「そうは問屋が卸さない」ということわざがあります。
現代に生きる人にとっては、なかなか聞かないセリフかもしれません。ただ、このことわざを知っておけば普段の会話やビジネスシーンでも使うことができます。
本記事では、「そうは問屋が卸さない」の意味や語源、使い方、類語などを詳しく解説しました。
そうは問屋が卸さないの意味・読み方
最初に、読み方と基本的な意味を紹介します。
【そうは問屋が卸さない(そうはとんやがおろさない)】
⇒物事はそう簡単には運ばないというたとえ。
出典:実用日本語表現辞典
「そうは問屋が卸さない」は、「そうはとんやがおろさない」と読みます。意味は、「物事はそう簡単には運ばないこと」をたとえたものです。
例えば、起業というのは多くの人が夢見るものですが、実際にはなかなかうまくいきません。いざビジネスを始めたものの、数年以内に会社をたたむ人がほとんどです。
そこでこのような場面では、「起業したとしても、そうは問屋が卸さないものだ」などのように言われることがあります。
つまり、「そうは問屋が卸さない」とは「そんなに思い通りには行かない」「そう簡単には都合よくいかない」などの意味を表したことわざということです。多くは、人生や世の中の厳しさを例えるような時に用いられます。
そうは問屋が卸さないの語源・由来
「そうは問屋は卸さない」は、江戸時代からある「問屋」に由来します。「問屋(とんや)」とは生産者から商品を仕入れ、小売店などに売る業者のことです。
例えば、キャベツやニンジンなどの野菜を育てている生産者がいたとしましょう。その生産者が小売店(スーパーなど)に直接野菜を売るとなると、多くの時間や手間がかかってしまいます。
また、小売店側としても直接野菜を買い取るとなると同じく手間がかかってしまいます。そこでこれらの業者の間に入り、生産者とお店側の両方の仲立ちをし、お互いから手数料をもらうビジネスモデルが「問屋」なのです。
話を戻しまして、お店側としては問屋から少しでも安く買いたいのが本音なところです。そのため、「これくらいの安値だったら卸すこと(問屋が商品を小売店に売り渡すこと)はできない?」「いや、そんな安値では卸さないよ。」などといった会話がよく行われていました。
この事から、「そうは問屋が卸さない」=「そんな安値では卸さない」という意味のセリフが定着していきました。転じて、現在では「自分勝手な言い分には応じられない」「物事は考えているほど都合よくいくものではない」といった意味でも使われるようになったわけです。
つまり、「そうは問屋が卸さない」とは「そんな安値では卸さない」という問屋側の発言から生まれたことわざということになります。
そうは問屋が許さないは誤用か?
ところで、似たような言葉で「そうは問屋が許さない」を使う人がいます。しかし、このような言葉は存在しませんので、全くの誤用だと考えて問題ありません。
文化庁が発表した「国語に関する世論調査」によると、本来の使い方を選択した人が70.4%、逆に誤用を選択した人が23.6%だったそうです。実に4人に1人近くが間違えている計算となります。
間違えている原因ですが、単に「卸さない」と「許さない」が似た言い方であるためでしょう。すでに説明したように、この言葉は、「問屋が安く卸さないこと」=「安売りしないこと」からできた言葉です。くれぐれも両者を混同しないように注意してください。
そうは問屋が卸さないの類義語
「そうは問屋が卸さない」の類義語は以下の通りです。
基本的には、「物事がうまく行かない様子」「そんなに甘くない様子」などを表した言葉が類義語となります。
さらにそこから派生して、「道理に合わないこと」「筋が通らないこと」などを表した言葉も類義語に含まれます。上の例だと、「石が流れて木の葉が沈む」「主客転倒」などです。
そうは問屋が卸さないの英語訳
「そうは問屋が卸さない」は、英語だと次のような言い方があります。
①「things don’t work that well in the real world.」
②「things seldom go as one wishes」
③「That is expecting too much.」
①は直訳すると「本当の世界は思った通りにいかない」となります。「work」はここでは、「機能する・上手く行く」などの意味で使われています。
また、②は「物事は望む通りにはめったにいかない」という訳で、「seldom」は「めったに~しない」という意味の副詞です。
最後の③は「それは期待しすぎだよ」という意味の表現です。この場合は、「期待しすぎ」なので「思う通りに行かない」と考えればいいでしょう。
そうは問屋が卸さないの使い方・例文
最後に、「そうは問屋が卸さない」の使い方を例文で紹介しておきます。
- 君はいつも都合のいいことばかり言うね。でも今回はそうは問屋が卸さないよ。
- 勉強しないで東大に合格するなんて考え方が甘すぎる。そうは問屋が卸さないよ。
- そうは問屋が卸さないとは言うが、スポーツの世界では特にこの言葉が当てはまる。
- 勝ったと思って喜んでいたらぬか喜びだった。そうは問屋が卸さないとはこのことである。
- 彼ほどの実力があれば大手の会社に行くと思っていたが、そうは問屋が卸さないみたいだ。
- 普段は顔さえ見せないのに、自分が困ると泣きついて来るなんて。そうは問屋が卸さないよ。
「そうは問屋は卸さない」は、そう簡単には物事が運ばない様子を表すことわざでした。
したがって、前後関係としては「物事が簡単に運ぶと思っていた」⇒「でも、やっぱり違った」といった流れで用いられることが多いです。
世の中には、仕事に限らず予想通りに事が運ぶと思うことが多いです。しかしながら、実際にはうまくできない結果に終わるということがしばしば起こります。
そんな時に、「そう上手くは行かない」「そんなに甘くない」という意味でこのことわざを使うわけです。
まとめ
以上、本記事のまとめです。
「そうは問屋が卸さない」=物事はそう簡単には運ばないこと。
「語源・由来」=「そんな安値では卸さない」という問屋の発言から。
「類義語」=「然うは烏賊の金玉・石が流れて木の葉が沈む・主客転倒」
「英語訳」=「things don’t work that well in the real world」「things seldom go as one wishes」「That is expecting too much.」
「そうは問屋が卸さない」は、古くからある言葉ですが決して死語ではありません。現代でも様々な場面で使える言葉ですので、これを機にぜひ使ってみてはどうでしょうか?