「白羽の矢が立つ」という慣用句をご存知でしょうか?
普段の文章だけでなく、ドラマやスポーツなどにおいても用いられる表現です。ただ、この言葉をいい意味と悪い意味のどちらで使うか迷うという人も多いと思われます。
そこで本記事では、「白羽の矢が立つ」の意味や語源、使い方などを含め詳しく解説しました。
白羽の矢が立つの意味・読み方
まず、この言葉を辞書で引くと次のように書かれています。
【白羽の矢が立つ(しらはのやがたつ)】
①多くの人の中から犠牲者として選ばれる。
②多くの人の中から特に選ばれる。
出典:三省堂 大辞林
「白羽の矢が立つ」には、二つの意味があります。①は悪い意味、②はいい意味として使われます。
ただし、一般的には②のいい意味として使われることの方が多いです。すなわち、「多くの人の中から特に選ばれる」ということです。
例えば、野球などのスポーツの世界では、様々な候補の中から監督が選ばれます。何の厳選もせずに、いきなり特定の人が選ばれるということはありません。
このような場面では、「Aチームの監督として、〇〇氏に白羽の矢が立った」などのように用いられます。つまり、多くの監督候補の中から選ばれたという意味です。
「白羽の矢が立つ」とはこのように、多くの人の中から指名され、誰かが選び出されるような時に使われる慣用句となります。
白羽の矢が立つの語源・由来
「白羽の矢」という言葉は、日本古来からの風習である人身御供という儀式に由来します。
「人身御供(ひとみごくう)」とは「人間を神様への生贄とすること」を表します。要するに、神様のために死人を差し上げるということです。
昔から、災いや不幸を防ぐためには生贄を神様に捧げることが必要と信じられてきました。そして、日本古来の伝承によれば生贄を求める神は、対象とする少女の家の屋根に「白い羽の矢」を立てたそうです。
この事から、「白羽の矢が立つ」=「犠牲者が選ばれる」という意味が生まれたわけです。実際には、神様が矢を立てたなんて話は作り話でしょうが、何はともあれこれが正式な由来ということになります。
ところが、時代と共にこの話のイメージも移り変わっていくことになります。現在では、「白羽」=「不吉」なんていうイメージを持つ人はいません。
「白」といえば、聖なる色や潔白な色を表すので、むしろ良いイメージを思い浮かべる人がほとんどでしょう。この良いイメージが広まるにつれ、次第に「多くの人の中から、優れた人が選ばれる」という意味が主流になっていったわけです。
慣用句やことわざの世界では、このように元々の意味から派生していくのはよくある話だと言えます。
白羽の矢が当たるは誤用?
「白羽の矢が立つ」と似た表現で、「白羽の矢が当たる」が使われることがあります。
しかしながら、「白羽の矢が当たる」は誤用です。このような言い方は存在しません。
なぜかと言いますと、この場合の「矢」というのは的などに当てる矢ではないからです。先ほども説明した通り、「白羽の矢」は家の屋根に立てたものです。
したがって、「白羽の矢が当たる」「白羽の矢が刺さる」などは全て間違いということになります。
なお、文化庁が発表した「国語の世論調査(H29)」によると、本来の「白羽の矢が立つ」を選んだ人が75.5%、誤用の「白羽の矢が当たる」を選んだ人が15.1%だったそうです。
現在でも間違えている人が一定数います。もしもこの問題が国語のテストなどで出題されたら、引っかからないように注意してください。
白羽の矢が立つの類義語
続いて、「白羽の矢が立つ」の類義語を紹介します。
- 選ばれる
- 決められる
- 選択される
- 選定される
- 選抜される
- 抜擢(ばってき)される
- 貧乏くじを引かされる
- お鉢(はち)が回る
この言葉自体が、「選ばれる」という受け身の意味を持った慣用句です。そのため、基本的には「~される」が後ろに付く形となります。
補足しますと、最後の二つは悪い意味の類義語です。「貧乏くじを引かされる」とは損な役割を与えられること、「お鉢が回る」とは面倒な役割が回ってくることを意味します。
白羽の矢が立つの英語訳
「白羽の矢が立つ」は、英語だと次の二つの言い方があります。
①「The choice falls on.」
②「to be selected from among many people」
「choice」は「選択」、「falls on」は「降りかかる」という意味です。よって、①は「選択が降りかかる」⇒「特に選ばれる」という訳になります。
また、②は「多くの人々の中から選ばれる」という訳です。こちらの方が長いですが、元の意味としては分かりやすいです。
例文だと、次のような言い方になります。
The choice fell on him.(彼に白羽の矢が立った。)
The manager was selected from among many people.(その監督は多くの人の中から選ばれた。)
白羽の矢が立つの使い方・例文
最後に、「白羽の矢が立つ」の使い方を例文で紹介しておきます。
- 総理大臣として意外な人物に白羽の矢が立った。
- 開幕スタメンとして、ルーキーに白羽の矢が立った。
- 彼に白羽の矢が立ったのは、もはや当然とも言えるだろう。
- WBCの代表監督として、経験豊富なA氏に白羽の矢が立った。
- 新しい店舗の責任者として、彼女に白羽の矢が立つことになった。
- 今回の訴訟を回避するために、敏腕弁護士に白羽の矢が立った。
- 攻撃を受けるおとり役として、私に白羽の矢がたってしまった。
「白羽の矢が立つ」は、「多くの人の中から、優れた人が選ばれる」という意味の慣用句でした。その中でも特に、良い地位や高い地位などに選ばれる人に対して使われることが多いです。
例えば、「多くの首相候補から厳選されて選ばれた」といったことです。「他に良い人がいても、さらに良い人を選ぶ」といったような場面で「白羽の矢」を使うと考えて下さい。
まとめ
以上、本記事のまとめとなります。
「白羽の矢」=多くの人の中から特に選ばれる。多くの人の中から犠牲者として選ばれる。
「語源・由来」=生贄を求める神が、家の屋根に白羽の矢を立てたことから。
「類義語」=「選ばれる・決められる・選択される・抜擢される」など。
「英語訳」=「The choice falls on」「to be selected from among many people」
「白羽の矢が当たる」は、原則として良い意味で使います。ただし、本来の語源としては悪い意味で使われていたということは覚えておきたいところです。