「火中の栗を拾う」ということわざをご存知でしょうか?
風刺画にもなっているほど有名な言葉で、普段から様々な場面で用いられています。ただ、この言葉の本来の意味を把握している人は意外と少ないかと思われます。
そこで本記事では、「火中の栗を拾う」の意味や由来、使い方・類義語などを含め詳しく解説しました。
火中の栗を拾うの意味・読み方
最初に、読み方と基本的な意味を紹介します。
【火中の栗を拾う(かちゅうのくりをひろう)】
⇒自分の利益にならないのに、他人のために危険を冒すたとえ。
出典:デジタル大辞泉(小学館)
「火中の栗を拾う」は「かちゅうのくりをひろう」と読みます。意味は「自分の利益にならないのに、他人のために危険を冒すこと」です。
例えば、野球やサッカーなどのスポーツは監督交代がよく行われますが、あまりにも弱いチームだとなかなか次期監督の候補が出てきません。
特に、万年最下位であるようなチームはなおさらです。そこでこのような場面では、「〇〇チームの監督をするのは火中の栗を拾うようなものだ」などと言われることがあります。
つまり、引き受ける人には何のメリットもなく、ただ他者のために危険を冒すことだという意味です。「火中の栗を拾う」とはこのように、自分には全くメリットがないけども、他者のためにリスクを冒すような際に使われます。
ポイントは、「他者のため」という点です。自分のために危険を冒すような場合は、このことわざは使いません。
例えば、「己を変えるために困難に立ち向かう」のような使い方は誤用です。あくまで、自分以外の他人や組織のために危険を冒すような時にこの言葉を使います。
火中の栗を拾うの由来・語源
「火中の栗を拾う」は、フランスの詩人である「ラ=フォンテーヌ」がイソップ物語を元に書いた寓話から来ています。その寓話の中に、「猿と猫」というお話があります。簡単にあらすじを紹介しておきましょう。
ある日、猿と猫が暖炉の中で栗(くり)が焼けるのを待っていました。すると、ずる賢い猿は猫にこう言います。
「君なら火の中の栗もうまく取り出せるんじゃない?」
おだてられた猫は、何とか火の中から栗を三個取り出しました。ところが、猫は大やけどを負ってしまい、取り出した栗も全て猿に食べられてしまいました。
結果的に、かわいそうな猫は「栗も食べられず、ひどいやけども負う」という散々な目にあってしまったのです。
つまりこの話が元となり、現在の「他人のために危険を冒す」という意味になったわけです。この話で大事なのは、猫がやけどを負ってしまったという点です。「火中の栗を拾う」は「散々な目にあった」という事実が含まれています。
したがって、危険を冒すだけでなく危険を冒した結果、ひどい目にあうことまで含まれるのが本来の意味となります。
ところが、最近の用例だと「危険だと分かっているものの、あえて挑戦する」というようなポジティブな意味として使われることもあります。一種の勇敢さ・勇ましさを表した使い方です。ただ、この使い方は誤用なので注意してください。
すでに説明した通り、元々は猫がだまされてひどい目にあったというのが正しい由来です。この由来を知らないと、「みんなのために犠牲になる」というような美しい意味で使ってしまう可能性もあります。
日本人は自己犠牲の精神を好むため、このような誤用が生まれてしまったのかもしれません。
火中の栗を拾うの類義語
続いて、「火中の栗を拾う」の類義語を紹介します。
類義語は「危険を冒す・冒険する」といった意味を持つものばかりです。ただし、いずれの言葉も自分のために危険を冒す場合がほとんどです。
「火中の栗を拾う」は他人のため限定での行動ですので、ことわざや慣用句では全くの同じ意味の同義語はないと言っていいでしょう。その他、「火中に飛びこむ」「火中に身を投じる」などの表現も近い意味だと言えます。
火中の栗を拾うの対義語
逆に、対義語としては次のような言葉が挙げられます。
こちらは「リスクは冒さない・無理に行動しない」といった意味の言葉となります。
火中の栗を拾うの英語訳
「火中の栗を拾う」は、英語だと次のように言います。
「Pull chest nuts out of the fire」
「chest nut」は「栗」、「pull」は「引っ張り出す」、「out of」は「~の外へ」という意味です。以上の事から、「火の外へ栗を引っ張り出す」という訳になります。
また、「危険を冒す」という意味では次のような言い方もできるでしょう。
「take a risk for someone」
「take」には「(職務や仕事などを)引き受ける」などの意味があります。そのため、「誰かのためにリスクを果たす」という意味になります。
火中の栗を拾うの使い方・例文
最後に、「火中の栗を拾う」の使い方を例文で紹介しておきます。
- 破産したことのある彼にお金を貸す?火中の栗を拾うようなものだ。
- また彼女の手助けをするの?火中の栗を拾うようなことはやめたらいいのに。
- 失敗したのは彼自身の問題だよ。君がわざわざ火中の栗を拾う必要はない。
- 人をだますことで有名な人だ。火中の栗を拾うことにならないようにね。
- 今その仕事を引き受ける義務はある?火中の栗を拾うようなものだよ。
- 無意味な人助けをして、結果的に火中の栗を拾う形となってしまった。
「火中の栗を拾う」は、基本的に否定的な意味として用いられます。多くの場合は、「危険を察知できない人」「無意味な行動をする人」といった人を対象とします。
また、ビジネスシーンでは「こちらにメリットがない会社と組む」「破産しそうな会社を助けようとする」といった意味合いで用いられます。
周りの人からすると、「なんでわざわざそんなことをするの?」と思われてしまうような行為です。決して前向きな意味で使われることわざではないので注意して下さい。
まとめ
以上、本記事のまとめとなります。
「火中の栗を拾う」=自分の利益にならないのに、他人のために危険を冒すこと。
「由来・語源」=猫が猿のために火中の栗を拾ったが、大やけどを負ったため。(フランスの寓話が元)
「類義語」=「手を出して火傷する・虎穴に入る・一髪千鈞を引く・危ない橋を渡る」
「対義語」=「君子危うきに近寄らず・さわらぬ神にたたりなし」
「英語訳」=「Pull chest nuts out of the fire」「take a risk for someone」
生きていく上で人を助けるのは大事なことです。しかし、このことわざが言いたいのは「わざわざ危険を冒すと痛い目にあう」ということです。他人の問題に突っ込むのが必ずしも正解ではないということを覚えておきましょう。