「主客転倒」という有名な四字熟語があります。ただ、具体的にどのような意味を持つか分かりにくい言葉でもあります。
また、似たような語で「本末転倒」があるので両者の違いも気になる所です。
そこで本記事では、「主客転倒」の意味や読み方、由来・類義語などを含め簡単にわかりやすく解説しました。
主客転倒の意味・読み方
最初に、読み方と基本的な意味を紹介します。
【主客転倒(しゅかくてんとう)】
⇒主な物事と従属的な物事が逆の扱いを受けること。物事の順序や立場などが逆転すること。
出典:三省堂 新明解四字熟語辞典
「主客転倒」は「しゅかくてんとう」と読みます。
「主客」は「しゅきゃく」とも読める熟語なので、「しゅきゃくてんとう」と読むことも可能です。ただ、一般的には「しゅかくてんとう」と読むことの方が多いです。
「主客転倒」とは「主な物事と従属的な物事が逆になること・物事の順序や立場が逆転すること」などを表した四字熟語です。
例えば、討論会などでは司会者と論者の立場が逆転してしまうようなことはよくあります。通常であれば討論を仕切る立場である司会者に従わず、パネラーである論者が逆に討論を仕切っているような状態です。
このような状態はまさに「主客転倒」と言うことができます。つまり、「主客転倒」とは物事の立場や人の役割などが逆になることを表した四字熟語ということになります。
なお、「主客」を「主格」と書くのは誤用なので注意してください。
「〇」⇒「主客転倒」「×」⇒「主格転倒」
主客転倒の語源・由来
「主客転倒」は、「主客」と「転倒」から成る四字熟語です。
まず、「主」という字は「主役」「主体」などの語があるように、「中心となる人または上下関係では上の人」を指します。そして、「客」は反対に「中心の周りにいる人または上下関係では下の人」を指します。
それが「転倒」、すなわち「ひっくり返ってしまう」ということです。
つまり、「主客転倒」という言葉は「中心人物と周辺人物の立場がひっくり返ること」あるいは「上の者と下の者がひっくり返ること」を表すことになります。転じて、「物事の順序や立場が逆転すること」という意味にあるわけです。
私たちの普段の生活でも、この「主客」という言葉は使われています。例を挙げますと、飲食店やバーの「主人」と「お客」です。
両者の関係が入れ替わってしまえば、とてもお店の経営は成り立ちません。「主客転倒」とは、そのような正反対な立場にいる人間が逆の関係になってしまうことを意味するわけです。
主客転倒の類義語
続いて、「主客転倒」の「類義語」を紹介していきます。
以上、五つの類義語を紹介しました。この中で最もよく使われるのが、「本末転倒」です。
「本末転倒」は同じ「転倒」という言葉が入っていますが、「主客転倒」とは意味が異なります。まず、「本末転倒」は物事の大事な部分とそうでない部分を取り違えることを表す四字熟語です。
例えば、テスト勉強をするために早く家に帰宅したのに、本来の大事な目的を忘れて家でゲームに夢中になってしまうようなことを「本末転倒」と言います。一方で、「主客転倒」は「大事な部分・大切な要素」というよりは、単に物事の順序や立場が逆転してしまうようなときに使われます。
また、「本末転倒」は否定的な使い方をするのが原則ですが、「主客転倒」は必ずしも否定的な使い方をするとは限りません。場合によっては、順序や立場が逆転するという事実のみを伝えるような使い方もします。この点が両者の違いだと言えます。
主客転倒の対義語
逆に、「主客転倒」の「対義語」としては次のような言葉が挙げられます。
「対義語」の場合は、「最初から最後まで論理が一貫していること・物事を大きな視点で見ること」などを表した言葉となります。使い方としては、「徹頭徹尾、反対の立場をとる」「大所高所から物事を考える」のように用います。
主客転倒の英語訳
「主客転倒」は、英語だと次のような言い方があります。
①「reversing the order of importance」(優先順位が逆になる)
②「mistaking the means for the end」(最後の手段を間違える)
①は直訳すると「重要性の順序が逆転すること」という意味です。
カードゲームで「順番が変わること」を「リバース」と言いますが、「reversing」はその「リバース」と同じ意味だと考えて問題ありません。そして、「order」は「順序」、「importance 」は「重要性」という意味です。
また、二つ目の英語は「最後のための手段を間違えること」という意味です。「mistaking」は「失敗・ミス」、「means」は「手段」、「end」は「最後」を表すことから、大事な順番が変わってしまったり手段を間違えてしまったりする意味を伝える表現となります。
例文だと、それぞれ次のような言い方です。
It is reversing the order of importance.(それは主客転倒である。)
She is mistaking the means for the end.(彼女のやり方は主客転倒だ。)
主客転倒の使い方・例文
最後に「主客転倒」の使い方を例文で紹介しておきます。
- 彼は家庭教師なのに生徒から色々と教えてもらっているらしいね。主客転倒も甚だしいよ。
- 主客転倒にならないように、今度のパーティーではちゃんと聞き役に回るようにしてください。
- 友人の誕生日会で得意の手品を披露する予定だが、主客転倒にならないように頑張ってくるよ。
- 彼女の主客転倒な振る舞いは本当に見苦しいね。社会経験が少ないとはいえ何とかならないものだろうか。
- あそこのレストランは味が良いが、主人がしゃべってばかりで料理を味わえなかった。まさに主客転倒だよ。
- 結婚式の披露宴に行ったら、新婦よりも目立って派手な格好をしている参列者がいたね。あれでは主客転倒だな。
- 大勢で議論をすると、司会者とパネラーの立場が逆転する主客転倒のような状態が起こることはよくある。
「主客転倒」は、すでに述べたように否定的な意味で使うことが多いです。相手に対してあきれた感情を抱いたり、情けないと感じたりしたときに使います。
また、場合によっては例文2や3のように「立場が逆転しないようにする」という予防策的な意味で使うこともあります。この場合はまだ立場が逆転していないので、必ずしもネガティブな要素が含まれるとは限りません。
ただし、この使い方をすることはまれなので、基本的には否定的な使い方をすると考えてよいです。
いずれにせよ、物事の本来の立場が逆転するのは望ましいことではありません。見ている人からすると、当然不快な感情になるでしょう。
したがって、もしもこの四字熟語を使っている人がいたら「嫌な感情を間接的に表しているのだな?」と察するのが自然な流れとなります。
まとめ
以上、本記事のまとめです。
「主客転倒」=物事の順序や立場が逆転すること。
「語源・由来」=主(中心人物)と客(周辺人物)の立場がひっくり返ることから。
「類義語」=「本末転倒・冠履転倒・舎本逐末・釈根灌枝・石が流れて木の葉が沈む」
「対義語」=「徹頭徹尾・大所高所」
「英語訳」=「reversing the order of importance」「mistaking the means for the end」
日常生活で「主客転倒」を感じることは意外とよくあります。人とのやりとりの中で立場が逆転しているような違和感を覚えた際は、ぜひこの四字熟語を使ってみましょう。