「棚に上げる」という慣用句があります。
普段の文章だけでなく、ビジネスシーンなどにおいても使われている表現です。ただ、具体的な言葉の語源が気になるという人も多いと思われます。
そこで本記事では、「棚に上げる」の意味や由来、短文、類義語などを含め詳しく解説しました。
棚に上げるの意味・読み方
最初に、読み方と基本的な意味を紹介します。
【棚に上げる(たなにあげる)】
⇒知らん顔をして問題にしない。不都合なことには触れずにおく。
出典:デジタル大辞泉(小学館)
「棚に上げる」は「たなにあげる」と読みます。意味は、「知らん顔をして問題にしないこと」「不都合な事には触れないでおくこと」などを表したものです。
例えば、ビジネスシーンで上司が部下にミスをしたことを厳しく叱っていたとします。ところが、実は部下が犯したミスと全く同じミスをその上司自身も犯していたとしましょう。
このような時に、「上司は自分のミスを棚に上げて部下を責めた」などと言うわけです。
つまり、「棚に上げる」とは都合の悪い物事には触れないことを表す慣用句ということです。悪い印象を与えるので、基本は否定的な意味として使われます。
なお、場合によっては「しなければいけないことを先延ばしにする」という意味で使われることもあります。この意味の場合も同じくビジネスシーンで使われ、納期を先延ばしにしたり、すべき仕事を後回しにしたりするような場面で用いられます。
棚に上げるの語源・由来
「棚に上げる」という慣用句は、商品を棚に上げて保管することに由来します。モノを売る商売では、市場の需要と供給に合わせて、商品の量を常に調節しています。
例えば、将来的に値上がりしそうな商品を保管するために、一時期に倉庫に商品を寝かせたりしているのです。あるいは、売れそうにない商品を早めに見極め、在庫として倉庫にしまうようなことも行います。
ところが、商品を棚の上に置いておくと、その商品を人の目で見ることはできません。これはなぜかと言いますと、棚というのは物を載せておくために板を横に渡したもので、基本的に目線よりも高い位置にあるのが普通だからです。
したがって、商品を棚の上に上げると、置いたものが下からは見えなくなってしまいます。この事から、「棚に商品を上げること」を「都合の悪いことを隠す」「不都合なことを触れずにおく」などの意味に例えるようになったということです。
現在ビジネスなどで使われている、「やるべきことを先延ばしにする」という意味もここから派生したものだと言われています。
棚に上げると棚上げの違い
似たような言葉で「棚上げ」がありますが、「棚上げ」と「棚に上げる」は意味が少し異なります。
「棚上げ」とは「問題を一時的に未処理のままにしておくこと」「需給の調節のために、一時的に商品を市場へ出さないこと」などの意味です。
内容としては「棚に上げる」とほぼ同じですが、「棚上げ」には「知らん顔をする」「触れないでおく」のような悪い意味は含まれていません。ここが両者のわずかな違いだと言えます。
「棚上げ」には否定的な意味は含まれておらず、あくまで一時的に留保するような意味を表すことになります。
棚に上げるの類義語
続いて、「棚に上げる」の類義語を紹介します。
類義語は、何かを放置したり実行したりしないことを表す言葉となります。そこから派生して、不都合な問題から目を背けるような意味の言葉も類義語に含まれます。
四字熟語だと「言行相反」や「責任転嫁」、ことわざだと「医者の不養生」も似たような意味として使えます。一般的な言葉だと、「ほったらかす」「そのままにする」などの語で言い換えると分かりやすいのではないでしょうか。
棚に上げるの英語訳
「棚に上げる」は、英語だと次のように言います。
「put it on the shelf(棚に上げる)」
「put」は「置く」、「shelf」は「棚」という訳なので、「棚に何かを置く」という意味で「棚に上げる」と訳すことができます。
例文だと、以下のような言い方です。
He always puts himself on the shelf.(彼はいつも自分の事を棚に上げている。)
You should stop putting it on the shelf.(棚に上げるようなことはよした方がいい。)
その他、別の表現であれば、「shut one’s eyes to one’s own faults」なども可能です。「shut」は「閉じる」、「eye」は「目」、「faults」は「欠点」なので、「~の欠点に対して目を閉じる」という意味になります。
He seem to shut his eyes to his own faults.(彼は自分の欠点に関して、みて見ぬふりをするようだ。)
She always shuts her eyes to her own faults.(彼女は常に自分のことを棚に上げる。)
棚に上げるの使い方・例文
最後に、「棚に上げる」の使い方を例文で紹介しておきます。
- 自分のミスを棚に上げて、相手ばかりを責めるのはやめた方がいいです。
- 来週の仕事は後でやればいい。今の仕事を棚に上げるようなことはよしてくれ。
- 部下に対してはきつくあたり、自分のことは棚に上げるような最低の上司だ。
- あなたは大事なことをいつも棚に上げるね。その性格をまずは直した方がいいよ。
- 仕事を棚に上げる人の心理として、現実から目を背けたいというのはあるだろう。
- 過去の失敗を棚に上げるようなことはせず、しっかりと解決することを優先すべきだ。
「棚に上げる」という慣用句は、例文のように様々な使い方をすることができます。一般的には、その中でもビジネスシーンで使われることが多いです。
ビジネスでは、「自分のことは触れずに相手ばかりを非難する人」「自分の不利になることは知らぬ顔をする人」「大事な仕事を後回しにして先延ばしにしてしまう人」などを対象とします。
前者二つは上司など目上の人を主語に、最後の一つは仕事の要領が悪い部下などを主語にします。一種の嫌みや皮肉のような意味が込められますので、否定的な文脈の中で使うのが基本だと考えて下さい。
実際に使う場合は、自覚なく棚に上げているような人もいますので、まずは軽く指摘をするような形をとってからその後に用いるのが無難だと言えます。
まとめ
以上、本記事のまとめです。
「棚に上げる」=知らん顔をして問題にしないこと・不都合な事には触れないでおくこと。
「語源・由来」=商品を棚に上げて保管すると、目に見えなくなることから。
「類義語」=「放置する・猶予する・留保する・口を拭う・言行相反・責任転嫁・医者の不養生」
「英語訳」=「put it on the shelf」「shut one’s eyes to one’s own faults」
商品という大事なものを見えない位置に置くのは、現実の各種問題から目を背けることを意味します。「棚に上げる」という表現は、そのような商売人の心理が含まれた言葉だと覚えておきましょう。