『なぜに答えられない科学』は、現代文の教科書で学ぶ評論です。ただ、実際に文章を読むと筆者の主張が分かりにくい箇所もあります。
そこで今回は、『なぜに答えられない科学』のあらすじや要約、テスト対策などを含め簡単に解説しました。
『なぜに答えられない科学』のあらすじ
本文は、大きく分けて3つの段落から構成されています。ここでは、各段落ごとのあらすじを簡単に紹介します。
①現在の自然科学の目標は、対象たる物質を所与のものとして、その起源・構造・運動・変化の法則性を明らかにすることにある。科学者は「法則がなぜそのようになるのか」という問いに答えようとしているわけではなく、「そのようになっていることを証明しようとしている」だけである。なぜ、という問いかけに答えることはできず、「そうなっている」としかいえないのだ。あるいは、自然の存在や自然が従っている法則を、神の証と考える科学者もいる。
②キリスト教世界の西洋に発した近代科学は、自然を研究することは、神の意図を理解し、神の存在証明をするための重要な作業と考えてきた。ところが、時代を重ねるにつれ、神の御業と思われてきた様々な現象が「物質の運動」で説明でき、神の助けがなくても構わないことが分かってきた。そして、科学者は「なぜ」の問いかけに答えられないときは、神を巧妙に利用するようになった。
③科学者が神を持ち出すのは、科学は全知ではない人間の営みに過ぎないことを思い出させるためである。仮託した神に法則の正しさ(誤り)をお伺いしているのだ。仮託した神はそれぞれ異なるため、異なったご託宣が出ることにもなる。科学の法則には必ず適用限界があり、「絶対」と信じこんではいけないのだ。
『なぜに答えられない科学』の要約&本文解説
筆者は、「科学」は「なぜ」には答えられない、と言います。科学者は事物を証明しようとすることはできるものの、その理由については答えられないということです。
例えば、「私たちが住む空間はなぜ三次元なのか?」「なぜ光の速さは秒速30万キロメートルなのか?」といった理由は、頭の良い科学者であっても明確に答えることはできません。「そうなっているから」としか言えないのです。
つまり、どんなに科学を分析して研究したとしてもこの世の中には理由が分からない現象というのが存在するのです。科学者もその事には気付いているため、自然の法則を神の証(あかし)だと考える科学者もいます。
そもそも、科学は西洋で誕生しましたが、西洋というのはキリスト教が誕生した地でもあります。そのため、西洋では自然というのは神が作り出したものだと信じられていました。
ところが、時代が進むにつれ、科学は「神はこの世にはいない」と結論付けるようになります。とはいえ、科学者は「なぜ」という理由の部分は答えられないため、神を利用するようになります。
例えば、実験を通じて新しい理論を見つけたとしても、一つでも矛盾する実験事実が発見されると、その理論は間違いだと否定されるため、その理論が正しいかどうかという完全な証明は不可能です。そこで科学者は、この事を「神のみぞ知る」と表現したりします。
このように、科学者は「科学=全知ではない人間の営み」だと知っているため科学の世界に神を持ち出すということです。
最終的に筆者は、科学の法則には必ず限界があるので、絶対的なものだと信じるのをよくない、という結論で締めくくっています。つまり、科学でこの世の中のすべてを解き明かすことは不可能なので、科学を盲目的に信じるのは危険だということです。
全体を通して筆者が主張したいことは、最後の一文に集約されています。これは結論でもあり、読者への問題提起でもあると言えます。
『なぜに答えられない科学』の意味調べノート
【科学(かがく)】⇒体系的な知識。広い意味では「知識や学問」を指し、狭い意味では「自然科学」を指す。「自然科学」とは自然について研究する学問のこと。
【唯物論(ゆいぶつろん)】⇒物質をすべての根源とする考え。
【念頭(ねんとう)】⇒胸のうち。心の中。
【絶妙(ぜつみょう)】⇒この上なく巧みですぐれていること。
【御業(みわざ)】⇒神のなせる業を敬って言う表現。
【所与(しょよ)】⇒与えられるもの。
【運動(うんどう)】⇒物体が時間の経過につれて、空間位置を変えること。
【万有引力(ばんゆういんりょく)】⇒すべての物体の間に普遍的に作用する引力。重力。ニュートンが発見した。
【ニ乗(にじょう)】⇒同じ数を二回かけ合わせること。
【神の証(かみのあかし)】⇒神がいることの証明、証拠。
【むろん】⇒言うまでもなく。もちろん。
【無神論者(むしんろんしゃ)】⇒宗教を持たない人たち。
【黎明期(れいめいき)】⇒夜明けにあたる時期。新しい時代や文化などが始まろうとする時期。
【矛盾(むじゅん)】⇒二つの物事が食い違い、つじつまが合わないこと。
【不遜(ふそん)】⇒思い上がっていること。へりくだる気持ちがないこと。
【神の死(かみのし)】⇒ドイツの哲学者であるニーチェの言葉。キリスト教的価値観の崩壊を意味する。
【錯覚(さっかく)】⇒思い違い。勘違い。
【巧妙(こうみょう)】⇒すぐれて巧みであること。
【確率論(かくりつろん)】⇒確率の一般法則を研究する数学の一部門。
【先験的(せんけんてき)】⇒ カント哲学の用語で、「超越論的」という意味。対象にかかわるのではなく、先天的に可能な限りでの対象の認識のしかたに関する認識。
【検証(けんしょう)】⇒物事に実際に当たって調べ、仮説などを証明すること。
【おじゃん】⇒物事が途中でだめになること。不成功に終わること。
【挙動(きょどう)】⇒動作。
【仮託(かたく)】⇒他の物事を借りて言い表すこと。かこつけること。※「かこつける」とは、直接には関係しない他の事と無理に結びつけて、都合のよい口実にする。他の物事のせいにする、などの意。
【微視的(びしてき)】⇒人間の感覚で識別できないほど微細であるさま。
【全知(ぜんち)】⇒あらゆる全てのことを知っていること。
【ご託宣(たくせん)】⇒神のお告げ。ありがたい仰せ。
【パラドックス】⇒逆説。
【盲点(もうてん)】⇒うっかりして人が気づかず見落としている点。
【賭博(とばく)】⇒金銭や品物を賭けて争う勝負事。
【堕落(だらく)】⇒物事が本来あるべき正しい姿や価値を失うこと。また一般に、不健全になること。
【八百万の神(やおよろずのかみ)】⇒たくさんの種類の神々。「八百万」とは「非常に数が多いこと」という意味。
『なぜに答えられない科学』のテスト対策問題
次の傍線部の仮名を漢字に直しなさい。
①ネントウにはない。
②ゼツミョウな演技。
③ショヨの条件を考える。
④キョドウがあやしい。
⑤ダラクした生活。
次の内、本文の内容を表したものとして適切でないものを選びなさい。
(ア)科学者は「なぜ」の問いかけには答えられないため、神を巧妙に利用する手を編み出すことになった。
(イ)少なくとも近代科学の黎明期においては、神の存在と自然科学はなんら矛盾した関係にはなかった。
(ウ)量子論の創始者たちは、微視的世界は確率論的な理論で過不足なく説明できるため、サイコロ遊びが好きな神を受け入れればよいと考えた。
(エ)科学者が神を持ち出すのは、科学を理解するには神の意図を理解し、神の存在証明をする必要があるからだと言える。
まとめ
以上、今回は『なぜに答えられない科学』について解説しました。難解な評論ですが、一つ一つの文はそれほど難しいことを言っているわけではありません。ぜひ正しい読解をして頂ければと思います。