「着服」と「横領」にはどのような違いがあるのでしょうか?両方とも窃盗や詐欺などの事件が起こった際によく使われているイメージの言葉です。
ただ、具体的にどう使い分ければいいのかという問題があります。そこで今回は、「着服」と「横領」の違いについて詳しく解説しました。
着服の意味
まずは、「着服」の意味からです。
【着服(ちゃくふく)】
①衣服を着ること。
②金品などをひそかに盗んで自分のものにすること。
出典:デジタル大辞泉(小学館)
「着服」とは「金銭などをひそかに盗んで自分のものにすること」を意味します。簡単に言えば、「ネコババすること」だと考えて問題ありません。
厳密に言うと「ネコババ」は主に会話に使われる表現で、落とし物や拾い物を警察に届けずに自分の物にしてしまうようなことを指します。
対して、「着服」は主に文章中で使われる表現で、落とし物よりも「公金」などを盗むことを指します。「公金」とは「組織が扱う金銭のこと」です。
例えば、コンビニ店員であれば「レジのお金を盗むこと」、銀行員であれば「金庫のお金を盗むこと」といった行為です。このような、自分の身近にあるお金をこっそりと盗むようなことを「着服」と言うわけです。
ここで大事なのは、「着服」は「法律用語」ではなく「一般用語」ということです。したがって、「着服罪」などの罪名は厳密には存在しないことになります。
横領の意味
続いて、「横領」の意味です。
【横領(おうりょう)】
⇒他人または公共の物を不法に自分の物とすること。
出典:デジタル大辞泉(小学館)
「横領」とは「他人または公共の物を不法に自分の物とすること」を意味します。
よくある例としては、会社から支給されたものを盗むような行為です。会社というのは、仕事に必要な様々なものを支給してくれます。
- 携帯電話
- 営業車
- 作業服
- 文房具
上記のものは、一応は自分の管理下にありますが、法律上は「他人(会社)のもの」だと言えます。
このような、自分の管理下にある他人の物を不法に盗むことを「横領」と言うわけです。
ここで大事なのは、「横領」は「法律用語」ということです。「横領」は、刑法では以下のように記述されています。
【単純横領罪(刑法第252条)】
⇒自己の占有する他人の物を横領した者は、5年以下の懲役に処する。
【業務上横領罪(刑法第253条)】
⇒業務上自己の占有する他人の物を横領した者は10年以下の懲役に処する。
「自己の占有」とは「自分が支配や管理をしている」という意味です。先ほど挙げた会社の支給物などが、「自己の占有する他人の物」に該当します。
この他には「遺失物等横領罪」などもあります。「遺失物(いしつぶつ)」とは簡単に言うと「落とし物」のことです。つまり、落とし物を盗んでも「横領罪」に当たるわけです。
ちなみに、「横領」は「窃盗」とは異なる用語なので注意して下さい。「窃盗」とは「他人の管理下にある他人の物を盗むこと」です。一方で、「横領」とは「自分の管理下にある他人の物を盗むこと」です。
着服と横領の違い
ここまでの内容を整理すると、
「着服」=金銭などをひそかに盗むこと。「横領」=自分の管理下にある他人のものを盗むこと。
ということでした。
両者の違いを、二つの点から比較したいと思います。
一つ目は、「盗む対象の違い」です。
「着服」は、主に金銭を盗む時に使います。一方で、「横領」は金銭に限らず携帯や服など幅広いものを盗む時に使います。
極端な話、「横領」は土地や建物などの不動産を不法に入手するような時にも使います。しかし、「着服」の方はこのような金銭以外の財産には使いません。
二つ目は、「法律上の違い」です。
すでに述べた通り、「着服」は「一般用語」なのに対し、「横領」は「法律用語」ということでした。
つまり、盗む行為を一般的に「着服」と言い、それによって発生した罪を法律的に「横領」と言うのです。
「着服」というのは、抽象的な言葉です。そのため、法律上にどのような罪かということが明確に記載されていません。したがって、「横領罪はあるが、着服罪はない」と言うこともできます。
補足すると、「着服」は「ひそかに盗む」という意味合いで使われることが多いです。例えるなら、自分の身近な金銭をマジシャンのように盗むイメージです。
一方で、「横領」の方は地位や権力を利用して、力づくで他人の物を盗むような時に使うことが多いです。できれば、このようなイメージの違いも頭に入れておくとよいでしょう。
使い方・例文
最後に、それぞれの使い方を実際の例文で紹介しておきます。
【着服の使い方】
- アルバイト店員にレジのお金を着服されていた。
- 彼は会社の売上金を着服した疑いが持たれている。
- 市の職員による生活保護費の着服が明らかになった。
- そのお店は偽の領収書を発行し、売上を着服していた。
- 今回の事件以降、従業員の着服を防止する対策がとられた。
【横領の使い方】
- 会社の所有物を盗んだので、横領罪に当てはまる。
- 5億円の資産を横領した事件の犯人が逮捕された。
- 彼は父親の不動産を横領している可能性が高い。
- 業務上横領罪を犯すと、10年以下の懲役になる。
- 横領罪により、刑事告訴されることになった。
「着服」は、会社内にあるお金をこっそりと盗むような際に使われます。対して、「横領」は会社の所有物や財産などを不当に所有するような際に使われます。「横領」は法律用語なので、当然、刑法などの罪が課されるものとなります。
まとめ
以上、本記事のまとめです。
「着服」=金銭などをひそかに盗んで自分のものにすること。
「横領」=他人または公共の物を不法に自分の物とすること。
「違い」⇒「着服」は盗む行為を一般的に表した言葉で金銭が多い。「横領」は盗んだ罪を法律的に表した言葉で財産が多い。
「着服」は、金銭をひそかに盗むような行為を表します。対して、「横領」は財産を力づくで盗むような行為を表します。両者の正しいイメージを理解した上で使用して頂ければと思います。