「めど」という言葉は普段からよく聞きます。「半年先を目途とする」「復帰の目処が立つ」
ただ、似たような漢字なのでどちらを使えばよいか迷うという人も多いでしょう。そもそも、なぜ2つの漢字が存在するのかも気になるところです。
そこで本記事では、「目途」と「目処」の違いや使い分け、語源などを詳しく解説しました。
目途の意味・読み方
まず最初に、「目途」の方を辞書で引いてみます。
【目途(もくと)】
①めあて。目的。
②目標。めど。
出典:三省堂 大辞林
「目途」は「もくと」と「めど」の両方で読むことができます。ただ、原則として「もくと」と読む言葉だと考えてください。
「目途」の意味ですが、「目当て・目的・目標」などがあります。この中でも特に、「目標」という意味で使われることが多いです。
例えば、「建物の工事は、年内の完成を目途とする。」という文であれば、「年内完成を目標に建物の工事をする。」という意味になります。
「目途」は、このように何らかのゴールを設定する時に使います。
目処の意味・読み方
次に、「目処」の方も辞書で引いてみます。
【目処(めど)】
⇒目あて。目標。見当。
出典:三省堂 大辞林
「目処」は、「めど」と読みます。「もくと」とは読みません。
主な意味としては、「目あて・目標・見当」などがあります。この中でも特に、「見当」という意味で使われることが多いです。
「見当(けんとう)」とは「見通しや予想のこと」だと考えてください。
例えば、「今週中には仕事に復帰する目処がつく。」という文であれば、「今週中には復帰をする見通しがつく。」という意味になります。
逆に、「目処がつかない」だと以下のような意味となります。
- 見通しが立たない
- いつになるか分からない
- 将来のことが分からない
「目処」はこのように、「目処がつく」「目処がつかない」などの言い方をする言葉となります。
目途と目処の語源・由来
「目途」と「目処」は、なぜ読み方が複数あるのでしょうか?
先に結論を言いますと、「目処(めど)」の方が元からあった言葉です。この「目処」に対して、後から「目途(もくと)」という言葉が登場しました。
では、元々あった「めど」という言葉はそもそもどこから来たのかという疑問がわいてきます。
「めど」の「語源」は諸説ありますが、一般的には植物の筮萩(めどはぎ)からと言われています。「めどはぎ」とは「ハギ科の雑草」を指し、「易(えき)」という占いをする時に古くから用いられていました。
「易」では「筮竹(ぜいちく)」という細い棒のたばを使います。この「ぜいちく」にめどはぎの茎を用いたことから、「占い」のことを「めど」と呼ぶようになったのです。
「占い」は、将来を予測して人にアドバイスを与えるものです。転じて、「目標・見通し」などの意味を持つ「めど」が成立したと言われています。
そしてここからがポイントなのですが、「目途」と「目処」の一番の違いは、「漢語か和語か」ということです。
「漢語」とは「中国由来の語」、「和語」とは「日本に元からあった語」のことを言います。このうち、「目途」は「漢語」、「目処」は「和語」です。
厳密に言いますと、「目途」の方は通常の漢語ではなく、「和製漢語(日本で日本人により作られた漢語)」と言われています。ただ、そこまで話すと長くなりますので本記事では割愛します。
何はともあれ、「目処」の方が先にあり、それに合う漢字の「目途」が後から日本で作られたということです。
「目処」の方は、「目標」の「目」に場所を表す「処」です。一方で、「目途」の方は「目標」の「目」に「途中」の「途」をつけた当て字です。
その後、「目途」は「目標」の意味で「もくと」と読んでいましたが、「目処」と似た意味であるため、次第に「めど」とも読むようになったのです。
ただ、現在では両者を区別するために「目途」の方は「もくと」と読むのが原則となっています。
目途と目処の違い・使い分け
ここまでの内容を整理すると、
「目途(もくと・めど)」=目当て・目的・目標。後から作られた漢語。
「目処(めど)」=目あて・目標・見通し。元からあった和語。
ということでした。
両者の違いは、大きく分けて2つあります。
1つ目は、「使い方の違い」です。
「目途」は主に「目標」という意味で使いますが、「目処」は「見通し」という意味で使います。
つまり、どちらもほとんど同じ意味ですが、使い方が微妙に異なるということです。これは明確な理由があるわけではなく、慣習的な違いだと考えれば問題ありません。
そして2つ目は、「読み方の違い」です。
すでに説明した通り、どちらの言葉も一応は「めど」と読めるということでした。ただ、「目途」の方は厳密には「もくと」と読みます。
これは両者を分かりやすく区別するためというのもありますが、そもそも文法的な理由があるためです。
仮に「目途」を「めど」と読むと、「湯桶(ゆとう)読み」になってしまいます。「湯桶読み」とは、「前の字が訓読み・後ろの字が音読みの熟語」のことを指し、本来の読み方ではない不規則な読み方のことです。
「目途」の「目」という字は、「音読み」で「モク」、「訓読み」で「め」と読みます。
そして、「途」という字は、「音読み」では「ト」と読みますが、「訓読み」では読み方が存在しません。その理由は、「目途」の方は「漢語」だからです。
したがって、「目途」を「めど」と読んでしまうと、本来の正しい読み方とは言えないわけです。逆に、「目処」の方は純粋な「和語」なので、こちらは「めど」と読むのが正しい、という結論になります。
以上、違いをまとめますと次のようになります。
「目途」=「もくと」が正式な読み方。「目標」の意味で使うこと多い。
「目処」=「めど」と読む。「見通し」の意味で使うことが多い。
なお、日本新聞協会の「新聞用語集」には以下のように記述されているようです。
「目途・目処」→「めど」と書く。
言いかえれば、どちらもひらがなで書くことを推奨するということです。
新聞などの読み書きの世界では、まぎらわしさよりも簡潔さの方を重視します。そのため、上記のようなルールで統一しているのでしょう。
仮に「めどとする」などであれば、「~を目標とする」「~を目的とする」などの書き換えをしてもよいかと思います。この辺りは、様々な表現方法があると考えてください。
一般的には、「目途」がよく使われるのは公文書などの堅い文書が多いです。一方で、「目処」の方は公文書に限らず、日常生活からビジネス、話し言葉まで幅広い場面で使われます。
目処と目途の類義語
続いて、「目処」と「目途」の類義語を紹介します。
以上、主な類義語を紹介しました。基本的には、将来の目標や目的などを表した言葉で言い換えることができます。そこから派生して、「見通し」や「見込み」なども類義語となります。
目途と目処の使い方・例文
最後に、それぞれの使い方を例文で確認しておきます。
【目途の使い方】
- 政府は3年後を目途にインフレ率を2%まで上げる予定だ。
- 半年先を目途に選挙を始める準備にかかってください。
- 市内の学校にエアコンを導入することを目途とする。
- 大事なメールなので、明日を目途に返信するように。
- 彼はついに目途の獲物を見つけることができたようだ。
【目処の使い方】
- 重い病気なため、復帰の目処が立っていません。
- いつまでこの状況が続くのか目処がつかない。
- 雨が強すぎるので、ゲーム再開の目処はついていない。
- 来週の日曜日を目処に荷物を郵送するつもりです。
- 建物完成までの期間だが、だいたいの目処がついた。
補足すると、「目処」の方は「目処が立つ」という言い方をする場合もあります。ただし、本来の使い方としては「目処がつく」が正しいです。
逆に、「目途がつく」という言い方はまずしないと考えていいです。その理由は、「目途」には「見通し」という意味は含まれていないからです。
まとめ
以上、本記事のまとめとなります。
目途 | 目処 | |
読み方 | もくと | めど |
意味 | 目標(目的・目当て) | 見通し(目標・目当て) |
違い | 後から作られた漢語 | 日本に元からあった和語 |
使い分け | 公文書などの堅い文書に使う | 日常生活からビジネスまで幅広く使う |
ポイントは、両者の語源を覚えておくことだと言えるでしょう。「目処」の方が元から存在した漢字です。そのため、一般的には「目処」の方が使われているということです。