「朝令暮改」と「朝三暮四」の違いをご存知でしょうか?
どちらも似たような漢字が使われており、なおかつ四字熟語の中では比較的よく使われています。ところが、実際は異なる意味を持った言葉同士なので誤用も多いです。
そこで本記事では、「朝令暮改」と「朝三暮四」の使い方、例文・語源・類語などを詳しく解説しました。
朝令暮改の意味と由来
まず、「朝令暮改」の方を辞書で引いてみます。
【朝令暮改(ちょうれいぼかい)】
⇒朝に出した命令を夕方にはもう改めること。方針などが絶えず変わって定まらないこと。
出典:デジタル大辞泉(小学館)
「朝令暮改」は「ちょうれいぼかい」と読みます。意味は、「命令や方針がすぐに変わってしまうこと」です。
元々は、「朝に出した命令を、夕暮れには改めること」からこのような意味になりました。主に国の法律や組織の指示などが、すぐに変わるような場合に使われます。
「朝令暮改」は、中国の書物である「漢書(かんじょ)」にその詳細が書かれています。
勤苦如此、尚復水旱之災、急政暴賦、賦斂不時、朝令而暮改。
簡単に訳すと、
となります。
まさに、当時の漢の農民の苦しさを表現した文章となっています。つまり、これが「朝令暮改」の正式な由来ということです。
朝三暮四の意味と由来
次に、「朝三暮四」の方も辞書で引いてみます。
【朝三暮四(ちょうさんぼし)】
⇒目先の違いに気をとられて、実際は同じであるのに気がつかないこと。また、うまい言葉や方法で人をだますこと。朝四暮三。
出典:デジタル大辞泉(小学館)
「朝三暮四」は「ちょうさんぼし」と読みます。意味は「実際は同じなのに、気がつかないこと」「うまい言葉で人をだますこと」などです。
「朝三暮四」は、中国の書物である「荘子(そうし)」と「列子(れっし)」が元になっています。こちらも以下に話を紹介しておきます。
中国の春秋時代の宋という国に猿好きの老人がいた。
老人は猿を飼っていたが、猿が増えすぎて生活が苦しくなったためエサを減らそうと思った。そこで、猿たちに「どんぐりを朝に3つ、夕暮れに4つやる」と言った。
しかし、猿は「少ない」と怒った。そこで、頭を働かせた老人は「それでは朝に4つ、夕に3つやる」と言ったら猿は大喜びした。
このような話となっています。
よくよく考えれば、一日合計で7つしかもらえないのは一緒ですが、猿たちは目先の利益にだまされています。つまり、もらえる数は同じなのに、言い方を少し変えただけで相手を納得させたということです。
このことから、現在では「結果は同じなのに表面的な利害にとらわれること」「表面的にだますこと」などの意味として使われています。
朝令暮改と朝三暮四の違い
ここまでの内容を整理すると、
「朝令暮改」⇒命令や方針などがすぐに変わってしまうこと。
「朝三暮四」⇒実際は同じなのに、気がつかないこと。人をだますこと。
ということでした。
両者の違いは、漢字の成り立ちから記憶しておけば分かりやすいです。
「朝令暮改」=朝出した命令が暮れに改められること。
「朝三暮四」=朝三つと暮れ四つの違いに気付かないこと。
上記のようにお互いの漢字から意味を比較すると、全く異なる言葉だということが分かります。「朝三暮四」の方はそこから派生して、「似たような言葉で人をだますこと」という意味も覚えておけば完璧です。
なお、過去の話ですが、2010年の国会で当時の鳩山総理がこの2つを間違えてしまうシーンがありました。
鳩山総理は、野党側から「朝三暮四の意味を知っているか?」と尋ねられ、「もちろん知っている」と答えました。そして、「朝決めたことと夜決めたことがすぐ変わるという意味で、あっさりと物事を変えてしまうことだ」と自信満々に答えました。
見事に「朝令暮改」と間違えてしまい、当時のニュースとしてはかなり話題になりました。このように、大人でも間違える場合がありますので、しっかりと内容を整理しておく必要があると言えます。
朝令暮改と朝三暮四の類義語
続いて、それぞれの「類義語」をご紹介します。
朝令暮改の類義語
【朝改暮変(ちょうかいぼへん)】⇒朝令暮改と同じ意味。(同義語)
【二転三転(にてんさんてん)】⇒状況や情勢が何度もくつがえること。
【首尾一貫(しゅびいっかん)しない】⇒方針や考え方が変わり、筋が通っていないこと。
朝三暮四の類義語
【大局を見ない(たいきょくをみない)】⇒物事を全体的な視点でとらえられないこと。
【木を見て森を見ず(きをみてもりをみず)】⇒物事の一部分に気を取られて、全体を見失うこと。
【一杯食わせる(いっぱいくわせる)】⇒計画などを練り、うまく人をだますこと。
【口車に乗せる(くちぐるまにのせる)】⇒言葉巧みに人をだますこと。
以上が主な「類語」となります。
「朝令暮改」は「状況や考え方が変わること」、「朝三暮四」は「全体を見れないこと・だますこと」などが「類語」となります。
朝令暮改・朝三暮四の使い方・例文
最後に、それぞれの使い方を実際の例文で紹介しておきます。
【朝令暮改の使い方】
- 彼の采配は朝令暮改なため、選手は困惑してしまう。
- 〇〇党の政策は朝令暮改なため、国民が振り回される。
- さっき出した命令をもう変えるなんて朝令暮改だね。
- うちの会社の経営陣は、朝令暮改の指示が多くて困る。
- 変化の激しい時代において、経営者は朝令暮改の対応も必要だ。
【朝三暮四の使い方】
- 朝食を抜いても、晩ご飯を2倍食べてしまえば、朝三暮四である。
- よく聞いたら言っていることは一緒じゃないか?朝三暮四はやめてくれ。
- 朝三暮四のようにうまく言いくるめていた詐欺師が逮捕されたようだ。
- 給料アップを喜んでいたらサービス残業がその分増えていた。まさに朝三暮四である。
- 日本の政治家は選挙に勝つといつも公約を破る。朝三暮四もいいところだ。
「朝令暮改」は、どちらかというと否定的なイメージで使われます。ただし、最近の事例では必ずしもそうではありません。
例えば、現代ビジネスでは常に変化が求められます。一旦出した方針を臨機応変にすぐ引き下げることも時には必要です。
有名な話では、経営の神様と呼ばれる松下幸之助氏の意思決定の速さは、「朝令暮改」どころか「朝令昼改」とも言われました。つまり、場合によってはスピード感を持った良い対応という意味で使われるということです。
一方で、「朝三暮四」の方は原則として否定的な使い方をされます。「朝三暮四」を良い意味として使うことは基本ないと考えて下さい。
まとめ
以上、本記事のまとめとなります。
「朝令暮改」⇒命令や方針がすぐに変わってしまうこと。
「朝三暮四」⇒実際は同じなのに、気がつかないこと。うまい言葉で人をだますこと。
「朝令暮改の類語」=「朝改暮変・二転三転・首尾一貫しない」など。
「朝三暮四の類語」=「大局を見ない・木を見て森を見ず・一杯食わせる」など。
「朝令暮改」と「朝三暮四」は、四字熟語の中でもよく使われる有名なものです。ただ、どちらも似ていて混同しやすいので、由来や類語と合わせて記憶しておきましょう。