「通時的」と「共時的」は、現代文の用語として使われる言葉です。また、言語学の分野で使われることもあります。
ただ、どちらの言葉も意味が分かりにくいと感じる人が多いようです。そこで今回は、「通時的」と「共時的」の意味をなるべく簡単にわかりやすく解説しました。
後半では、「類義語」や「対義語」などにも触れています。
通時的の意味
まずは、「通時的」の意味からです。
【通時的(つうじてき】
⇒言語学者ソシュールの用語。関連する複数の現象や体系を、時間の流れや歴史的な変化にそって記述するさま。
出典:デジタル大辞泉(小学館)
「通時的」とは「時間や歴史の流れによって変化を見ること」を意味します。
分かりやすい例を挙げましょう。
「文化」というのは、歴史的に見て様々な変化がありました。例えば、食べ物・住居・宗教などの変化です。
これらの文化を実際に研究するとなった場合、様々な方法があります。その中の一つとして、「歴史的な流れの中で文化を調べる」という方法があります。
日本で言えば、「江戸→明治→大正→昭和→平成」のように、歴史の流れに沿って研究するのです。
このような研究方法は、まさに「通時的な研究」と言うことができます。なぜなら、時間の流れによって変化を見ているからです。
つまり、物事を歴史的に縦に見ることを「通時的」と呼ぶわけです。
共時的の意味
続いて、「共時的」の意味です。
【共時的(きょうじてき)】
⇒言語学者ソシュールの用語。時間の流れや歴史的な変化を考慮せず、一定時期における現象・構造について記述するさま。
出典:デジタル大辞泉(小学館)
「共時的」とは「変化ではなく、固定的な構造を見ること」を意味します。
こちらも先ほどと同じ「文化」を例にして説明します。
文化について調べる場合、「共時的な研究」というのは「ある一定の時代を調べる」という意味になります。
例えば、「江戸時代なら江戸時代の文化」「縄文時代なら縄文時代の文化」といった感じです。
仮に、江戸時代の文化を調べるとなった場合、明治や昭和など他の時代の文化については考慮されません。あくまで、江戸時代限定です。
江戸時代という固定された時代の中で、どのような文化があったかを幅広く調べます。
このように、物事を同時代の横の関係で見ることを「共時的」と呼ぶことになります。
通時的と共時的の違い
ここまでの内容を整理すると、
「通時的」=時間や歴史の流れによって変化を見ること。
「共時的」=変化ではなく、固定的な構造を見ること。
ということでした。
つまり両者の違いを簡単に言うと、物事を時間の縦軸で見るのが「通時的」、物事を時間の横軸で見るのが「共時的」ということになります。
「通時的」は、「時間を通す」と書きます。つまり、時間を通すように過去にさかのぼって物事を見るのです。
一方で、「共時的」は「時を共有する」と書きます。よって、こちらは同じ時代や同じ時間を共有することによって物事を見るのです。
イメージの仕方としては、
「通時的」=「時間的な広がり・歴史」
「共時的」=「空間的な広がり・地理」
と覚えると分かりやすいです。
どちらも広がりがありますが、「通時的」は「過去」→「現在」→「未来」のように時間的に広がる見方です。一方で、「共時的」はアジア・ヨーロッパ・アフリカなど地理的に広がる見方です。
当然、両者はお互いが「対義語」同士という関係になります。
なお、似たような言葉として「通時態」と「共時態」があります。
「通時態(つうじたい)」とは「言語のあり方を時間軸に沿ってとらえる状態」という意味です。
そして、「共時態(きょうじたい)」とは「ある言語の特定時点における状態」という意味です。
どちらも「ソシュール」という学者の用語で、言語学を扱った文章に出てきます。
通時的・共時的の類義語
「通時的・共時的」の類義語としては以下のような言葉が挙げられます。
【通時的の類義語】
「経時的(けいじてき)」⇒時間の経過をたどるさま。
「縦断的(じゅうだんてき)」⇒物事を縦方向にとらえるさま。
【共時的の類義語】
「横断的(おうだんてき)」⇒物事を横方向にとらえるさま。
「構造主義(こうぞうしゅぎ)」⇒全体の大きな枠組みの中で、個々のものをとらえる考え方。
この中でも「構造主義」は入試現代文でよく登場する用語なので確認しておくことをおすすめします。
「構造主義」については、以下の記事を参照してください。
なお、「同義語」としては以下の2つが挙げられます。
「通時的」⇒「時間的」「共時的」⇒「空間的」
「同義語」の場合はほぼ同じ意味として使われると考えて問題ありません。
通時的・共時的の英語訳
「通時的」と「共時的」は、英語だとそれぞれ次のように言います。
- 「diachronic(通時的)」
- 「synchronic(共時的)」
用例も紹介しておきます。
- 「diachronic change (通時的変化)」
- 「diachronic research (通時的研究)」
- 「diachronic identity(通時的同一性)」
- 「synchronic comparison (共時的比較)」
- 「synchronic research(共時的研究)」
- 「synchronic imitation(共時的模倣)」
使い方・例文
最後に、それぞれの使い方を実際の例文で確認しておきましょう。
- 通時的な方法によって、過去の歴史を詳しく調査する。
- 伝統というのは、先人たちの風習を通時的に真似することである。
- 世界史は通時的な勉強だけではなく、共時的な勉強も必要である。
- 共時的な方法によって文明を調べると、新たな発見ができるものだ。
- 彼は当時のヨーロッパにおける共時的言語学について研究した。
- 日本語を通時的に考えると様々に変化してきた言語と言えるが、共時的に考えれば国内に様々な方言が存在する言語と言える。
※「共時的言語学」とは「歴史的考察を排除して、ある言語の一時期を調べる学問」のことです。
まとめ
以上、本記事のまとめとなります。
「通時的」=時間や歴史の流れによって変化を見ること。
「共時的」=変化ではなく、固定的な構造を見ること。
「類義語」=「経時的・縦断的・時間的」「横断的・構造主義・空間的」
「英語訳」=「diachronic」「synchronic」
「通時的」は「縦軸で見ること」、「共時的」は「横軸で見ること」です。正しい意味を理解した上で、実際の文章を読んで頂ければと思います。