ものとことば  要約 200字 意味調べ 授業 学習の手引き 筆者の考え

『ものとことば』は、鈴木孝夫による評論文です。高校教科書「現代の国語」にも採用されています。

ただ、実際に文章を読むと筆者の主張が分かりにくい箇所も多いです。そこで今回は、『ものとことば』のあらすじや要約、意味調べなどを含めわかりやすく解説しました。 

『ものとことば』のあらすじ

 

本文は、大きく分けて3つの段落から構成されています。ここでは、各段落ごとのあらすじを簡単に紹介していきます。

あらすじ

①私たちは、数えきれないほどのたくさんのものやことに囲まれて生活している。そして、この生活をとりまくものやこと、すなわち森羅万象には、すべてそれを表すことばがあるという素朴で確たる実感を抱いている。多くの人は、「同じものが、国が違い言語が異なれば、全く違ったことばで呼ばれる」という認識を持っており、一種の信念とでも言うべき、大前提をふまえているのである。

②ところが、哲学者や言語学者の中には、この前提に疑いを持っている人たちがいる。私も言語学の立場から、ものという存在がまずあって、それにことばがつけられるのではなく、ことばが逆にものをあらしめているという見方をしている。一口で言えば、「初めにことばありき」である。初めにことばがあり、私たちはことばによって世界を認識しているのであり、ことばの構造やしくみが違えば、認識される対象も当然変化せざるを得ないのである。

③ことばは、連続的で切れ目のない素材の世界に、人間の見地から、人間にとって有意義と思われるしかたで、虚構の分節を与え、分類するはたらきを持つ。言葉はたえず生成し、常に流動している世界を、あたかも整然と区別された、ものやことの集合であるかのような姿の下に、人間に提示する虚構性を持っているのである。

『ものとことば』の要約&本文解説

 

200字要約私たちは、森羅万象にはすべてそれを表す言葉があるという実感を抱いており、多くの人は、同じものが、国や言語が異なれば、全く違ったことばで呼ばれるという認識を持っている。だが、ことばがものをあらしめているのであり、私たちはことばによって世界を認識するため、言語の構造が違えば認識される世界も変わる。言葉は、連続的で切れ目のない世界を、ものやことの集合であるかのように提示する虚構性を持っているのである。(199文字)

筆者の主張を一言で言うなら、「ことばがあることで、ものが認識される」ということになります。この事を本文中では、「初めにことばありき」ということに尽きる、と述べられています。

私たちは通常、「ものがまず存在し、それに対して人間が名前(言葉)を付ける」と考えがちです。しかし、筆者はそうではないのと主張します。

筆者は、ことばがものを存在させているのであり、言葉があることで私たちは世界を認識しているのだと述べています。この事を分かりやすくするために、筆者は「机」を例に挙げています。

「机」というのはさまざまな形や素材、色、大きさ、足の本数などがあるため、外見的な特徴から「机」を定義することはほぼ不可能です。そのため、人間の外側に存在する性質(もの)ではなく、人間側の要素・見地(言葉)によって定義しています。

この事こそが、私たちが言葉によってものを認識している根拠なのだと筆者は述べています。

このように、「もの」と「ことば」のどちらが先か?という議論は古くから行われてきました。「もの」が先だと考える哲学を「実念論」、「ことば」が先だと考える哲学を「唯名論」と言います。

本文の場合、筆者は「唯名論」が正しいと考えているため、終始この世界は「ことば」があることで「もの」が認識されるという主張を行っています。

初めからこの世界は認識されているわけではなく、「ことばによってこの世界は分けられている」という筆者の主張を読み取ることがポイントとなります。

『ものとことば』の意味調べノート

 

【雑然(ざつぜん)】⇒いろいろなものが入り乱れて、まとまりのないさま。

【ぎっしり】⇒ものが隙間なく詰まっているさま。

【多岐にわたる(たきにわたる)】⇒物事が多方面に及んでいる。

【膨大(ぼうだい)】⇒非常に大きいさま。

【固有の名称(こゆうのめいしょう)】⇒そのものだけにある名前。ここでは、自然界の鳥類、動物、昆虫、植物などにそれぞれ個別の名前があることを指す。

【総和(そうわ)】⇒全体の合計。全体を合わせた数量。

【森羅万象(しんらばんしょう)】⇒宇宙に存在するすべての事物や現象。

【素朴(そぼく)】⇒素直で飾り気がないさま。考え方が単純であるさま。

【確たる(かくたる)】⇒確かな。しっかりした。

【実感(じっかん)】⇒心の底からそうだと感じること。また、その気持ち。

【信念(しんねん)】⇒正しいと信じる自分の考え。

【哲学者(てつがくしゃ)】⇒哲学を研究する学者。「哲学」とは、世界・人生などの根本原理を追求する学問を指す。

【レッテルを貼る(レッテルをはる)】⇒一方的・断定的に評価をつける。ここでは、そのものにあらかじめ決まった名前が存在しているかのように、ことばをつけることを指す。

【あらしめる】⇒あるようにさせる。存在を示すようにさせる。※「ことばが逆にものをあらしめている」で、ものが先にあってそれぞれ名がつけられているのではなく、ことばがものを認識させているという意味。

【相違(そうい)】⇒二つのものの間にちがいがあること。

【空々漠々(くうくうばくばく)】⇒何もなく、果てしなく広いさま。また、とりとめもなくぼんやりしたさま。

【把握(はあく)】⇒しっかりと理解すること。

【比喩(ひゆ)】⇒何かを他の何かに置きかえて表現すること。

【抽象的(ちゅうしょうてき)】⇒頭の中だけで考えていて、具体性に欠けるさま。

【定義(ていぎ)】⇒物事の意味・内容を他と区別できるように、言葉で明確に限定すること。

【要素(ようそ)】⇒あることを成り立たせているもの。

【相対的(そうたいてき)】⇒他との関係において成り立つさま。また、他との比較の上に成り立つさま。

【特有(とくゆう)】⇒そのものだけが特にもっていること。また、そのさま。

【渾沌(こんとん)】⇒すべてが入りまじって区別がつかないさま。

【有意義(ゆういぎ)】⇒意味・価値があると考えられること。また、そのさま。

【虚構(きょこう)】⇒事実でないことを事実らしく仕組むこと。

【本質的(ほんしつてき)】⇒物事の根本的な性質にかかわるさま。

『ものとことば』のテスト対策問題

 

問題1

次の傍線部の仮名を漢字に直しなさい。

エンピツを購入する。

ケントウもつかない。

ビミョウな違い。

ソボクな疑問を持つ。

チュウショウ的な話をする。

⑥机のケイタイを定義する。

セイゼンとした行列。

解答①鉛筆 ②見当 ③微妙 ④素朴 ⑤抽象 ⑥形態 ⑦整然
問題2「ものとことばは、互いに対応しながら人間を、その細かい網目の中に押し込んでいる。」とあるが、これはどういうことか?
解答例私たち人間は、ものとそれに対応することばの結びつきが隙間なく編まれた網目のように細かい部分にまで及ぶ状態で生活しているということ。
問題3「これが私たちの素朴な、そして確たる実感であろう」とあるが、「素朴な、そして確たる実感」という表現を筆者が使った意図は何だと考えられるか?
解答例私たちが、「森羅万象には、すべてそれを表すことばがある」ということを、疑いのないこととして考えていることを改めて認識させるため。
問題4「ことばが逆にものをあらしめている」とはどういうことか?
解答例「もの」が先にあってそれぞれ名前がつけられているのではなく、「ことば」の力によって「もの」が認識されているということ。
問題5「世界の断片」とは、ここでは何を表しているか?
解答例ことばによって認識される以前の、素材として世界にあるいろいろな事物。
問題6「そこにものがあっても、それをさす適当なことばがない場合、そのものが目に入らない」とあるが、これはどういうことか?
解答例ものはことばによってはじめて認識されるため、そのものをさすことばがない場合には認識できないということ。
問題7「ことばというものは、混沌とした、連続的で切れ目のない素材の世界に、人間の見地から、人間にとって有意義と思われるしかたで、虚構の分節を与え、~」とあるが、「虚構の文節を与える」とはどういうことか?
解答例まだ認識されていない混沌とした素材の世界を、ことばによって人間にとって有意義なように分類すること。

まとめ

 

以上、今回は『ものとことば』について解説しました。言語について論じた評論は入試においても頻出です。ぜひ正しい読解をできるようになってください。