「虫」を使った慣用句は数多くあります。中でもよく使われるのが「虫がいい」という表現です。
でも、そもそもなぜ「虫」を使うのか考えたことはないでしょうか?実はこの言葉には興味深い由来があったのです。
本記事では、「虫がいい」の意味や由来、使い方、同義語などを詳しく解説しました。
虫がいいの意味・読み方
最初に、読み方と基本的な意味を紹介します。
【虫がいい(むしがいい)】
⇒自分の都合ばかりを考え、身勝手である。図々しい。
出典:三省堂 大辞林
「虫がいい」は、「むしがいい」と読みます。
意味は「自分の都合ばかりを考え、身勝手であること」を表したものです。
例えば、「働かずにずっと生きていきたい」などと発言した人がいたとします。普通に考えれば、人間は働かずに生きていくことなどは不可能です。
もしもそんな発言をすれば、周囲からは「自分のことしか考えていない」と思われても仕方ありません。このような場面では、「彼は虫がいい発言をした」などのように用いることができます。
つまり、「虫がいい」とは周りの事を考えず、自分の好きなように振る舞う様子を表す慣用句ということです。一言で、「ずうずうしい様子」と言い換えても構いません。
虫がいいの語源・由来
「虫がいい」の「虫」は、「三尸(さんし)」という虫のことを指しています。「三尸」とは中国の同教から伝わった教えで、昔から人間の体内にいたと信じられていた虫のことです。
とは言っても、実際に形のある虫がいたわけではなく、あくまで架空の話の中でのことです。ここで、「三尸」について簡単に触れておきます。
「上尸(じょうし)」⇒人間の頭の中にいて、首から上の病気を誘発したり金貨を好ませたりする。
「中尸(ちゅうし)」⇒人間の腹の中にいて、内臓の病気を誘発したり大食を好ませたりする。
「下尸(げし)」⇒人間の足の中にいて、下半身の病気を誘発したり色欲を好ませたりする。
つまり、この三匹の虫が人間の体に色々と悪さをするわけです。この三匹の虫たちは、体の内側から人間の食欲や物欲、色欲などを刺激し、病気を引き起こすという特徴を持っています。
そして、虫たちは人間の都合などお構いなしに、虫たちの都合良く好き勝手に活動をするとされていました。この虫の状態がいいということは、人間にとっては大変都合の悪いことです。
この事から、「虫がいい」=「自分の都合ばかりを考えて、都合がいいこと」という意味になったわけです。
現代のように医学の発展していなかった時代、昔の人々は言葉では説明できないような人の感情・行動などを目に見えない体の中の虫に例えていました。その虫こそが、「虫がいい」の由来ということになります。
虫がいいの類義語
続いて、「虫がいい」の類義語を紹介します。
類義語は「周りの事を考えずに、自分勝手である様子」を表したものとなります。「虫」という言葉を使わずとも、身勝手さを表す言葉は意外と多くあります。
その他、慣用句以外だと「都合がよい」「身勝手な」「図々しい」なども類義語に含まれます。これらの言葉は「虫がいい」とほぼ同じ意味なので同義語と言ってもよいでしょう。
虫がいいの英語訳
「虫がいい」は、英語だと次の2つの言い方があります。
①「selfish(自分勝手な・わがままな)」
②「asking too much(不当な要求をする)」
①の「selfish」は「わがままさ」や「身勝手さ」を表す形容詞です。また、②の「asking」は「求める」、「too much 」は「過度に」という意味です。合わせることで、「必要以上に何かを要求する」という訳になります。
例文だとそれぞれ以下のような言い方です。
He is a selfish man.(彼はわがままな男だ。)
I think you are asking too much.(君はちょっと要求しすぎな所があるよ。)
虫がいいの使い方・例文
最後に、「虫がいい」の使い方を例文で紹介しておきます。
- それはあなたにとって虫がいい話なので、訂正しなさい。
- 手伝いもせず夕食だけ食べに来るなんて君は虫がいい人だ。
- 楽してお金をもらおうなんて虫がいい。やめておきなさい。
- 横領をした役員が多額の報酬を貰うなんて、虫がいい話だね。
- 勉強しないで試験に合格するだって?ずいぶんと虫がいい話だね。
- あんなに怒らせておいて謝りもせず許してもらう?虫がよい話だ。
- 二日で10万円も儲けられる仕事なんて虫が良すぎる。やめた方がいいよ。
「虫がいい」は、自分勝手である様子を体に宿る悪い虫を使って例えた慣用句です。そのため、基本は否定的な意味として用いられます。
多くは、自分の欲望をむき出しにする人を批判するような場面で使います。この言葉を使う時は、相手がかなり図々しい人だと考えて問題ありません。
なお、使い方としては「虫のいい話」「虫のいい人」のように語尾に「話」や「人」が来ることが多いです。その他、「虫がいい」ではなく「虫が良すぎる」という言い方をすることもあります。後者の方が、より身勝手な様子を強調させた言葉となります。
まとめ
以上、本記事のまとめです。
「虫がいい」=自分の都合ばかりを考え、身勝手な様子。
「語源・由来」=人の欲は体の中に宿る悪い虫(三尸)によって操られているという言い伝えから。
「類義語」=「差し出がましい・千枚張りの面の皮・辺り構わず・土足で踏みにじる」
「英語訳」=「selfish」「asking too much」
人間は誰しも欲という名の虫を心に宿しています。しかし、何事も虫のせいにしていては意味がありません。最終的には自分自身の欲をうまくコントールできるのが望ましいと言えるのではないでしょうか。