沽券にかかわる 意味 由来 語源 使い方 例文 類語

「沽券にかかわる」という慣用句があります。漢字だと「沽券に関わる」とも表記します。

気になるのは「沽券」という言葉ではないでしょうか?実はこの慣用句の語源を調べると、土地や家などの不動産に行きつくということが分かります。

本記事では、「沽券にかかわる」の意味や語源、使い方、類語などを詳しく解説しました。

沽券にかかわるの意味・読み方

 

最初に、読み方と基本的な意味を紹介します。

【沽券に関わる(こけんにかかわる)】

品位や体面にさしつかえる。

出典:デジタル大辞泉(小学館)

沽券にかかわる」は、「こけんにかかわる」と読みます。意味は、「品位や体面にさしつかえること」を表したものです。

「品位」とは「人に備わっている上品さや気高さ」、「体面」とは「誇りやプライド、面目や立場」などのことを表します。

例えば、会社勤めをしていて入社一年目の新入社員と入社十年目の先輩社員がいたとしましょう。普通であれば先輩社員の方が新入社員よりも仕事をできるのが当然です。

しかし、その新入社員は非常に優秀であったため、わずか一年で先輩社員の営業成績を抜いてしまいました。先輩社員としては、プライドや立場がひどく傷つけられている状態だと言えます。

このような時に、「先輩として沽券にかかわる問題だ」などのように言うわけです。つまり、「沽券にかかわる」とはその人の上品さや気高さ、プライドなどが傷つけられることを意味する慣用句ということです。

沽券にかかわるの語源・由来

 

「沽券にかかわる」という慣用句は、江戸時代における不動産の売り渡し契約に由来するものです。

まず「沽券」とは、元々「不動産(家や土地)の売り渡し証書」のことを指していました。「沽」という字は訓読みだと「沽(う)る」と読み、この漢字は「売買」を表していたのです。

現在でもその名残はあり、「沽」の付く熟語はモノの売り買いを表しているものが多いです。

  • 「沽名(こめい)」=名前を売ること。
  • 「沽酒(こしゅ)」=酒を売買すること。
  • 「沽濫(こらん)」=濫(みだ)りに売ること。投げ売り。

これと同様に考えますと、「沽券」は「売買券」を意味する言葉であることが分かるかと思います。

「沽券」には、土地や建物の広さ、値段、所在地、売主・買主の名前など様々な情報が書かれていました。特に、値段については非常に重要な情報でした。

なぜなら、当時、江戸の町の構成員として認められたのは、税金を金銭で納める町屋敷の所有者のみだったからです。

つまり「沽券」を持っているということは、すなわち価格の付く不動産を所有していることであり、言わば「沽券」は町人の身分を象徴するものでもありました。

この事から、人の値打ちや品位、プライドのことを次第に「沽券」と言うようになり、その「沽券」に差し障ることを「沽券にかかわる」と言うようになったのです。

現代の社会でも、不動産を売主から買主が購入した場合、購入したことを証明する証明書が発行されます。その証明書があることにより、買主は不動産を持っていることが保証されます。

江戸時代でも現代と同様に、このような契約証書が発行されていました。それが「沽券」と呼ばれるものなのです。

沽券にかかわるの類義語

沽券にかかわる 類義語 言い換え

続いて、「沽券にかかわる」の類義語を紹介します。

面目が立たない(めんぼくがたたない)】⇒誇りや世間体が保たれないこと。
立つ瀬がない(たつせがない)】⇒自分の立場がなくなり困ること。面目ないこと。
示しがつかない(しめしがつかない)】⇒模範や手本にならないこと。
名折れ(なおれ)】⇒名誉を傷つけられること。不名誉。
肩身が狭い(かたみがせまい)】⇒他人や世間に対して面目が立たない様子。
居た堪れない(いたたまれない)】⇒それ以上その場所にとどまっていられないこと。

基本的な意味としては、「人の名誉や誇りに関わるさま」「面目が失われるさま」などを表したものとなります。その他、人の評判やプライドが傷つけられる言葉であれば、すべて類義語に含まれると考えて問題ありません。

沽券にかかわるの英語訳

 

「沽券にかかわる」は、英語だと次のような言い方があります。

①「be beneath one’s dignity(尊厳にかかわる)」

②「discredit(評判を悪くする・信用を落とす)」

③「lose one’s reputation(評判を落とす)」

①の「beneath」は「~の下に、~のもとに、~より低い、~に値しない」など複数の意味を持つ前置詞です。ここでは、「~の品位・体面にかかわる」という意味で使われています。「dignity(尊厳)」と合わせることで、「その人の尊厳・品にかかわる」と訳すことができます。

また、②の「discredit」は、「評判を落とす・信用を落とす」などの意味を持つ動詞です。信用を意味する「credit」の前に「dis」を付けることで、否定的な意味を表すことができます。

最後の③は直訳すると「人の評判を失う」という訳です。「reputation」は「評判・名声・評価」などの訳がありますが、ここでは「評判」という意味で使われています。

例文だと、それぞれ以下のような言い方です。

It is beneath my dignity to ask a favor of her.(彼女に頼み事をするなんて僕の沽券に関わるよ。)

The statement will discredit you.(その発言はあなたの評判を悪くするだろう。)

It’s better to lose your reputation.(評判を落とすようなことはよした方がいい。)

沽券にかかわるの使い方・例文

 

最後に、「沽券にかかわる」の使い方を例文で紹介しておきます。

  1. 部下に飲み代を払わせるなんて、先輩として沽券にかかわる問題だ。
  2. そんな条件を飲んでしまえば、わが社の沽券にかかわると言ってもいい。
  3. ライバルの彼にアドバイスを求めるなんて、私の沽券にかかわることだ。
  4. 子供のしつけがなっていないのは、親にとって沽券に関わる問題である。
  5. そんなつまらないことで喧嘩をしていたら、あなたの沽券に関わるよ。
  6. 顧客に対して失礼な態度をとると、会社の沽券に関わることになる。

 

「沽券」という言葉は、元々は「売り渡し証書」を指すものでした。しかし、現在では例文のように人の品位や体裁などに対して使うのが基本です。

さらに、最近では「組織」に対しても使われるようになりました。組織に対して使う場合は、例文2や6のように会社に対して使うことが多いです。

この場合は、「会社の評判や会社のメンツを損なう」といった意味で考えれば問題ありません。

いずれの場合も共通しているのは、この慣用句は否定的な意味として使うということです。肯定的な意味として使われることは基本的にありません。

まとめ

 

以上、本記事のまとめです。

沽券にかかわる」=品位や体面にさしつかえること

語源・由来」=「沽券」は江戸時代の不動産の売渡証書を指すことから。

類義語」=「面目が立たない・立つ瀬がない・示しがつかない・名折れ・肩身が狭い」

英語訳」=「be beneath one’s dignity」「discredit」「lose one’s reputation」

「沽券」という言葉は江戸時代から使われていました。現代の人々にとって、人の値打ちに関わるものは家、車、職業など様々な対象があります。しかし、当時の町民にとっては「沽券」が何よりも自分自身を象徴するものだったということです。