「舌」を使ったことわざや慣用句はいくつかあります。
その中でも、「舌の根の乾かぬうちに」という慣用句は有名です。ただ、この言葉は誤用が多いことでも知られています。
そこで本記事では、「舌の根の乾かぬうちに」の意味や語源、類語、英語訳などを詳しく解説しました。
舌の根の乾かぬうちにの意味・読み方
最初に、読み方と基本的な意味を紹介します。
【舌の根の乾かぬうちに】
⇒言葉を言い終わるか終わらないうち。前言に反したことを言ったりしたりしたときに、非難して用いる。
出典:デジタル大辞泉(小学館)
「舌の根が乾かぬうちに」は、「したのねがかわかぬうちに」と読みます。漢字だと「舌の根が乾かぬ内に」とも表記します。
意味は、「言葉を言い終わるか言い終わらない内に」「言ったすぐ後で」などを表したものです。
例えば、相手に対して謝罪の言葉を述べた人がいたとしましょう。ところが、言い終わってすぐ後に、「やっぱり自分は悪くないと思う」と言ったとします。
そんな時に、「舌の根が乾かぬうちに、彼はまた言い訳を始めた。」などと言うわけです。つまり、「舌の根が乾かぬうちに」とは前言をすぐに翻(ひるがえ)す人を非難するような意味を持つ慣用句ということです。
私たちは自分の発した言葉とは異なる発言や行動をとることがあります。それが5年前や10年前の発言であれば、そこまで問題になるようなことはありません。
しかし、「舌の根が乾かぬうちに」というのは、周囲の人も呆れるほど早々と前言を翻すことを意味するわけです。
舌の根の乾かぬうちにの語源・由来
「舌の根の乾かぬうちに」は、「舌の根が乾かないほど短い間」という意味から来た慣用句です。
まず、「舌」は言語音を調節する器官で、口の中でも「言葉」や「音」を作り出す重要な部位です。口や歯などがあっても、舌がなければ人は話すことができません。
言葉の原点となる舌は、空気に触れると水分が蒸発して乾きます。すると、人間の舌は次に話す時に言葉が順調に出るように、水分を得て湿らせようとします。それが、いったん口を閉じて唾液で潤滑させる行為です。
その「舌が乾かない」とは常に唾液が補給できる状態、すなわち「すぐに話す用意ができている状態」であることを意味します。転じて、「言って間もなく」「言い終わるか終わらない内に」などの意味で使われるようになったわけです。
舌が湿っている状態というのは、いつでも話すことができます。逆に、舌が乾燥している状態ではすぐに話すことができません。この事から、「何かをしゃべっても、すぐにまた話すこと」を「まだ舌が湿っている」という意味で「舌の根も乾かぬうちに」と言うようになったわけです。
舌の根の乾かぬうちにの誤用は?
「舌の根の乾かぬうちに」を「舌の先の乾かぬうちに」と言うのは誤りです。
文化庁が発表した「国語に関する世論調査」だと、「舌の根の乾かぬうちに」と「舌の先の乾かぬうちに」、どちらが正しいか尋ねた所、次のような結果が出ました。
「舌の根の乾かぬうちに」⇒60.4%
「舌の先の乾かぬうちに」⇒24.4%
「どちらも使わない」⇒15.2%
実に4割ほどの人が、本来の使い方を選択してないというデータが出ています。これはおそらくですが、「舌先三寸」という四字熟語と混同した結果広まってしまった誤用だと思われます。
「舌先三寸」とは「口先だけが上手いこと」「うわべだけの上手いセリフ」という意味です。こちらは「舌の根」ではなく「舌の先」を由来とする四字熟語なので正しい言葉です。
その他、「舌の根も乾かぬうちに」などといった言い方も誤用なので注意してください。
舌の根の乾かぬうちにの類義語
続いて、「舌の根の乾かぬうちに」の類義語を紹介します。
- 言ったそばから
- 言ってるそばから
- 言う口の下から
- 昨日の今日
- 時を移さず
- 間髪を入れず
- 朝令暮改(ちょうれいぼかい)
いずれの言葉も、「時間が短い様子」を表したものとなります。ことわざや慣用句では、同義語や類義語と呼ばれるものは多くありません。
しかし、四字熟語だと「朝令暮改」が近い意味だと言えます。「朝令暮改」とは「朝に出した命令を夕方にはもう改めること」です。自分の発言したことをすぐに変えることから、広い意味で類義語に含まれると言えるでしょう。
舌の根の乾かぬうちにの英語訳
「舌の根の乾かぬうちに」は、英語だと次のように言います。
①「in the same breath」
②「no sooner were the words out of one’s mouth than」
①は直訳すると、「同じ呼吸で」という意味です。同じタイミングで呼吸することから、「同時に」「言ったすぐ後で」といった意味で使うことができます。
また、②は「no sooner than~」(~するとすぐ・~するやいな)という熟語が含まれているので、「口で言葉を発するやいなや」という意味になります。「word」は「言葉」、「mouth」は「口」という意味です。
例文だと、それぞれ以下のような言い方となります。
He said “NO”in the same breath.(彼は舌の根の乾かぬうちにノーと言った。)
舌の根の乾かぬうちにの使い方・例文
最後に、「舌の根の乾かぬうちに」の使い方を例文で紹介しておきます。
- 君の発言には本当に呆れた。舌の根の乾かぬうちに前言を翻さない方がいい。
- 舌の根の乾かぬうちに嘘をつくなんて、あいつには本当に失望させられた。
- まさか舌の根の乾かぬうちに約束を破られるとはね。いくらなんでも早すぎるよ。
- 彼は健康に気をつけると言ったが、舌の根の乾かぬうちにタバコをくれと頼んだ。
- もう二度と喧嘩はしないと言ったのに、舌の根の乾かぬうちに彼らは喧嘩を始めた。
- 舌の根の乾かぬうちにまた同じ変更を言い渡された。指示を統一してほしいよ。
「舌の根の乾かぬうちに」は、「言い終わるか終わらない内に・発言直後に」という意味を持つ慣用句でした。主に前言と食い違った発言をしたり、たった今発言した内容をなかったことにするような人を対象とします。
そのため、この言葉は相手を非難したり、厳しく指摘したりするような否定的な意味として使われます。もしもこの言葉を相手から投げかけられた場合は、相手から失望されている状況だと考えて問題ありません。
まとめ
以上、本記事のまとめとなります。
「舌の根の乾かぬうちに」=言葉を言い終わるか終わらない内に。言ったすぐ後で。
「語源・由来」=舌の根が乾かないほどすぐに話ができる状態から。
「類義語」=「言ったそばから・言う口の下から・昨日の今日・間髪入れず」
「英語訳」=「in the same breath」「no sooner were the words out of one’s mouth than」
人が話している時は、適度に「舌」が湿っています。その舌が乾かないということは、その状態を維持したまま、黙っていれずにすぐまた話してしまうことだと覚えておきましょう。