「不可逆性」という言葉をご存知でしょうか?
語尾を「的」に変えて「不可逆的」とも言います。ニュースや新聞などでもよく用いられている表現ですが、イメージがわきにくいと感じる人も多いと思われます。
そこで本記事では、「不可逆性」の意味や使い方、例文、類義語などをなるべく簡単に解説しました。
不可逆性の意味・読み方
まず、この言葉の意味を辞書で引いてみます。
【不可逆性(ふかぎゃくせい)】
⇒可逆的でないこと、元と全く同じ状態に戻すことができないこと。「不可逆」は「可逆」に対する語で、元に戻せないことを指す。
出典:実用日本語表現辞典
「不可逆性」は「ふかぎゃくせい」と読みます。意味は、「元と全く同じ状態に戻せないこと」です。
例えば、ガラスのビンを床に落としてしまい、粉々に割れてしまったとしましょう。割れてしまったビンは、もう二度と同じ形に戻すことはできません。このような状態は、まさに「不可逆性」だと言えます。
あるいは具体的な形がないものも当てはまります。代表的な例としては「時間」が挙げられるでしょう。
時間は常に流れているので、過去に戻ることはできません。どんな人であっても昨日や1年前というのは、二度と取り戻すことができません。したがって、「時間」は不可逆性を持っていると言えるのです。
その他には、体の成長や老化なども「不可逆性」に当てはまります。人間は日々成長と老化をしていきます。身長が伸びた子供が、逆に下がりだすなんてことはありません。
大人になってからも日々私たちは年を重ねて老化が進んでいます。そういう意味では、「不可逆性」とは「過去に戻れないこと」とも定義することができます。
不可逆性の語源・由来
「不可逆性」という言葉で注目すべきは、「可逆(かぎゃく)」です。「可逆」とは「元に戻ることができる状態」のことです。
例えば、「水」は冷凍庫に入れると「氷」になりますが、逆に「氷」は冷凍庫から出して外に出すと「水」になります。
「水」と「氷」、どちらも元の状態に戻ることができます。このような性質を「可逆」と呼ぶのです。
「可逆」は主に化学反応に用いられる言葉で、「いったん変化させたものを逆にした時に、再び元のように変化すること」を表します。
また、「可逆性」の「性」ですが、これは「性質」の「性」と同じ漢字です。主に物事の特徴などを表す時に使われるものです。
そして、頭の「不」ですがこれは「不足」「不可」などの語があるように「否定・打消し」の意味があります。以上の言葉を合わせることで、「不可逆性」=「元に戻れない状態」という意味になるわけです。
なお、「可逆」及び「不可逆」という言葉の由来は、現在の所まだ分かっていません。
ただ、物理学の観点から言うと、熱力学の状態量で「エントロピー」があり、ある条件下での不可逆性の指標を表したものがあります。これはドイツの物理学者であるクラウジウスが1865年に提唱したものです。
したがって、少なくとも日本では明治以降の近代までには導入されていた言葉ではないかと推測されています。
不可逆性の類義語・対義語
「不可逆性」の「類義語」は以下の通りです。
以上、6つの類義語を紹介しました。
「不可逆的」「非可逆性」に関して触れておきますと、まず「不」の方は「~でない」「~がない・~に欠けた」「~しない・~していない」など否定的な意味を持ちます。
これと同じ使い方としては、「不健康・不道徳・不安定・不合格」などが挙げられます。
対して、「非」の方は「それに該当しない・それ以外である」など限定的な意味を持ちます。
【例】⇒「非公開・非常識・非売品」など。
要するに、「不」と「非」の違いは、「否定で使うか限定で使うか?」ということです。ただ、実際には両者の違いはそこまで意識されて使われることはありません。
語によっては、「不」しか付かないもの、「非」しか付かないもの、あるいは両方付くものなどがありますが、一般には「不」を付けるものの方が多いです。
今回紹介した類義語の中では、「後の祭り」や「覆水盆に返らす」の方が多く使われるので、「非可逆性」よりはこちらの2つを覚えておく方がよいでしょう。
なお、「不可逆性」の「反対語」は「可逆性」と言います。
これはすでに説明したように、「元の状態に戻ることができること」を意味します。「水」と「氷」以外の例だと「パソコンのデータの修復作業」などが「可逆性」に当てはまります。
不可逆性の英語訳
「不可逆性」は、英語だと次のように言います。
「irreversibility(不可逆性)」
実際に使う場合は「irreversibility」単独でも使えますが、「the irreversibility of~」という形で使われることが多いです。
The irreversibility of time does not change.(時間の不可逆性は変わらない。)
This experiment proved the irreversibility of matter.(今回の実験で物質の不可逆性を証明した。)
It is a product that maintains the irreversibility of the substance.(物質の不可逆性が保たれた商品である。)
その他、「不可逆的」だと「irreversible」を用います。
The chemical reaction was irreversible.(化学反応が不可逆的であった。)
不可逆性の使い方・例文
最後に、「不可逆性(的)」の使い方を例文で紹介しておきます。
- 時間の不可逆性は全人類が共通して認識しているものである。
- 人間は常に「老い」という不可逆性を持つものと戦ってきた。
- 男女の仲は一度別れたら復縁しないという不可逆性のようなものがある。
- タバコや酒は一度味わうと戻ってこれない不可逆性に近いものを持っている。
- 両国の首脳は、最終的かつ不可逆的な合意をすることで話がまとまった。
- 刺激の強い紫外線は、目や皮膚に対し不可逆的な損傷を与えるので注意が必要だ。
「不可逆性」及び「不可逆的」という言葉は、上記のように様々な使い方をすることができます。
化学を対象とした言葉と思われがちですが、実際には化学限定に使われるというわけではありません。男女の人間関係や、政治、ビジネスなど様々な対象に使うことが可能です。
「元に戻らないもの」「同じ形に修復しないもの」であれば、それは不可逆性を持っていると言えます。
まとめ
以上、今回のまとめとなります。
「不可逆性(ふかぎゃくせい)」=元と全く同じ状態に戻せないこと。
「語源・由来」=「可逆性(元に戻る性質)」に「不」をつけて否定することから。
「類義語」=「不可逆的・非可逆性・後の祭り・修復不可・再起不能・覆水盆に返らず」
「英語訳」=「irreversibility(不可逆性)」「irreversible(不可逆的)」
「不可逆性」は時間や年齢など元に戻らない性質を表す言葉です。その他、モノや人間関係など幅広い対象にも使われています。この機会にぜひ使い方を覚えてみてはいかがでしょうか?