他山の石 意味 使い方 例文 由来 類語 対岸の火事

「他山の石」という故事成語をご存知でしょうか?中学漢文の授業で必ず習うほど非常に有名な言葉です。

ただ、よく聞いたことがあるにも関わらず誤用が多いことでも知られています。

そこで本記事では、「他山の石」の意味や語源、成り立ち、例文などをなるべくわかりやすく解説しました。

他山の石の意味・読み方

 

最初に、基本的な意味と読み方を紹介します。

【他山の石(たざんのいし)】

よその山から出た、つまらない石。転じて、自分の修養の助けとなる他人の誤った言行。

出典:デジタル大辞泉(小学館)

他山の石」は「たざんのいし」と読みます。意味は「他人の誤った行いでも、自分のためになること」を表したものです。

例えば、あなたの親しい友人が交通事故を起こしてしまったとします。聞くところによると、かなりのスピード違反をしていたようです。

このような場面では、「友人の行いを他山の石とする」などと言うことができます。つまり、「友人が交通事故を起こした」という誤った行いを元に「自分はそうならないように気を付ける」ということです。

ここで大事なのは、「他山の石」は正しい行いを参考にするような場合は使わないということです。例えば、身近な人の成功体験や模範となる功績などを参考にするようなことはありません。

「他山の石」は、他人の失敗や過ちを見て今後の参考にしたりする場合に使います。

また、「自分と関係がない物事」を対象とするのも誤用です。「他山」は「他の山」と書くので、何となく自分と関係がなさそうにも見えますが、実際は自分と関係がある物事を対象とします。

他山の石の由来・語源

他山の石  語源 由来 成り立ち

「他山の石」という言葉は、中国最古の詩集である「詩経(しきょう)」を由来とします。「詩経」の中の「小雅・鶴鳴(しょうが・かくめい)」という部分に、次のような記述があります。

他山の石を以て玉を攻むべし

これを簡単に訳すと、以下のようになります。

よその山から出た質の悪い石でも、自分の玉を磨くのに役立てられる

「石」とは「その辺に落ちている普通の石のこと」を指します。一方で、「玉」とは「宝石など立派な石のこと」を指します。

つまり、役に立たなそうな石でも自分の宝石を磨く石として役立たせることができると言っているわけです。

「宝石を磨く石」というのは「砥石(といし)」をイメージすると分かりやすいです。「砥石」とは包丁やナイフを磨くためのもので、料理人が切れ味をよくするために使用しているものです。

実際に砥石で包丁を磨いた後は、ダイヤモンドのようにピカピカになります。一見、汚なそうな石でも料理においては欠かせないアイテムです。

砥石と同様に、昔の人は見た目はつまらない石でも、宝石を磨くためなら便利な石となることを知っていました。転じて、「他人の誤った行いでも実際は自分の役に立つ」という現在の意味に派生していったということです。

他山の石の類義語

他山の石 類義語 別の言い方 対義語

続いて、「他山の石」の類義語を紹介します。

反面教師(はんめんきょうし)】⇒悪い見本として参考になるような人。中国の毛沢東の言葉が由来。
人を以て鑑と為す(ひとをもってかがみとなす)】⇒他人の言動を見て自分を正すこと。「鑑」とは「手本」という意味。
人の振り見て我が振り直せ(ひとのふりみてわがふりなおせ)】⇒他人の行いを見て自分の行いを改めること。「振り」とは「態度や言動のこと」を表す。
殷鑑遠からず(いんかんとおからず)】⇒参考となるものは遠くではなく近くにあること。「殷」は古代中国の王朝。「殷」が滅びた原因は、遠い時代ではなく身近な時代にあったことから。
前車の覆るは後車の戒め(ぜんしゃのくつがえるはこうしゃのいましめ)】⇒先人の失敗は後の人への教訓となること。「覆る」とは「ひっくり返る」という意味で、前の車がひっくり返るのを見たら、後ろの車は気を付けるべきという戒めから。

「他山の石」の類義語は多いため、ここでは代表的なものを挙げました。共通しているのは、「過去の失敗や他人の過ちを教訓にする」ということです。

この中でも「反面教師」は特によく使われる四字熟語なので覚えておいた方がよいでしょう。

他山の石の対義語

 

逆に、「対義語」としては次の二つが挙げられます。

爪の垢を煎じて飲む(つめのあかをせんじて飲む)】⇒立派な人の言行を少しでも真似すること。優れた人の爪の垢を薬として飲むことから。
薫陶を受ける(くんとうをうける)】⇒人徳や品行がある人に良い影響を受けること。「薫陶」とは「香をたいて薫りを染み込ませ、形を整えながら丁寧に陶器を作り上げること」を表す。

「他山の石」は「他人の悪い行いを参考にする」という意味でした。したがって、「良い行いを参考にする」という意味の言葉が反対語となります。

他山の石と対岸の火事の違い

 

似たような言葉で、「対岸の火事(たいがんのかじ)」があります。

対岸の火事」とは、「自分には関係がなく、何の苦痛もない様子」という意味のことわざです。川の向こう岸にある火事は自分に全く災いもたらす可能性がないため、このような意味になりました。

「他山の石」と「対岸の火事」は、どちらも同じ意味にもみえますが実際は異なる言葉同士です。

「他山の石」は、すでに説明したように自分と関係がある物事に使うものです。対して、「対岸の火事」は自分とは関係がない物事を対象とする時に使うものです。

言葉の言い回しが似ているため、間違えないようにする必要があります。

他山の石の英語訳

 

「他山の石」は、英語だと次のような言い方をします。

learn from other’s mistakes」(他人の失敗から学ぶ)

let this be an object lesson to you」(もって他山の石とすべし)

前者の「learn from~」は「~から学ぶ」という意味の熟語、「other’s mistakes」は「他人の間違い」という意味です。両者を合わせることで、「他人の間違いや失敗から学ぶ」という意味になります。

また、後者の「let」は「~させる」という使役の意味があり、「object lesson」は「(教訓となる)実例」と訳すことができます。以上の事から、「これはあなたにとって実例となる」という意味になります。

他山の石の使い方・例文

 

最後に、「他山の石」の使い方を例文で紹介しておきます。

  1. 彼は仕事で大きなミスをしたが、他の社員は他山の石としてほしい。
  2. 飲酒運転のニュースが多いが、他山の石として自分も気を付けよう。
  3. あいつは今まで何回も失敗してきたが、これを他山の石とすべきである。
  4. ライバル会社が不正会計をしていた。今回の事を他山の石と考えて欲しい。
  5. 弟はすぐ怒る性格だが、他山の石として自分は人にやさしくするつもりです。
  6. 不祥事で芸能人が謹慎することになったが、他山の石として自分も改めよう。
  7. 彼は友人を裏切ってひどい目にあった。他山の石として私は気を付けます。

 

「他山の石」は、例文のように不祥事やミスなど他人の起こした過ちや失敗を対象とします。他人の失敗が先に起こった後に、「自分もそうならないように気をつけよう」という戒めの意味を込めて使うのが基本的な流れです。

また、普段の会話だけでなくビジネスシーンで用いられることもあります。ビジネスでは、他社の過ちを受けて自社が参考にするような場合に使うのが主な使い方です。

逆に、ビジネスにおいて以下のような使い方は誤用と言えます。

上司の功績を他山の石として自分も頑張ります。

この場合だと、「上司の成功体験」=「誤った行い」というよく分からない意味になってしまいます。「他山の石」は基本的に上司などの目上の人に対して使う言葉ではありません。

なぜなら、単純に失礼な意味合いになってしまうからです。仮にビジネスで人に対して使う場合は、自分と同格もしくは目下の者の失敗談に対して使うようにして下さい。

まとめ

 

以上、本記事のまとめです。

他山の石」=他人の誤った行いでも、自分のためになること。

語源・由来」=よその山から出た質の悪い石でも、自分の玉を磨くのに役立てられることから。(詩経)

類義語」=「反面教師・人を以て鑑と為す・人の振り見て我が振り直せ・前車の覆るは後車の戒め」

対義語」=「爪の垢を煎じて飲む・薫陶を受ける」

英語訳」=「learn from other’s mistakes」「let this be an object lesson to you」

「他山の石」は一見すると簡単にも見えますが、実は誤用が多い言葉です。この記事をきっかけに、ぜひ正しい使い方を理解して頂ければと思います。