「山紫水明」という言葉を目にしたことはありますか?
漢字だけを見ると、何となく和をイメージできるかと思います。実はこの言葉は、旅館やホテルの名前、観光地の名称などにもよく使われています。
今回はそんな有名な四字熟語、「山紫水明」の意味や使い方、由来などを解説しました。
山紫水明の意味・読み方
最初に、基本的な意味と読み方を紹介します。
【山紫水明(さんしすいめい)】
⇒自然の風景が清浄で美しいこと。日の光の中で山は紫にかすみ、川は澄みきって美しい意から。
出典:三省堂 新明解四字熟語辞典
「山紫水明」は「さんしすいめい」と読みます。意味は「自然の風景がきれいで美しいこと」を表したものです。
例えば、日本を代表するきれいな景色として富士山があります。富士山の近くに住んでいる人は、一度はその景色を見たことがあるのではないでしょうか?一言で言うと、「芸術」に近い印象ですよね。
普通の山とは違う何とも言えない美しさと清らかさを感じるでしょう。このようなきれいで美しい自然の風景は「山紫水明」と言うことができます。
また、山以外にも例えば有名な川で誰もが美しいと感じる絶景なども「山紫水明」です。多くの人が見て、きれいで美しい自然の風景だと感じれば、それは「山紫水明」ということになります。
なお、場合によっては「山」と「水」の配置を逆にして「水紫山明(すいしさんめい)」と書く場合もあります。どちらを使っても、意味自体はまったく同じです。
山紫水明の語源・由来
「山紫水明」は、幕末の儒学者である「頼山陽(らいさんよう)」が名付けた建物の名前に由来します。「儒学者」とは、中国の古い教えの一つである儒学を学んだり教えたりする人のことです。
一般的には、四字熟語は中国の古典から作られているというイメージだと思います。ところが、意外にも今回の「山紫水明」は江戸時代の日本人によって作られた造語なのです。
ここで、簡単に「頼山陽」についてご紹介しておきます。
「頼山陽」は江戸時代の後期に大阪で生まれました。その後、彼は父の仕事で広島に移った後、学者として京都へ移住することになります。
面白いのは、彼は京都に出てきてから六回も引越しをしているということです。そして、「山紫水明」という言葉が出てきたのは四回目の引越しのときでした。
その当時、彼は引っ越した建物から窓を見ます。すると、窓から見えたのは、京都の「東山(ひがしやま)」と「鴨川(かもがわ)」の美しい光景でした。
東山は、太陽に照らされて紫色に映えており、鴨川は明るく澄んだ光を放っていました。この美しい景色が気に入り、彼はその建物を「山紫水明処(さんしすいめいしょ)」と名づけたそうです。つまり、これが「山紫水明」の語源ということです。
彼は六回目の引越しでも書斎に「山紫水明処」と名づけています。こちらは今でも国の文化財として残っているので、申し込めば見学もできるそうです。
いずれにせよ、彼が名付けたこの建物の名前により「自然の美しい風景」という現在の意味になったと言えます。
山紫水明の類義語
五つ類語を紹介しました。いずれも「美しい景色」あるいは「景色が美しい」といった意味の言葉となります。
山や川、海、花など自然の美しさを表した四字熟語はいくつかありますが、その中でも「山紫水明」は「山」や「川」に使うことがほとんどです。したがって、一番近い意味の言葉は「山容水態」だと言えます。
山紫水明の対義語
逆に、「対義語」としては、次のような言葉が挙げられます。
両者とも荒れ果てた景色であったり物寂しい様子を表した四字熟語です。遠回しな言い方をするなら、「美しくない気色」を表した言葉が反対語となります。
山紫水明の英語訳
「山紫水明」は、「英語」だと次のように言います。
「scenic beauty(風景の美しさ)」
「beautiful scenery(美しい景色)」
「scenic」は「景色の・風景の」などを意味する形容詞です。また、「beauty」は「美・美しさ」を表す名詞です。合わせることで、「風景の美しさ」⇒「山紫水明」と訳すことができます。
また、「beautiful」は「美しい」という意味の形容詞、「scenery」は「景色・風景」を意味する名詞です。こちらも合わせることで、「美しい景色」すなわち「山紫水明」と訳すことができます。
例文だと、それぞれ次のような言い方です。
My birthplace is a place famous for its scenic beauty.(私のふるさとは山紫水明の地です。)
Shizuoka has beautiful scenery.(静岡県は山紫水明の地です。)
※「a place famous for its A」で、「Aで有名な場所」という意味です。
山紫水明の使い方・例文
最後に、「山紫水明」の使い方を例文で紹介しておきます。
- 京都は山紫水明の地で、毎年観光客が絶えないと聞きます。
- 山紫水明な古都だからこそ、守れる文化があると思っています。
- 頼山陽の愛した山紫水明をこの目で実際に見てみたいものです。
- 長らく山紫水明の地としてきたが、最近は枯れ木が目立つようだね。
- こんな山紫水明の地を故郷に持つことは、誇りであり喜びでもあります。
- 荒れた心が自然と洗われていくのが、山紫水明の素晴らしいところである。
- 昔はあった山紫水明の地がほとんどなくなってしまったのは残念なことです。
「山紫水明」は「自然の美しさ」を表した四字熟語でした。したがって、注意点としては人工的な景色には使わないようにする必要があります。
例えば、金閣寺や銀閣寺、清水寺などの景色は確かに美しいですが、このような景色に使ったりするのは誤用です。あくまで、自然が生み出したそのままの景色を指す時に使うようにします。
また、「山」「川」という文字が入っているので、基本的には山や川に対して使うと考えて問題ありません。ただし、最近では山や川以外にも様々な対象に使われているようです。
例えば、ホテルや競馬・牧場の名前といったものです。四字熟語は、元々の意味から派生して意味が変わって行くことがよくあります。そのため、これらの対象は一般に使われていたとしても本来の使い方とは異なるものだと認識しておきましょう。
まとめ
以上、本記事のまとめです。
「山紫水明」=自然の風景がきれいで美しいこと。
「語源・由来」=日の光に照らされ、山は紫色に見え、川の水は明るく輝く様子から。幕末の儒学者である「頼山陽」が名付けた建物の名前に由来。
「類義語」=「山容水態・花鳥風月・高山流水・風光明媚・柳暗花明」
「対義語」=「満目荒涼・満目蕭条」
「英語訳」=「scenic beauty」「beautiful scenery」
「山紫水明」は自然の美しさへの感動から生まれた言葉です。実際に山紫水明の地を訪れた際には、ぜひ使ってみてはいかがでしょうか?