「むかえる」という動詞は、次のように二つの漢字が使われています。
「お客様を迎える」「家に向かえる」
どちらも同じ読み方ですが、この二つはどう使い分ければいいのでしょうか?今回は、「迎える」と「向かえる」の違いについて詳しく解説しました。
迎えるの意味
まず、「迎える」の方を辞書で引くと次のように書かれています。
【迎える(むかえる)】
①人の来るのを待ち受ける。
②呼んで、来てもらう。呼びよせる。
③招いて仲間や家族に加え入れる。
④(確実にやってくる)ある時期や段階を目前にする。
⑤よしとして受け入れる。ごきげんをとる。
⑥相手の攻撃を待ち構えて防ぐ。
出典:デジタル大辞泉(小学館)
「迎える」は、主に6つの意味があります。それぞれの使い方は、以下の通りです。
- 友達を迎える。(待ち受ける)
- 医者を迎える。(呼び寄せる)
- 養子を迎える。(仲間や家族に加える)
- 8月を迎える。(時期が目の前に来る)
- 上司の意を迎える。(意見を受け入れる)
- 敵を迎える。(攻撃を待ち構える)
「迎える」の基本的なイメージとしては、「人や時期などがやって来る」と考えれば分かりやすいでしょう。
「迎」という字は、「辶」+「卬」の形成文字から成り立っています。「辶」は「立つ人」の象形文字、「卬」は「ひざまずく人」の象形文字です。
つまり、「迎」という字は「立っている人が、ひざまずく人から見られている様子」を表す言葉となります。転じて、現在では「迎」=「何かがやって来る(向かってくる)様子」という意味で使われているわけです。
「迎」を使った熟語は、以下のようなものがあります。
- 「歓迎(かんげい)」⇒人がやって来るのを喜ぶこと。
- 「迎春(げいしゅん)」⇒新年がやって来ること。(年賀状などに書く)
- 「迎賓館(げいひんかん)」⇒海外の大統領が来た時のための宿泊施設。
このように、自分に対して何かが向かってくるような意味を持つのが「迎える」となります。
向かえるの意味
次に、「向かえる」についてです。「向かえる」の意味は、辞書で調べても載っていません。
どの辞書で調べても「迎える」は辞書に表記されていますが、「向かえる」の方は辞書には表記されていないです。
ではなぜ、「向かえる」という言葉が使われているのかと言いますと、それは「向かう」と「れる(可能)」がくっつき、「向かえる」となった形があるためです。つまり、「向かうことができる」という意味です。
文法では動詞の語尾に「れる」や「られる」がつくと、「~が可能」という意味になります。
【例】
「食べる」+「られる」⇒「食べられる」(食べることができる)
「教える」+「られる」⇒「教えられる」(教えることができる)
このように解釈すると、なぜ「向かえる」という言葉が存在するかも分かるでしょう。
「食べられる」や「教えられる」を辞書で調べても載っていませんが、普段の文章では使われています。これと同様に、「向かえる」も実際の文章では問題なく使うことができるのです。
したがって、「向かえる」は以下のような使い方となります。
- 友達の家へ向かえる。
- 困難に立ち向かえる勇気。
- 机に長く向かえる方法。
- 最短で向かえるルート。
「向かえる」の場合は、何かに対して自分が向かっていくようなイメージで考えれば問題ありません。
迎えると向かえるの違い
以上の事から考えますと、両者の違いは次のように定義することができます。
「迎える」=自分に対して何かが向かってくる。
「向かえる」=何かに対して自分が向かっていく。(可能の意味)
つまり両者の違いを一言で言うと、「向かう方向性」ということです。
「迎える」は人や時期を自分が受け入れる行為なので、自分の方へ相手がやって来ることを意味します。一方で、「向かえる」は自らが向かっていく行為なので、自分の方が相手の方へ向かうことを意味します。
要するに、目的地に向かっている側としては「向かえる」、目的地で待っている側としては「迎える」ということです。
別の言い方をすると、「迎える」は「受動的」、「向かえる」は「能動的」とも言えるでしょう。
「迎える」の場合は、相手がこちらへ来るまでずっと待つようなイメージです。対して、「向かえる」の場合は自分の方から自発的に相手へ行くようなイメージとなります。
むかえるの類義語・英語訳
「むかえる」の違いは、類義語と英語訳を覚えておくと忘れにくいでしょう。まず、「迎える」の類義語は次の通りです。
- 待つ
- 受ける
- 構える
いずれも受動的な表現であることが分かるかと思います。対して、「向かえる」の類義語は次のようになります。
- 行ける
- 進める
- 通える
こちらは能動的な表現となっています。
そして、両者の英語訳は以下の通りです。
「迎える」=「greet」「invite」「welcome」
「向かえる」=「can go to」「can head for」
「迎える」は、「greet(歓迎する)」、「invite(招く)」、「welcome(歓迎する)」など誰かを受け入れる動詞が主となります。
対して、「向かえる」の方は大前提として前に「can(~できる)」という助動詞が付きます。その後に、「行く」「進む」などの動詞が来ます。
このように比較すると、両者は全く別の言葉だということが改めて分かるでしょう。
むかえるの使い方・例文
最後に、それぞれの使い方を具体的な例文で紹介しておきます。
【迎えるの使い方】
- 明日は高校の卒業式を迎える日なので緊張しています。
- 今夜は早めに寝て、目覚めの良い朝を迎えるつもりです。
- 訪問してきた友人たちを家で迎えることになりました。
- 父は来年で定年を迎えるので、プレゼントを贈る予定です。
- ようやくドラマの最終回を迎えることができました。
【向かえるの使い方】
- 最短で目的地へ向かえる方法を考えるつもりです。
- 正午までにはそちらの家へ向かえると思います。
- クラス全体が良い方向へ向かえるようにしたいです。
- 仕事の量を少なくし、パソコンに向かえる時間を増やす。
- 完全に覚えてから、次のステップへ向かえるようにします。
補足しますと、「向かう」+「れる・られる(受け身)」という意味での「向かえる」は誤った使い方です。仮に「向かう」を強引に受け身にすると、「向かわれる」という敬語のような言い方になってしまいます。
この場合は、すでに「迎える」という言葉が存在するので、「向かわれる」とは言いません。本来の使い方である「迎える」の方を使うようにしましょう。
また、もう一つ注意点としては、「迎える」を「お客様を迎えに行く」などと言ってしまう場合です。これはビジネスなどでよく使われる表現なのですが、実際は相手がやって来るのではなく「相手の方へ自分が行く行為」なので誤用です。この言い方は間違える人が多いので注意して下さい。
まとめ
以上、本記事のまとめとなります。
「迎える」=自分の方へ相手がやって来る。(受動的)
「向かえる」=相手の方へ自分が行く。(可能の意味・能動的)
「迎えるの類語・英語」=「待つ・受ける・構える」「greet・invite・welcome」
「向かえるの類語・英語」=「行ける・進める・通える」「can go to・can head for」
違いを見分けるポイントは、方向性ということでした。「向かえる」は、基本的に可能の意味以外では使えないので注意しましょう。