「心にしみる」と書く場合、次のように二つの表記の仕方があります。
「心に染みる」 「心に沁みる」
この場合、どちらが正しい漢字なのかという問題があります。また、そもそもなぜ二つの漢字が存在するのか気になる人も多いと思われます。
そこで今回は、「心にしみる」の意味や例文、語源、漢字表記、類語などを詳しく解説しました。
心にしみるの意味
まず、この言葉の意味を辞書で引いてみます。
【心に染みる(こころにしみる)】
⇒心に深く入りこむ。しみじみと感じられる。
出典:デジタル大辞泉(小学館)
「心にしみる」は、辞書だと「心に染みる」と表記されています。意味は「心に深く入り込む・しみじみと感じられる」といったことです。
例えば、あなたが誰かの講演会に行って、心に深く響くような名言を聞いたとしましょう。講演会が終わって家に帰ってからもじわじわと脳裏に焼き付くようなセリフでした。
このような時に、「心にしみる名言だった。」などのように言うわけです。
あるいは人の言葉でなくても構いません。映画やアニメ、漫画などの1シーンを見て心がジーンと来るような体験をしたとしましょう。
激しく心が揺さぶられるような感動でなくても、静かにじわじわと奥深く浸透するような気持ちです。このような感情を「心にしみる」と表現するのです。
心に染みると心に沁みるの違い
「心にしみる」の「しみる」は、漢字だと「染みる」と「沁みる」の二つがあります。
しかし、すでに説明したように辞書の表記だと「心に染みる」の方だけが記述されています。「心に沁みる」と記述されている辞書はありません。
これはなぜかと言いますと、「沁」という漢字は常用漢字には含まれていないためです。
「常用漢字」とは「一般人が使う基本的な漢字の目安を国が示したもの」です。この中に「沁」という字は含まれていません。
要するに、「沁」は難しい漢字なので、国が使うことを推奨していないということです。対して、「染」の方の字は常用漢字に含まれているので、辞書では「心に染みる」と表記されているのです。
ではなぜ「沁みる」という表記が存在するのかと言いますと、それは漢字が持つ語源に関係しています。「染みる」と「沁みる」は、それぞれ次のような意味があります。
「染みる」=液体などが他の物に移り、次第に深く広がる。
「沁みる」=液体などの刺激を受けて痛みを感じる。心にしみじみと感じる。
どちらも共通しているのは、「液体」という物質です。「染みる」は液体が他の物に移り、染(し)みが付くように広がる様子、「沁みる」は液体が目や皮膚などに触れて痛いほど感じる様子を表しています。
「沁みる」の方はここから転じて、「心にしみじみと感じる」という意味も持つようになったということです。
ここで注目すべきは、「沁」という字は右側の部分に「心」が含まれている点です。「沁」という字は「心」とあるように、この漢字だけですでに「心にしみる」という意味を持っています。
そのため、「心に沁みる」だと一種の重複表現のような言い方となってしまうのです。
ゆえに、全くの間違いというわけではありませんが、本来の語源から考えれば「心に沁みる」という表記は誤りだと言えます。また、先に述べたように「沁」という字は常用漢字外なのであえて使う必要性も感じません。
以上の事から考えますと、「心にしみる」の正しい漢字表記は「心に染みる」であるという結論が出せます。もちろん、漢字ではなくひらがなで「心にしみる」と表記する方法をとっても構いません。
心にしみるの類義語
続いて、「心にしみる」の「類義語・言い換え表現」をご紹介します。
- 胸を打たれる
- 胸にしみる
- 胸に響く
- 胸が一杯になる
- 感慨にふける
- 感慨にひたる
- 心に響く
- 心温まる
- 感銘を受ける
- 意気に感じる
- 琴線に触れる
- 目頭が熱くなる
「心にしみる」と似た言葉は多くありますが、全く同じ意味の言葉(同義語)と呼ばれるものは残念ながらありません。比較的近い意味の言葉としては、「胸を打たれる」「心に響く」「感慨にふける」などが挙げられます。
その他、感動した時に使われる「心温まる」「目頭が熱くなる」なども広い意味で類義語に含まれます。「心にしみる」の場合は、同じ感動でも静かにひしひしと感動するような意味合いで使うと考えてください。
心にしみるの英語訳
「心にしみる」は、英語だと次のように言います。
「impress(~に感銘を与える)」
「touch one’s heart(~を感動させる)」
「impress」は「感銘を与える、感動させる」などの意味があります。また、「touch」は「~に触れる」、「heart」は「心」なので、「~の心に触れる」⇒「感動させる」と訳すことができます。
例文だと、それぞれ次のような言い方です。
The remarks in his speech impressed many people.(彼の演説での発言は多くの人を感銘させた。)
Her kind words touched my heart.(彼女のやさしい言葉が私の心にしみた。)
他には「moved me to~」などの言い方もあります。これは「心が動かされた」という意味でよく使える表現です。
心にしみるの使い方・例文
最後に、「心にしみる」の使い方を例文で確認しておきましょう。
- 日本の音楽作品の中には、心にしみる名曲がたくさん存在する。
- 本日の講演会では、心にしみる名言を聞けて本当に感謝しています。
- 今まで苦労を重ねてきた人のアドバイスは心にしみるものがあった。
- 仕事でミスをして落ち込んでいたが、上司の優しい言葉が心にしみた。
- アニメの1シーンだったが、心にしみる非常に印象的なものだった。
- 友人の慰めの言葉は本当にありがたく、心にしみるものを感じた。
「心にしみる」という言葉は、誰かから名言や格言、アドバイスなどをもらったときによく使います。その他には、悩んでいる時やさびしい時などに、心を慰められてもらった時にも使うことができます。
いずれの場合も、心にしみる体験をすることにより、それまでにはなかった活力やエネルギーが湧いてくるのがこの言葉の特徴です。したがって、基本的には良い意味として使う表現だと考えて問題ありません。
自分だけが心に沁みるのではなく、相手に対しても心がしみるような言葉を掛けられたら、人間としての深みも増すことでしょう。
まとめ
以上、本記事のまとめです。
「心にしみる」=心に深く入り込む・しみじみと感じられる。
「漢字の表記」=「心に染みる」と表記する。(沁みるの沁は常用漢字外なので原則使わない)
「類義語」=「胸を打たれる・心に響く・感慨にふける・心温まる・目頭が熱くなる」など。
「英語訳」=「impress(~に感銘を与える)」「touch one’s heart(~を感動させる)」
「しみる」は漢字だと「沁みる」とも表記できますが、この漢字自体に「心にしみる」という意味が含まれています。よって、漢字で表記する場合は「心に染みる」と書くようにしましょう。