「思慮」と「思料」にはどのような違いがあるのでしょうか?
どちらも普段の文章やビジネスシーン、公文書など様々な場面で用いられています。さらに、似たような言葉で「思量」が使われることもあります。
今回は、これらの言葉の違いについて詳しく解説しました。
思慮の意味
まずは、「思慮」の意味からです。
【思慮(しりょ)】
⇒注意深く心を働かせて考えること。また、その考え。慮り。
出典:デジタル大辞泉(小学館)
「思慮」とは「注意深く心を働かせて考えること。その考え。慮(おもんぱか)り。」という意味です。簡単に言えば、「しっかりと考えること」を表します。
主な使い方としては、以下の通りです。
- 思慮が浅い人。
- 思慮が深い人。
前者は「よく考えずに行動する人」を、後者は「よく考えてから行動する人」を指します。つまり、考えの浅さや深さを表現するような場合に「思慮」を使うわけです。
一般的には「思慮が浅い人」は「無計画で後先を考えない」という否定的な意味で使います。一方で、「思慮が深い人」は「先のことを慎重に考える」という肯定的な意味で使います。
ここで注意すべきは、「思慮」には「思いやりがある」という意味は含んでいないということです。
漢字の成り立ちを見ると、「思いやり」の「思」+「配慮」の「慮」と書かれているので、「やさしくて気遣いができる人なのかな?」と勘違いしがちです。しかし、そのような意味は含まれていませんので注意して下さい。
思料の意味
続いて、「思料」の意味です。
【思料/思量(しりょう)】
⇒いろいろと思いをめぐらし考えること。思いはかること。
出典:デジタル大辞泉(小学館)
「思料」とは「色々と思いをめぐらし考えること」を意味します。例えば、以下のような使い方です。
- 裁判官が思料する。
- 弁護士が思料する。
- 検察官に思料される。
「思料」は、弁護士や裁判官など法曹関係者に対して使われることが多いです。一般人に対して「思料」を使うケースはほとんどありません。
なお、「思料」の他に「思量」という言葉もあります。読み方は「思料」とまったく同じで「しりょう」です。
多くの辞書では両者は同じ項目として載せられているため、「思量」は「思料」と同じ意味ということになります。
ただ、一般的には「思量」は使わない傾向にあります。また、辞書の原則として「先頭(左側)の漢字を優先的に使う」という暗黙のルールがあります。
この場合だと、先頭は「思料」の方なので、「思量の方は使わずに原則として思料を使う」と覚えて問題ありません。
思慮と思料の違い
ここまでの内容を整理すると、
「思慮」=注意深く心を働かせて考えること。慮り。
「思料」=色々と思いをめぐらし、考えること。
ということでした。
両者の違いは、二つの点から比較すると分かりやすいです。
一つ目は、「考える人と場面」です。
「思慮」は、一般人が普段の生活や仕事で考えるような場合に使います。一方で、「思料」は、法曹関係者が法律に関する仕事で考えるような場合に使います。
別の言い方をすると、「普通に考えるか、重苦しく固く考えるか」と言ってもいいでしょう。
「思料」の方は、難しい法律用語を使う裁判官などが登場する場合に使います。したがって、内容的にも堅苦しいものとなるのです。
そして二つ目は、「文法的な使い方」です。
「思慮」の方は、「思慮が浅い」「思慮が深い」など名詞的な使い方をします。一方で、「思料」の方は「思料する」「思料される」のように動詞的な使い方をします。
分かりやすく比較してみると、以下のようになります。
- 思慮が浅い⇒〇
- 思料する⇒〇
- 思慮する⇒×
- 思料が浅い⇒×
「思慮」の方は後ろに「~が」がつくことがほとんどですが、「思料」の方は「~する」「~される」などの動作がきます。これは名詞と動詞によって後ろの語に違いが生じてくるためだと言えます。
公文書の使い分け
一般的な用途以外、例えば、公的な文書では事情が異なります。役所などの公的な文書(公文書)では、「思料」はなるべく使わないようにしているようです。
代わりに、以下のような言い方が推奨されています。
「思料する。」 ⇒×
「考える・判断する・思う」⇒〇
「適当であると思料します。」⇒×
「適当であると考えます・適当であると判断します・適当であると思います」⇒〇
上記のルールは、各役所の「ことばの手引き」などに書かれています。役所における文書の役割は、国民に分かりやすく伝えることです。
その点において、「思料」は難しくて一般人にもなじみが薄い言葉だとも言えます。したがって、なるべく使わないようにしているということです。
一つだけ引っかかるのは、各役所では「思料」=「判断する」という意味も書かれていることです。この意味は、辞書にも書かれていないので困惑するでしょう。
しかし、その理由は両者の語源を比較すると納得できます。「思慮」の方はよく見るとどちらの漢字にも「思」という字が入っていますが、「思料」の方は「材料」の「料」という漢字が使われています。
ここから両者を比較すると、
「思慮」=(何回も思うほど)よく考える。「思料」=(材料を見て)よく考える。
がそれぞれの字義である事が分かります。
つまり「思慮」の方は単に熟考するのに対し、「思料」の方は「(データや情報などの)材料を見ながら考える」ということです。そのため、「思料」の方は「判断する」という動詞で言い換えることもできるのです。
なお、「思慮」に関しては公文書は特に言及されていないため、問題なく使うことができます。
使い方・例文
最後に、それぞれの使い方を例文で紹介しておきます。
【思慮の使い方】
- あなたの考えていることは、非常に思慮が浅いと言える。
- 彼の言動は思慮が浅く見えるが、実は計算されたものだった。
- 思慮に欠ける行動をしてしまい、申し訳ありませんでした。
- 彼女は思慮深い性格なため、行動する前にまず考えることが多い。
- 思慮の足りない言動は、極力控えるようにしてください。
【思料の使い方】
- 被告人の証言を思料すると、矛盾点が多く見受けられる。
- 裁判官は今回の事件を思料した結果、死刑を宣告した。
- 弁護士が思料することによって、冤罪の真犯人を特定できた。
- 今回の判決は、弁護側からは厳罰過ぎると思料された。
- 検察側が思料する証拠は、豊富にそろっていたようだ。
「思慮」の方は、主に普段の日常会話やビジネスシーンなどにおいて使われています。一方で、「思料」の方は弁護士や裁判官、検察官など法律に関する場面で用いられています。状況に応じて上手く使い分けるようにして下さい。
まとめ
以上、本記事のまとめとなります。
「思慮」=注意深く心を働かせて考えること。その考え。慮り。
「思料」=色々と思いをめぐらし考えること。思いはかること。
「使い分け」⇒「思慮」は一般人が普段の生活や仕事で使う(名詞的)。「思料」は法曹関係者が法律に関する場面で使う(動詞的)。
「公文書」⇒「思料する」ではなく「考えます・判断します・思います」などを使うようにする。
「思慮」は簡単に言えば「しっかりと考えること」です。対して、「思料」は「法律的に固く考えること」です。正しい意味を覚えて、両者を使い分けて頂ければと思います。