「至れり尽くせり」という慣用句をご存知でしょうか?
普段からよく使われており、特に旅館やホテル業務などにおいて用いられています。ただ、具体的な使い方が分かりにくい表現でもあります。
そこで本記事では、「至れり尽くせり」の意味や語源、例文などを含め詳しく解説しました。
至れり尽くせりの意味・読み方
最初に、読み方と基本的な意味を紹介します。
【至れり尽くせり(いたれりつくせり)】
⇒すべてに細かく配慮が行き届いていること。
出典:三省堂 大辞林
「至れり尽くせり」は、「いたれりつくせり」と読みます。
意味は「細かいところまで配慮が行き届いていること」です。「配慮(はいりょ)」とは「心を配る」「心をつかう」「気をつかう」などの意味だと考えてください。
例えば、病人の看護というのはやることが多くあります。食事の準備や後片付け、着替えの用意、部屋のお掃除、トイレのお世話。
もしもこれらの業務を細かいところまで親切にやってくれたら、それは「至れり尽くせりの看護である」などのように用いられます。このように、心遣いなどがよく行き届いていて申し分のないことを「至れり尽くせり」というわけです。
私たちは、何かをしてもらうと自然と感謝の気持ちを抱きます。そして、満足した分、相手からの愛情を受け取ることができます。「至れり尽くせり」は、そのような人間の思いやりが込められた慣用句ということです。
至れり尽くせりの語源・由来
「至れり尽くせり」は、「至る」と「尽くす」の二語から成る慣用句です。
まず、「至る」の基本的な意味は「場所に行き着く」「時間になる」「状態になる」などがあります。
さらに、「高い段階に達する」「細かいところまで十分に行き届く」といった意味もあります。今回の「至れり尽くせり」の場合は、後者の二つの意味が当てはまります。
そして、「尽くす」が持つ意味は「出しきる」「極める」「果たす」「誰かのために精一杯働く」などがあります。
以上の事から、「至れり尽くせり」とは「細かいところまで十分に行き届く状態を極め、相手のために精一杯働く」という意味であることが分かります。転じて、現在の「相手を細かく気遣う・心づかう」という意味になるわけです。
それからもう一つ知っておきたいのが、「荘子(そうし)」の『斉物論(せいぶつろん)』です。
荘子は中国の思想家で、戦国時代に活躍しました。その荘子が書いた『斉物論』が、「至れり尽くせり」の由来なのです。
『斉物論』の中に『至れり尽くせり。以て加うべからず。』という一文があります。「以て加うべからず」とは「加えることがまったくない」という意味です。
この意味自体はあまり関係ないですが、古代中国の言葉が現代の日本でも使われているという事実があることには間違いありません。少し不思議な気もしますが、日本文化のおもてなしの存在を考えれば当然とも言えるでしょう。
至れり尽くせりの類義語
続いて、「至れり尽くせり」の類義語を紹介します。
類義語は、細かいところまで気付いたり相手のことを親切丁寧に考えたりする言葉となります。
一番簡単な言い換えは、「気が利く」という表現です。ことわざや慣用句で同義語というのはありませんが、一番意味が近い表現がこの「気が利く」となります。
至れり尽くせりの英語訳
「至れり尽くせり」は、英単語だと次の三つがあります。
「perfect(理想的な)」「complete(完璧な)」「thorough(完全な)」
そして、英熟語だと以下の二つがあります。
「leave nothing to be desired(申し分ない)」「more than satisfactory(至れり尽くせり)」
「leaving nothing」は「何も残さない」、「desired」は「望まれた」なので、「望まれたものは残さない⇒申し分ない」となります。また、「satisfactory」は「満足な・申し分のない」という意味です。
例文だと、「perfect」を使った表現が簡単で分かりやすいでしょう。
The shop gave me perfect service.(その店のサービスは至れり尽くせりだ。)
至れり尽くせりの使い方・例文
最後に、「至れり尽くせり」の使い方を例文で紹介しておきます。
- 至れり尽くせりの歓迎をしてくれる高級なホテルに宿泊した。
- この旅館は何もかもそろっていて、本当に至れり尽くせりです。
- 体調不良のときに、彼女は至れり尽くせりの世話をしてくれた。
- 前の会社を退職し、至れり尽くせりの待遇がある会社へ転職した。
- 先日、彼女の家で受けたもてなしは、本当に至れり尽くせりでした。
- 母の至れり尽くせりの看護で、父は安らかに天国へと旅立だちました。
- 半年ぶりに実家へ帰ったら、母が至れり尽くせりの対応をしてくれた。
「至れり尽くせり」は、一般的にはホテル業や旅館業などに対して使われることが多いです。
これらの業種では、接客業としても最高クラスに相手に気を遣うことが求められます。そのため、「お客様への気遣い」という意味で「至れり尽くせり」を用いるわけです。
また、用例としては、「至れり尽くせりの~」「~は至れり尽くせりだ」などが多いです。前者は、名詞と一緒に使う場合、後者は単体で状態を表すような用例です。
さらに補足すると、「至れり尽くせり」はビジネスでの敬語表現としても使われることもあります。特に、目上の人に感謝を伝えるような場面ではその使用に適しています。
【例】⇒至れり尽くせりのおもてなしに、お礼の申し上げようもありません。
「申し上げる」という謙譲語と合わせて使うことで、より丁寧な言い方になります。営業職の人には特におすすめの表現と言えるでしょう。
まとめ
以上、本記事のまとめとなります。
「至れり尽くせり」=細かいところまで配慮が行き届いていること。
「語源・由来」=細かい所まで十分に行き届く状態を極め、相手のために精一杯働く。
「類義語」=「懇切丁寧・心尽くし・気が利く・機転がきく・痒いところに手が届く」
「英語訳」=「perfect」「complete」「thorough」「leave nothing to be desired」「more than satisfactory」
「至れり尽くせり」は、自分の満足と感謝の気持ちが伝わる言葉です。言われた相手はきっとうれしいでしょう。もし今後使う機会があったときはぜひ使ってみてください。