「おもいで」という言葉は、漢字だと「思い出」と「想い出」の二つの表記があります。
ただ、この場合どっちを使えばよいのかという問題が生じます。特に公用文での使い分けは迷うという人も多いでしょう。
そこで今回は、「思い出」と「想い出」の違いについて詳しく解説しました。
思い出・想い出の意味
まず、「おもいで」を辞書で引くと、次のように書かれています。
【思い出(おもいで)】
①前にあった出来事や体験を心に浮かべること。また、その内容。追憶。追想。
②昔を思い浮かべる材料となる事柄。
〔「想い出」とも書く〕
出典:三省堂 大辞林
「おもいで」とは「過去の出来事や体験・内容」という意味です。要するに、「昔を懐かしんだ時の記憶」ということです。
意味については、普段からよく使うので大丈夫でしょう。気になるのは、補足の内容です。
多くの辞書では、「想い出」は補足的にしか書かれていません。また、場合によっては「想い出」という表記すらないものもあります。
実は、「想い出」という言葉は比較的近年になってから登場したものです。
その証拠に、戦前の国語辞典には「思出」という表記しか書かれていません。「想い出とも書く」という表記がされたのは、つい最近のことです。
ではなぜこのような違いになったのか、その辺の理由を詳しくみていきましょう。
思い出と想い出の違い
まず、両者の漢字を比較してみると、「思」という字は「田」+「心」の会意文字です。
「田」は「人間の頭」、「心」は「人間の心臓」を意味します。ここから、「頭脳と心臓を中心として考えること」が「思」の本来の意味となります。
一方で、「想」は「相」+「心」の会意+形声文字です。「相」は「木」+「目」から成るので、「木を見て、心で考えること」を意味します。
よって、「想」は「ある対象に向かって心で考えること」が本来の意味となるわけです。
整理すると、
「思」=頭と心を中心として考えること。
「想」=対象に向かって心で考えること。
となります。
つまり、「思」という字は「考える」という意味で広く一般に使うことになります。
【例】⇒「思考・思案・思慮・意思」など。
一方で、「想」の方は対象を強く心で思うような時にしか使いません。具体的には、懐かしい記憶や情緒的な回想など文学的な要素が含まれる場合です。
【例】⇒「回想・随想・空想・発想」など。
こうした情緒的な記憶は、「考える」という行為の中でも限定的なものです。ところが、近代に入り日本は小説文などが爆発的に増えるようになりました。
その結果、現在はその名残で、小説など文学的な対象に対して「想」がよく使われているのです。ただし、小説以外の対象では両者の使い分けは区別されているようです。
その辺の実情をさらに詳しくみていきましょう。
思い出と想い出の使い分け
まず、新聞やテレビなどのメディアは「思い出」を使うことで統一しています。
逆の言い方をすれば、「想い出」は使わないということです。これは、「懐かしさ」や「情緒的な回想」などに使う場合もです。
理由については、漢字の種類にあります。そもそも、「想」の「おも(う)」という訓は常用漢字表に掲げられていません。
「常用漢字」とは、国が一般国民に目安として示した常識的な範囲の漢字です。
現行の常用漢字表は、2010年に内閣が告示した2136字によって成り立っています。この2136字から外れた漢字については、難解な漢字が多いため一般に使うことは推奨していません。
つまり、国が「想」は難しい漢字なので使わなくていいと言っているわけです。「思」で統一しているのは、混乱を与えないためなのです。
また、国が用いる公用文・公文書なども「思」を使うことで統一しています。これも同じく、「想」が常用漢字に含まれていないという理由からです。
そのため、もしも公的な文書などを作成するような場合は「想い出」は使わないというのが原則となります。
なお、常用漢字は個人の使用を制限するものではありません。したがって、普段の文章や手紙など私文書全般に関してはどちらを使ってもよいことになっています。
その他、本や小説、漫画、ブログの文章など、自由な形式で書くことが許可されている文章もどちらを使っても構いません。
ただし、前述した通り、情緒的な意味が強調されるような場合は「想い出」を使うことが比較的多いようです。
使い方・例文
最後に、実際の使い方を例文で確認しておきましょう。
【思い出の使い方】
- 友達と学生時代の思い出を話すことにした。
- 小学校の頃の思い出は、あまり覚えていません。
- 今までの思い出を本にして出版する予定です。
- どうやら彼はもう過去の思い出は忘れたいようだ。
- それは思い出ではなく、ただの感想に過ぎない。
【想い出の使い方】
- 建物の懐かしさから、当時の想い出が蘇ってきた。
- 恩師との懐かしい想い出は、今もなお残っています。
- 昔の恋人との想い出がたっぷり詰まった写真です。
- 想い出という1ページが彼女の心に刻み込まれた。
- 夜の浜辺を歩くと、想い出深い気持ちになるものだ。
「思い出」は、事実や客観的な描写などに使うことが多いです。一方で、「想い出」の方は懐かしさや恋愛的な描写などロマンティックな場面で使うことが多いです。
特に、対象に対して強い思い入れがあるような場合は、「思い出」よりも「想い出」を使う傾向にあります。
もちろん、「思い出」の方であっても情緒的な描写や強い思い入れのある対象に対して使うことはできます。私文書として使う場合は、「どちらの方が相手に響くか?」を考えてもよいでしょう。
まとめ
以上、今回の内容を簡単にまとめておきます。
「思い出・想い出」=過去の出来事や体験・内容。
「思」=頭と心を中心として考えること。「想」=対象に向かって心で考えること。
「思い出」=広く一般に使うことができる。(新聞・公文書などはこちらを使う)
「想い出」=懐かしい記憶・情緒的な回想などに対して使う。(私文書に使うのはOK)
本など個人的な作品はどちらを使っても問題ありません。ただ、「想」は常用漢字外なので、迷った場合は「思い出」を使うのが無難だと言えます。