人からの頼まれごとを断った経験を持つという人は多いと思います。断る方も断られる方も決して良い気分がするものではありません。
もしもお金の絡む話なら、なおさら円満に済ませたいものです。そんな時に活躍することわざに「無い袖は振れない」があります。
今回は「無い袖は振れない」の意味や語源、類義語・英語訳などを含め解説しました。
無い袖は振れないの意味・読み方
最初に、読み方と基本的な意味を紹介します。
【無い袖は振れない(ないそではふれない)】
⇒実際にないものはどうにもしようがない。持っていないものは出せない。
出典:デジタル大辞泉(小学館)
「無い袖は振れない」は、「ないそではふれない」と読みます。
意味は「実際にないものはどうしようもない・持っていないものは出せない」などの様子を表したものです。
主に金銭について言うことが多く、借金や融資を断る際に「資金力がないこと」を伝えるような場合に用いられます。
例えば、あなたの友人がお金を貸してくれるように頼んできたとしましょう。助けを求めてきた相手には、できる限りのことをしてあげたいと思うものです。
ところが、力になりたい気持ちは山々でも、お金を全く持っていなかったため何もすることができませんでした。このような場合に、「無い袖は振れない」と言うわけです。
なお、このことわざは「無い袖は振れぬ」「有る袖は振れど無い袖は振れぬ」などの言い方をする場合もあります。いずれも全く同じ意味の表現だと考えて問題ありません。
無い袖は振れないの語源・由来
「無い袖は振れない」は、着物の袖の中に金品を入れていたことに由来することわざです。
「袖」とは「着物における腕を通す部分」を指し、江戸時代ではこの袖の中に金品を入れて持ち歩いていました。当時は、今のようにポケットやカバンがない時代なので、ちょっとした品物などは袖の中に入れていたわけです。
ここで話を深堀りしますと、お金を借りたい人の袖がなかった場合、相手からお金を借りることはできません。何も入れる所がないので当然でしょう。
つまり相手からすると、着物に袖がなければ振りたくても振れない(お金がないことを袖を振ってアピールできない)ということになります。
転じて、「ないものはどうしようもない」「持っていないものは出せない」などの意味になったわけです。現在でもこの名残は強いため、「無い袖は振れない」は金銭的な援助や返済を断る時に使われることが多いです。
無い袖は振れないの類義語
続いて、「無い袖は振れない」の類義語をご紹介します。
紹介した類義語のうち、最初の二つに関しては「資金力がない」ということを表しています。残りの二つは、金銭に関わらず、単に「ない」という意味を表した表現です。
いずれも似たような意味ですが、「無い袖は振れない」は、「本当は力になりたい」という気持ちが込められている点が他とは多少異なります。
無い袖は振れないの英語訳
「無い袖は振れない」は、英語だと次のように言います。
「A man cannot give what he hasn’t got.」(人は持っていないものは与えられない。)
「I can’t give what I don’t have.」(持っていないものを与えることはできない。)
その他、似たような意味を持つ英語のことわざもご紹介しておきます。
Nothing comes from of nothing.(無から有は何も生じない。)
「何もないところからは何も生まれない」という意味になり、「無い袖は振れない」と同じように使うことができます。
You can’t take blood from a stone.(石から血を取ることはできない。)
「どんなに頑張っても、できないという結果は変わらない」ということを表したことわざです。
日本では「着物の袖がない」=「お金がないこと」を表します。一方で、英語圏などの着物を着る文化のない所では「お金」というニュアンスは含まれない表現となります。
無い袖は振れないの使い方・例文
最後に、「無い袖は振れない」の使い方を例文で紹介しておきます。
- 滞納している家賃を今すぐにでも払いたいが、無い袖は振れない。
- 彼の力になってあげたいのは山々だが、とにかく無い袖は振れない。
- 借りたお金の返済日は過ぎているが、無一文なので無い袖は振れない。
- 力を入れた企画なので出資してほしいが、無い袖は振れないと言われた。
- 援助したい気持ちは山々だけど、私も給料日前なので無い袖は振れない。
- レンタカーを壊してしまい修理代を請求されたが、無い袖は振れない。
「無い袖は振れない」は、「持っていないものは出せないこと」を意味することわざです。相手に協力したい気持ちはあるものの、実際には何もできない様子を表します。そのため、言われた側は納得するしかありません。
そういう意味では、「力になりたい」というのが本心ではないにしても、事態を穏便に済ませるには効果的な言葉と言えます。特にお金の話というのは信頼関係にも関わってくるデリケートな問題ですので、トラブル防止のためにも使いやすいことわざです。
逆に言うと、それが民事訴訟などの裁判の場面では、かえって害になってしまうことがあります。例えば、損害賠償請求をして勝訴した場合でも、相手に支払い能力がない場合、お金を回収することはできません。
このように、泣き寝入りするしかないどうしようもない状態のことを、法律関係者の間で「無い袖は振れない」と言うことがあります。新聞などでもよく使われるので、こちらの使い方も覚えておくとよいでしょう。
まとめ
以上、本記事のまとめです。
「無い袖は振れない」=実際にないものはどうしようもない。持っていないものは出せない。
「語源・由来」=着物の袖の中に金品を入れていたことから。(着物に袖がなければ、振りたくても振れない様子)
「類義語」=「鼻血も出ない・素寒貧・無い物は無い・無きに等しい」
「英語訳」=「A man cannot give what he hasn’t got.」「I can’t give what I don’t have.」
「無い袖は振れない」は、昔からある着物を由来とすることわざです。使う機会がないことが望ましいですが、断り方の一つとして覚えておくと役に立つのではないでしょうか?