自動車や鉄道などのことを、「車両」もしくは「車輌」と言います。さらに、「車輛」という漢字が使われることもあります。
これらの言葉はどう使い分ければいいのでしょうか?今回は、「車両・車輌・車輛」の違いを詳しく解説しました。
車両・車輌・車輌の意味
まず、「しゃりょう」を辞書で引くと次のように書かれています。
【車両/車輛(しゃりょう)】
⇒車輪のついた乗り物の総称。また、特に汽車・電車など鉄道の貨車・客車。
出典:デジタル大辞泉(小学館)
「しゃりょう」とは「車輪のついた乗り物全般のこと」を意味します。その中でも特に、鉄道系の貨車・客車を指すことが多いです。
例えば、バスや電車、汽車といったものです。他には、自動車やタクシー、原付、自転車などの乗り物を指すこともあります。
このように、乗り物の下に車輪がついており、移動できるものを「しゃりょう」と呼ぶわけです。
一般的には、私たちが普段乗っている自動車が「しゃりょう」としては最も身近なものだと言えるでしょう。しかし、道路交通法では電車や汽車などの「鉄道」に対して使うことが多いようです。
いずれにせよ、「しゃりょう」という言葉は日常的に使われている言葉である事が分かります。
気になるのは、辞書だと「車両」と「車輌」ではなく、「車両」と「車輛」と記述されている点ではないでしょうか?
多くの辞書では、「車輌」という言葉は載っていません。どの辞書を調べても「車両/車輛」の二つで統一されています。
これは一体どういうことなのか気になりますよね。そのあたりの理由を詳しくみていきましょう。
車両・車輌・車輛の違い
まず、「車輌」に関しては「車輛」の略字です。
つまり、「輛」は難しい漢字なので、簡単な「輌」に省略したということです。したがって、「車輛」の方が正式な漢字であり、「車輌」は厳密には誤りということになります。
元々、戦前の日本では「両」と「輛」は以下のように区別していました。
「両」=「ふたつ」または「千両箱」の「リョウ」。
「輛」=「くるま」の場合の「リョウ」。
戦前は「車」に関しては「車輛」と書き、元々、「車両」と書く習慣はなかったのです。
ところが、戦後の常用漢字の改定で「車両」という漢字が決定しました。その結果、現在では「車両」の方が一般的になっているのです。
では、「車両」という字は単なる当て字なのかと言うと実はそうではありません。
「両」という字は、旧字体で「兩」と書きます。この字は、「天秤(てんびん)の皿が両側に等しくぶら下がった様子」を表しています。
ここから、「両」は以下のような意味として使うようになりました。
- 左右が対をなす「二つ」
- 左右の平均の「重さを量る」
- 左右対称のような「車を数える」
実はこのような意味の「両」は、漢字の母国である中国では大昔から使われています。大昔ですから、「両」の方が戦前よりも前から使われていたということになります。
一方で、「輛」という字は意味を明確にするために、当時の「両」に後から「くるまへん」を付けたものと言われています。要するに、「車両」という漢字は単なる当て字ではなく、「両」の意味を復活させたものだったのです。
以上、違いをまとめますと、
「車両」=大昔から使われていた漢字。
「車輛」=戦前は主流だったが、元々は「両」につけ加えた漢字。
「車輌」=車輛の略字。(厳密には存在しない漢字)
ということになります。
正しい使い分けは?
「車両・車輌・車輛」を使い分ける一つの目安として、常用漢字があります。
「常用漢字」とは「一般人が日常生活において、これくらいは使うだろう」という目安を国が示したものです。この中に「輛」と「輌」は入っていません。
そのため、新聞やテレビなどのメディアでは「車両」に統一して使っています。別の言い方をすると、「車輌」や「車輛」に関しては使わないということです。
これにならい、小中学校などの義務教育・国の公文書・公用文などでも原則として「車両」を使うようにしているようです。
ややこしいのは、メディアや公文書以外では「車輌」と書いている業界が意外とあることです。
例えば、電車やバス・タクシーなどの公共交通機関では「車輌」が使われることがよくあります。車や鉄道関係に就職している方ならそのあたりはご存知でしょう。
しかし、「車輌」という漢字は単なる略字ですから、読み書きをする上で使うことはおすすめしません。また、「車輛」の方も非常に難しい漢字ですので、わざわざ使う必要性を感じないでしょう。
したがって、一般に使う際にはやはり「車両」を使うべきという結論になります。
車両・車輌・車輛の使い方・例文
最後に、それぞれの使い方を実際の例文で紹介しておきます。
【車両の使い方】
- 車や電車などの乗り物を車両と言う。
- 大型車両に関する法規制が改正された。
- 車両がそちらを通るので、気をつけて下さい。
- 車両に侵入してきた人物が犯人の可能性が高い。
- 警察車両により、周辺の取り締まりが行われた。
【車輛の使い方】
- 第二次世界大戦前は、多くの車輛が開発された。
- 彼はご機嫌な様子で、車輛の方へ向かっていった。
- 木南車輛製造(株)は、かつて日本に存在した鉄道会社である。
【車輌の使い方】
- 車輌編成は10両から構成されているようだ。
- 弊社は、車輌整備を主な業務としています。
- 車輌の名義変更に必要な書類を提出してください。
すでに説明した通り、「車両」は基本的に新聞やテレビなどの報道業界で使われています。そのため、私たちが何か文章を書くときもそれに従い「車両」を使えば問題ありません。
対して、「車輛」は1945年以前の文章に対して使うことが多いです。例えば、かつて戦前に存在していた会社などです。また、その当時に書かれた小説文などに使われることもあります。
いずれにせよ、「車輛」は現代ではほとんど使わない漢字だと考えて問題ありません。
最後の、「車輌」は自動車業界・鉄道業界だけが独自に使っている印象です。いわば専門用語に近いようなイメージです。
「車輌」は実際には略語ですが、ビジネスでは言葉の原義・歴史などはそこまで重視されません。そのため、今もなお「車輌」を使っている業界が残っています。
まとめ
以上、本記事のまとめとなります。
「車両」=大昔から使われていた漢字。
「車輛」=戦前は主流だったが、元々は「両」につけ加えた漢字。
「車輌」=車輛の略字。(厳密には存在しない漢字)
「使い分け」=メディアが「車両」で統一しているため、「車両」を用いる。
「しゃりょう」はどの漢字を使っても、「車輪のついた乗り物全般」を表します。したがって、意味自体に違いはありません。ただ、使い分けに関しては唯一の常用漢字である「車両」を使うようにしましょう。