きがあります。もしも正しい意味を理解できれば、明日からすぐに使ってみたくなることでしょう。
今回は「春眠暁を覚えず」の意味や由来、例文、口語訳などについて詳しく解説しました。
春眠暁を覚えずの意味・読み方
最初に、読み方と基本的な意味を紹介します。
【春眠暁を覚えず(しゅんみんあかつきをおぼえず)】
⇒春の夜はまことに眠り心地がいいので、朝が来たことにも気付かず、つい寝過ごしてしまう。
出典:デジタル大辞泉(小学館)
「春眠暁を覚えず」は、「しゅんみんあかつきをおぼえず」と読みます。
意味は「春の夜は眠り心地がいいので、朝が来たことに気づけずつい寝過ごしてしまう」という内容です。簡単に言えば、「気持ち良くて朝寝坊をしてしまう」ということです。
言葉の意味を補足すると、「春眠」は文字通り「春に眠ること」を意味します。
また、「暁(あかつき)」とは「明(あ)か時(とき)」が転じた言葉で、「夜明けの頃」という意味です。そして、最後の「覚えず」とは「知らないうちに」という意味です。
以上の事から、「春眠暁を覚えず」は「春の眠りは、夜明けの頃を知らされない」という意味になります。転じて、現在の「朝まで気持ちよく寝過ごしてしまう」という意味になるわけです。
私たちの普段の生活でも、季節によって寝心地の違いを感じると思います。例えば、夏は暑苦しいので当然寝づらいでしょう。クーラーなしでは夜中に目覚めてしまうほどです。
逆に、冬はどうでしょうか?「寒すぎて布団から出たくない」という人が大勢だと思われます。そういう意味では、「春」という季節は一番気候が快適で寝やすいです。ゆえに、気持ちよく寝てしまい、なかなか目が覚めない現象が起きるわけです。
春眠暁を覚えずの全文・漢詩
「春眠暁を覚えず」は、中国の詩人である「孟浩然(もうこうねん)」の「春暁(しゅんぎょう)」という詩が由来です。以下は実際の原文を抜粋したものです。
春眠不覚暁(しゅんみんあかつきをおぼえず)
処処聞啼鳥(しょしょていちょうをきく)
夜来風雨声(やらいふううのこえ)
花落知多少(はなおつることしるたしょう)
【現代語訳】
春の眠りは気持ちよく、夜明けが来たことも気づかなかった。
鳥のさえずりがあちこちから聞こえてくる。
昨日の夜中は激しい雨風が聞こえていたが、
花も多少落ちてしまったことだろう。
大まかな内容としては、「起床後にふと自然の風情を感じ取り、物思いにふける」といったものになっています。
つまり、元々は鳥の鳴き声や雨風の音、花びらが散る様子などを含めた話だったということになります。その中の一部に「春の心地よい眠り」があったため、現在の意味になったということです。
作者の「孟浩然」は若い頃から各地を放浪し、様々な人と交流を続けました。ところが、科挙の試験に失敗し一時は山に引きこもっていたそうです。
そんな中、40歳の時に彼の詩としての才能が認められるようになります。特に、自然を題材とした詩が評価され、自然詩人とも呼ばれるようになりました。これをきっかけに、日本の漢文の授業でも扱われるほど「孟浩然」は有名な作者になったわけです。
春はあけぼのとの違い
似たような言葉で「春はあけぼの」があります。「春はあけぼの」は、「清少納言」が書いた「枕草子」の中の一節です。
【原文】
春はあけぼの。やうやう白くなりゆく山際、少し明かりて、紫だちたる雲の細くたなびきたる。
【現代語訳】
春は夜が明ける頃がよい。(日が)だんだんと白くなり、山際も少し明るくなり、紫がかった雲が細く長引いている。
簡単に要約しますと、「春は明け方が一番よい」と言っていることになります。
この話には続きがあり、「夏は夜がよい」⇒「秋は夕暮れがよい」⇒「冬は早朝がよい」とつながっていきます。すわなち、「季節にはそれぞれ良い時間帯がある」ということを暗に示唆しているわけです。
ただし、「春はあけぼの」の場合は「眠り」については一切触れていません。この点が、「春眠暁を覚えず」との一番の違いと言えるでしょう。
逆に、共通点としては、「春の朝をほめている点」が挙げられます。「春眠暁を覚えず」は「春の夜明けが気持ち良くて眠りすぎてしまう」という意味です。
一方で、「春はあけぼの」も「春の夜明けの風景」に感心しています。そのため、どちらも「春の夜明けの心地よさ」を詠っている点は変わりません。
春眠暁を覚えずの使い方・例文
最後に、「春眠暁を覚えず」の使い方を例文で紹介しておきます。
- 春眠暁を覚えずとはこのことで、今日は寝過ごしてしまいました。
- 今日の息子は何度起こしてもダメだね。まさに春眠暁を覚えずだ。
- 春眠暁を覚えず?あなたは春に限らず夏も秋も起きないでしょ。
- 最近寝坊する人が多いね。春眠暁を覚えずとは言え呆れてしまうよ。
- 「春眠暁を覚えず」、今日は本当に気持ちよく寝ることができた。
- 春眠暁を覚えずの通り、この時期はウトウトしがちなので注意だ。
- 春眠暁を覚えずと言うが、私は常に変わらず早起きをしています。
「春眠暁を覚えず」は、良い意味、悪い意味のどちらの意味としても使うことができます。ただ、どちらかと言うと否定的な意味として使われることの方が多いです。
良い意味の場合は、春の夜の気持ち良さを強調するような際に使います。逆に、悪い意味の場合は朝寝坊をしてしまったり寝過ごして周りに迷惑をかけてしまったりするような際に使われます。
いずれにせよ、「春眠暁を覚えず」は春以外の季節には使いません。また、うたたねや昼寝などにも使わないのが特徴です。あくまでこの言葉は春の夜明け限定で使われるものと覚えておきましょう。
まとめ
以上、本記事のまとめです。
「春眠暁を覚えず」=春の夜は眠り心地がいいので、つい寝過ごしてしまう。
「語源・由来」=春の眠りは夜明けを知らされないことから。
「春はあけぼのとの違い」⇒「春はあけぼの」は「眠り」の意味は含まれない。
日本は四季が豊かな国です。この記事をきっかけに、季節を楽しむという意味で「春眠暁を覚えず」を使ってみてはどうでしょうか?