「抜き差しならない」という慣用句をご存知でしょうか?
主に「抜き差しならない状況になった」などのように用いられます。ただ、どのような由来を持つのかが分かりにくい表現でもあります。
そこで本記事では、「抜き差しならない」の意味や語源、使い方などを含め詳しく解説しました。
抜き差しならないの意味・読み方
最初に、読み方と基本的な意味を紹介します。
【抜き差しならない(ぬきさしならない)】
⇒身動きがとれず、どうにもならない。のっぴきならない。
出典:三省堂 大辞林
「抜き差しならない」は「ぬきさしならない」と読みます。意味は「身動きがとれず、どうすることもできないこと」を表したものです。
例えば、あなたが会社の中で重要な責任者になったとします。ところが、ミスをして取引先や上司、部下など多くの人に迷惑をかけることになってしまいました。
このような場面では、自分は責任者ですから途中で逃げ出すようなことはできません。そのため、「抜き差しならない状況になった」などと言うことができます。
つまり、「抜き差しならない」とは進むことも下がることもできないほど追い詰められている様子を表した慣用句ということです。
補足しますと、辞書の説明の「のっぴきならない」は「退っ引きならない」と書きます。意味は「抜き差しならない」と同じ意味です。「退(しり)ぞけないし、引き下がれもしない」と考えれば分かりやすいかと思われます。
抜き差しならないの語源・由来
「抜き差しならない」は、昔の武士が刀を抜くことも指すこともできない様子からできた慣用句です。
江戸時代では、武士が敵に襲われるというシーンがよくありました。そんな時は、武士は命がけで刀を抜いて戦います。
ところが、一対一ならまだしも十人くらいの大勢の敵に囲まれてしまった場合はどうすることもできません。そこまで追い詰められた状況だと、刀を抜き出すことも差し込むこともできないほどあせってしまうでしょう。
この事から、「身動きができず、どうすることもできない様子」を「抜き差しならない」と言うようになったわけです。
なお、「抜き差しならない」の語源にはもう一つの説があります。それは、「刀が錆(さ)びていて抜けない」という説です。
日本刀の成分は鉄ですので、月日が経つとどんどんとさびていきます。もしもそれが戦闘中に起これば、当然、武士は何もできない状況になってしまうでしょう。ここから同じく、どうすることもできない様子を表すようになったというわけです。
どちらの説もちゃんとした由来がありますが、いずれにせよ、「抜き差しならない」は刀を抜き差しできない様子からできた言葉ということになります。
抜き差しならないの類義語
続いて、「抜き差しならない」の類義語を紹介します。
類義語は基本的に「どうすることもできない様子」を表した言葉となります。さらに、そこから派生して「物事の進みが遅い様子」「決着がつかない様子」なども類義語に含まれます。
この中だと、「のっぴきならない」はほぼ同じ意味なので、「抜き差しならない」の同義語と言っていいでしょう。
抜き差しならないの英語訳
「抜き差しならない」は、英語だと次のように言います。
「be in a sticky situation(難しい状態の中にいる)」
「sticky」は「難しい・やっかいな・困った」という意味です、また、「situation」は「状態・情勢・事態・立場」という意味があります。
例文だと、次のように用います。
She is in a sticky situation.(彼女は抜き差しならない状況にいる。)
抜き差しならないの使い方・例文
最後に、「抜き差しならない」の使い方を例文で紹介しておきます。
- 不祥事が発覚し、彼は抜き差しならない状況にまで追い込まれた。
- 事態は悪化するばかりで、もう抜き差しならないところまできています。
- ささいなことから、抜き差しならない事態にまで発展することはよくある。
- いつの間にか、彼らは抜き差しならない対立になってしまったようだ。
- 抜き差しならない立場に置かれていて、彼女はとてもつらそうに感じる。
- 絶好調だった仕事が、抜き差しならない状況まで追い込まれれてしまった。
- うわさによると、二人は抜き差しならない仲になっているらしい。
「抜き差しならない」は、その人が追い込まれた状況を表す言葉です。したがって、基本的には良くない意味として使われます。
多くの場合、どうすることもできないほど悪化した状態や、身動きがとれないほど絶望的な状態などに対して使われます。
また、ごくまれですが、人間関係に対して使われることもあります。例えば、最後の例文です。
「抜き差しならない仲」とは「お互いに身動きがとれない仲」つまり、簡単には離れられない深い関係のことを意味します。この場合は、主に不正な金銭が絡むような人間関係を対象とし、同じく良くない意味として使われます。
まとめ
以上、本記事のまとめです。
「抜き差しならない」=身動きがとれず、どうすることもできないこと。
「語源・由来」=昔の武士が刀を抜くことも指すこともできない様子から。
「類義語」=「のっぴきならない・逃げ場のない・膠着状態・遅々として進まない・埒があかない・進退両難」
「英語訳」=「be inextricably involved」「be in a sticky situation」
武士にとって刀をうまく使えるかどうかは生死に関わってきます。もしも刀を抜くのに失敗したら、その時点で人生が終わってしまいます。「抜き差しならない」は、そのような武士の宿命を表した言葉から来ていると覚えておきましょう。