「石部金吉」という四字熟語をご存知でしょうか?
漢字だけを見ると、誰かの名前を由来とする言葉かと思われます。もし名前だとしたら本当に実在する人物なのかどうかも気になる所です。
本記事ではそんな「石部金吉」の語源や使い方、類語・反対語などを含め詳しく解説しました。
石部金吉の意味・読み方
最初に、読み方と基本的な意味を紹介します。
【石部金吉(いしべきんきち)】
⇒非常にきまじめで物堅い人。特に、女色 (じょしょく)に迷わされない人。また、融通のきかない人物。
出典:デジタル大辞泉(小学館)
「石部金吉」は、「いしべきんきち」と読みます。
意味は「非常に生真面目で物堅い人・融通の利かない人」などを表したものです。主に女性に心を惑わされない人を対象することが多いです。
例えば、お酒やタバコ、ギャンブルなどに一切興味がなく、女遊びなどにも全く関心を示さない人がいたとしましょう。このような人は、生真面目で物堅い人なので「石部金吉な性格」だと言えます。
また、会社内で仕事を行っていて他の人の意見などは一切聞き入れない人がいたとします。たとえどんなに丁寧にアドバイスを行ったとしてもです。
このような人も頑固で融通が利かない性格なので、「石部金吉」だと言えます。
石部金吉の語源・由来
「石部金吉」は、「石部」と「金吉」の二つから成る四字熟語です。
「石部」とは「石」のことを指し、「金吉」とは「金属」のことを指します。「石」も「金属」もどちらも「非常に堅い物」です。
この堅いものを二つ並べて人の名前のようにすることで、「堅物な性格」を表す人物の四字熟語になったと言われています。つまり、この四字熟語は人によって作られた言葉、すなわち造語ということです。
「石部金吉」という人物が実在したわけではありません。もちろん、架空の人物として使われていたわけでもなく、モデルになった人がいるというわけでもないです。
「石部金吉」は、単に堅い物質の代表である「石」と「金属」を人名っぽくもじったことから生まれたのです。このように、言葉をもじることにより人の名前のようにすることは昔から行われていました。
例えば、「骨皮筋衛門(ほねかわすじえもん)」という言葉があります。「骨川筋衛門」とは骨と皮と筋しかないほどガリガリに痩せ細った人を人名のようにもじったものです。
「石部金吉」の語源もこれと同じようなものだと考えて問題ありません。
なお、「石部金吉」という言葉自体は江戸時代からすでに使われていたようです。江戸時代の歌舞伎『五大力恋緘(ごだいりきこいのふうじめ)」には、次のような一節があります。
「菊野さんは石部金吉」
また、同じく江戸時代の浮世草子である『世間妾形気(せけんかけかたぎ)』にも次のような一節があります。
「いまだ四十に足らぬ人物なれども物堅きこと石部金吉にて、忠義専らの武士」
どちらの用例も現在使われている「石部金吉」と同じ意味で使われています。今から何百年も前の当時の武士たちの中にも堅物過ぎる性格の人がいたということが分かるでしょう。
石部金吉の類義語
続いて、「石弁金吉」の「類義語」を紹介します。
基本的なイメージとしては、「頭が固い・頑固・融通が利かない」といった意味の言葉となります。
ただ、「石部金吉」には「女色 に迷わされない」という意味が含まれているため、「同義語」というのは存在しません。
その他、ことわざ(慣用句)だと「木仏金仏石仏(きぶつかなぶついしぼとけ) 」も類義語に含まれます。「木仏金仏石仏」とは「融通の利かない人・人情の薄い人」といった意味です。感性の鈍い人を仏像に見立てて表現からできたことわざです。
なお、「石部金吉」をさらに強調した言葉で「石部金吉金兜(いしべきんきちかねかぶと)」があります。これは堅物の「石部金吉」に対して、さらに堅い金の兜をかぶせた様子を表した言葉です。普通の堅物ではなく、極端に堅物な人に対して使われます。
石部金吉の対義語
逆に、「対義語」としては次のような言葉が挙げられます。
いずれの言葉も「状況に応じて対応が変わる」という意味が含まれています。この中だと「融通無碍」が反対語として最も意味が近いと言えるでしょう。
「融通」とは仏教用語で「異なるものが一つに混ざること」、そして「無碍」とは「妨げるものがないこと」という意味です。両者を合わせることで、「融通が利かせて処理をする」という意味になります。
石部金吉の英語訳
「石弁金吉」は、英語だと次のように言います。
「man of incorruptible character」
直訳すると、「清廉な性格の男」という意味になります。「incorruptible」は「不朽の・腐敗しない」などの訳がありますが、ここでは「清廉な」という意味で使われています。「物事が腐らない」=「綺麗な心の持ち主」ということです。
また、別の表現だと「man of strict morals」なども可能です。
こちらは「厳しい道徳心を持った男」という訳です。「strict」は「厳しい・厳格な」、「moral」は「道徳心」という意味なので上記のような訳となります。
英語の場合は「石(stone)」や「金(gold)」を使うのではなく、その人の性格に焦点を当てた表現を用います。
石部金吉の使い方・例文
最後に、「石部金吉」の使い方を例文で紹介しておきます。
- あの人は浮気の噂を一切聞いたことがない。まるで石部金吉のような男だ。
- 父は石部金吉な性格なので、仕事が終わった後はまっすぐ家に帰宅します。
- 石部金吉金兜のような人物は、今の世の中では大変珍しいと言っていい。
- 兄は競馬やカジノなどのギャンブルには全く興味がない石部金吉な性格です。
- 石部金吉の彼には、彼女が何を話しているのかよく理解できなかったようだ。
- どんなに遊びに誘っても彼は一切応じない。石部金吉な性格なのは間違いない。
- いつも自分のやり方ばかりを押し通す石部金吉な人物は勘弁してほしいです。
「石部金吉」は、上記のように人の性格を表すような場面で使われます。
主に「女性に心を惑わされない人」「金銭などに左右されない人」といった人物を対象とすることが多いです。この意味で使う場合は、少々からかう気持ちが込められることもありますが、基本的には良い意味として使うのが特徴です。
一方で、6や7の例文のように悪い意味として使うこともあります。この場合は、「頑固で融通が利かない人」「頭が堅苦しい人」といった否定的な意味となるので注意が必要です。
なお、「石部金吉」は男性に対して使うのが原則です。古くは女性に使っていたという例もありますが、現在では女性に使うことはまずありません。この言葉は語尾に「吉」が入っているように男性をイメージした四字熟語なので、基本は男性に対して使うようにして下さい。
まとめ
以上、本記事のまとめです。
「石部金吉」=非常に生真面目で物堅い人・融通の利かない人。女色に惑わされない人。
「語源・由来」=「石」と「金属」という堅い物質を人の名前にもじったことから。
「類義語」=「杓子定規・四角四面・謹厳実直・頑固一徹・馬鹿正直」
「対義語」=「融通無碍・臨機応変・変幻自在」
「英語訳」=「man of incorruptible character」「 man of strict morals」
「石部金吉」は人の名前のようにも見えますが、実在した過去の人物というわけではありません。あくまで「石」・「金属」という二つの物資から作られた造語だと覚えておきましょう。