「構造主義」という言葉をご存知でしょうか?主に言語学や心理学・数学などの分野で使われており、大学入試現代文のテーマの中で登場することもあります。
ただ、同時に意味が分かりにくいと感じる人も多いと思われます。そこで今回はこの「構造主義」について、具体例を交え簡単にわかりやすく解説しました。
構造主義を簡単に
まず、「構造主義」の意味を調べると次のように書かれています。
【構造主義(こうぞうしゅぎ)】
⇒実存主義流行の後にあらわれた現代の思潮。ソシュールの言語理論の影響のもとで諸現象を記号の体系としてとらえ、規則・関係などの構造分析を重視する。言語学や人類学のほか、心理学・精神医学・数学などの諸分野に広く、多様に展開される。
出典:デジタル大辞泉(小学館)
「構造主義」とは「構造を分析し、人間の様々なことを明らかにしようとする考え方」のことです。
この説明だけだと分かりにくいため補足を入れましょう。「構造」とは「物事を成立させている仕組み」を表します。
例えば、「建物の構造」であれば「木造」で「2階建て」で「柱」があるといったことです。また、「肉体の構造」であれば「手足」や「骨」があり「内臓」があるといったことです。
つまり、物事の各要素によって成り立っている仕組みを「構造」と言うわけです。
ここで大事なのは、「構造主義」は「建物」や「肉体」のような目に見えるものを分析する考えではないということです。
「構造主義」は、社会や文化の根底にあるような目に見えない構造を分析します。言いかえれば、「当たり前だけども、実は明確に自覚していない構造」ということです。
世の中には、目に見えない当たり前の構造が多くあります。
- 言葉の構造
- 思考の構造
- ルールの構造
これらの目に見えない構造は、普段は人々に意識されることはありません。意識されない構造なので、当然人の目には見えない隠れたものです。
「構造主義」ではこのような隠れた構造を分析し、人間の社会や文化を支えている根底的な仕組みを研究しようとするのです。
構造主義をわかりやすく
「構造主義」という言葉を、「ゲーム」で例えてみましょう。
ゲームというのは、ボタン一つでプレイヤーが動きます。また、クリック一つで画面が変更されたりします。
その理由は、ゲームの内部には目に見えないプログラムが仕組まれているからです。
これは「プログラマー」という職業の人が、あらかじめゲーム内部に構造を作っているからだと言えます。
私たちは普段から何気なくゲームをプレイしていますが、その背後にはプログラムという構造が仕組まれているのです。
これと同じように、「私たちの行動や習慣にも、目に見えない構造が働いているんじゃないの?」という考えが「構造主義」なのです。
元々、この言葉は「実存主義」を批判する形で生まれました。
「実存主義」とは「人間は自分自身の意思で、主体的な人生をつくれる」という考え方のことです。
しかし、「構造主義」はこのような考えを真っ向から否定しました。最も有名なのが、文化人類学者の「レヴィ・ストロース」という人物です。
「レヴィ・ストロース」は、「未開社会」の結婚制度や親族関係には不変の構造があると主張しました。そして、「未開社会」にもちゃんとした構造があることを指摘したのです。
当時の学者たちは、文化や社会制度の背後には、目に見えない何らかの構造があることに注目し、その見えない何かにより人間は動かされていると考えました。
つまり、「人間は何らかの社会構造に支配されており、決して自由に物事を決めているわけではない」と主張したのです。
「構造主義」の根本には、「人間の自由な判断は、実は社会や文化の影響を受けている」という考えがあるのです。
構造主義の具体例
「構造主義」の具体例としては、「スタンフォード監獄実験」と呼ばれるものがあります。
「スタンフォード監獄実験」とは、1971年にアメリカのスタンフォード大学で行われた心理実験のことです。
この実験で証明しようとしたのは、「人間の行動は元々の性格で決まるのではなく、置かれた状況により決まる」というものです。
実験では、新聞広告などで集められた大学生70人の中から、21人が被験者として選び出されました。
21人の被験者の内11人を看守役に、そして10人を囚人役に分け、実際の刑務所に近い設備を作り、それぞれの役割を演じさせました。
看守役には軍服や警棒、表情を読み取られないようにサングラスを支給します。そして、囚人役には、指紋を採取したり目の前で服を脱がしたりといった屈辱的な行為を行います。
これらを行った理由は、看守役には「権威」、囚人役には「無力感」を与えるためだと言われています。
いざ実験がスタートすると、最初の方は、看守役の被験者達は自分たちの役割に戸惑いを感じる様子を見せます。
ところが、しばらく時間が経つと不思議なことに、囚人は囚人らしく、看守は看守らしく振る舞いようになったというものです。
つまり、この心理実験から言えるのは、「人間は自分の意志によって行動しているのではなく、実は周りの環境や立場によって行動させられている」ということです。
この実験の正当性が100%保証されているというわけではありません。しかし、私たち人間は自身の置かれている環境に影響されるのは間違いありません。
人間は自分で思うほど自由に物事を決めてはいなく、周囲の環境や立場すなわち「構造」によって、無意識の内に考えさせられていると言えるのです。
構造主義の歴史背景
「構造主義」という考え方は、すでに説明したように「実存主義」の後に生まれました。時代としては、「近代」が終わってからの話です。
近代では、「人間は自由に行動する主体である」という価値観が重視されていました。
そしで、西洋の近代社会では、人々は自分たちの文化こそが優れており、いわゆる未開社会の中に生きる人々は劣っていると当たり前のように信じていました。
自分たちは絶えず進歩に向かい、自分の理性に従ってこそ自由に突き進んでいるという「実存主義」がもてはやされていたのです。
ところが、近代が終わった後の「構造主義」は実存主義的な考え方は認めませんでした。なぜなら、「人間がまず動くのではなく、無意識の構造が先に来る」という考えが「構造主義」だからです。
つまり、人間を規制している社会の隠れた構造こそが重要であるという主張です。
「構造主義」を唱える人が無意識の構造にこだわる理由は、ヨーロッパ中心主義への批判のためだと言われています。
「ヨーロッパ中心主義」とは「ヨーロッパ人が世界で一番偉く、それ以外は劣っている」とする考えです。
ヨーロッパ人は、昔から「未開社会」を野蛮と考えていました。そして、当時の世界は欧米人が中心となり、自然を破壊し続けていました。
そのため、「構造主義」を唱える人が「あらゆる社会には共通する普遍的な構造がある」と主張したのです。
要するに、ヨーロッパ中心に世の中が動いていると考えるのではなく、もっと広い「大きな社会という構造の中で世の中が動いている」と主張したということです。
もっと簡単に言えば、「西洋が特別な存在なのではない」と主張したのが「構造主義」ということになります。
「実存主義」以外にも、「近代的自我」や「心身二言論」なども近代という時代特有の考え方で、普遍性があるわけではありません。
そういう意味では、構造主義的な考え方こそが、近代批判の方法を切り開いたものとも言うことができます。
構造主義の使い方・例文
「構造主義」という言葉は、実際にどのように使われるのでしょうか?以下の例文で確認しておきましょう。
- レヴィストロースの構造主義により、無意識の秩序が注目されるようになった。
- 構造主義は、主体や実体を重視する実存主義とは完全に異なる考え方である。
- 近代が終わり、西欧中心主義への批判から生まれたのが構造主義であった。
- 構造主義は、実存主義やマルクス主義を批判する形で生まれた考えである。
- 西洋が特別優れた存在であるわけがないと主張した考えが、構造主義であった。
- 人間は所詮動物世界の掟に従っているに過ぎないと考えるのは構造主義的である。
- 構造主義の影響を受けて、ポストモダン的な考え方が西洋諸国に広まった。
「構造主義」は、主に哲学や思想をテーマとした評論文において使われます。
評論文ではまず、近代における西洋中心主義や実存主義について語られます。その後で、これらの考え方を否定した内容を説明しながら、「構造主義」が用いられることが多いです。
なお、「構造主義」は「マルクス主義」と合わせて出題されることもあります。また、時代としては近代の後なので「ポストモダン」と絡めて出される場合もあります。
まとめ
以上、本記事のまとめとなります。
「構造主義」=構造を分析し、人間の様々なことを明らかにしようとする考え。
「根本にある考え」=人間の自由な判断は、実は社会や文化の影響を受けている。
「具体例」=1971年にアメリカで行われた「スタンフォード監獄実験」
「歴史・背景」=近代的な考えを否定する時代の流れの中で生まれた。
「構造主義」とは「社会や文化の根底にはそれぞれの構造(仕組み)があり、人は無意識の内に構造に影響されて行動するものだ」とする考えです。ポイントとしては、①「実存主義」を批判。②「ヨーロッパ中心主義」を批判。③「近代的な考え」を認めない。この3つを覚えておくようにしましょう。