「板につく」という有名な慣用句があります。
ただ、この言葉の由来が気になるという人が多いようです。また、漢字だと「板に着く」と「板に付く」のどっちで書くのかといった問題もあります。
そこで本記事では、「板につく」の語源や短文、類語、対義語などを含め詳しく解説しました。
板につくの意味・読み方
最初に、読み方と基本的な意味を紹介します。
【板につく(いたにつく)】
⇒積み重ねの結果として立場や境遇が似合ってくる、または、ふさわしい技術が身に付くこと。
出典:実用日本語表現辞典
「板につく」は、「いたにつく」と読みます。
意味は、「積み重ねの結果として立場や境遇が似合ってくること・ふさわしい技術が身に付くこと」などを表したものです。
例えば、大工の技術を教わってから丸三年が経った人物がいたとします。最初は違和感のあった作業着姿も、大工の技術が身に付くことにより、しっくりとくるようになってきました。
このような場面では、「彼の作業着姿も板につくようになった」などのように用いることができます。
つまり、「板につく」とは経験を重ねることにより、物腰や態度がその人の立場・職業にふさわしいものになることを表した慣用句ということです。
なお、この慣用句を漢字で書く場合は「板に付く」と書きます。「板に着く」とは書きません。「着く」と書くと「たどりつく」という意味になり意味が変わってしまいますので注意しましょう。
板につくの語源・由来
「板につく」は、役者が舞台上で経験を積み、その演技が舞台(板)にぴったり調和する様子から生まれた言葉です。
まず、「板」とは「舞台」という意味です。舞台の床は、「板」を張って作られています。このことから、「板」と「舞台」は同じ意味として使われているのです。
そして、「つく」とは「物と物が触れて離れなくなること」という意味です。転じて、「身につく」のように「ある能力・技術が備わる」という意味でも使われます。
整理しますと、「板につく」=「舞台(板)の上で、能力や技術が備わる」というのが元々の意味となります。ここから、「立場や境遇がふさわしくなる」という意味になるわけです。
実際に、優れた役者さんは芝居の経験を積むことで、舞台の雰囲気に慣れて成長していきました。こうした役者の成長を見て観客がほめる様子から、「板につく」という言葉が生まれたわけです。
板につくの類義語
続いて、「板につく」の類義語を紹介します。
類義語は「技術などを自分のモノにする・職業などがふさわしくなる」などの意味を持つものとなります。ただ、全く同じ意味の言葉、すなわち「同義語」というのはありません。
例えば、「様になる」は「着物姿が様になる」などのように知識や経験が身に付くというよりは、見た目そのものがふさわしい姿になるような際に使われます。
また、「堂に入る」「身に付く」「物にする」などは、知識や技術、能力が自分のものになることですが、「ふさわしくなる」という意味までは含まれません。これらの点がわずかな違いだと言えます。
板につくの対義語
逆に、「板につく」の「対義語」としては次のような言葉が挙げられます。
- 未熟な
- 初心者の
- 経験不足の
- 素人の
- 青二才の
- 見習いの
こちらは主に「経験や技術が浅い」といった意味を持つ言葉となります。「板につく」の反対語なので、相手を否定したりするような場面で使われます。
板につくの英語訳
「板につく」は、英語だと二つの言い方があります。
①「to get used to~(板につく)」
②「to be at home in~(板につく)」
①の「get used to~」とは「~に慣れる」という意味の熟語です。「物事に慣れる」という様子を表すため、「板につく」の英語訳と言えます。
また、「be at home in~」は「家にいる」という意味です。こちらは「自分の家にいることのように、(物事に詳しくなる)」という意味から同じく「板につく」ことを表します。
例文だと、それぞれ以下のような言い方です。
You seems to have got used to driving a car.(あなたの車の運転ぶりは板についてきたようだ。)
She is now quite at home in English.(彼女の英語もすっかり板についてきた。)
「get used to~」は「used to~(かつて~していた)」とよく間違われます。必ず「get」を入れるようにしてください。
板につくの使い方・例文
最後に、「板につく」の使い方を例文で確認しておきましょう。
- あの役者は、初日と比べて演技が板についてきたようだ。
- 先生から、学級委員長が板についてきたとほめてもらった。
- 上京して10年が経ち、彼の標準語もすっかり板についたようだ。
- 最初は慣れなかった英会話も、今ではすっかり板についてきた。
- 包丁さばきも板についてきたので、新しい料理を君に教えます。
- 息子が社会人になって3年目。スーツ姿も板についてきたようだ。
「板につく」は、経験を積むことで動作や態度などが職業にふさわしいものになることを表します。そのため、基本的には相手をほめるような場面で使われます。
ただし、「板につく」はほめ言葉ですが、目上の人に対しては使いません。必ず、部下や子ども、教え子などあなたより下の立場の人に使うようにします。
例えば、上司に対して「ゴルフ姿が板についていますね」などと言うのは大変失礼な表現となります。こうした場合は「ゴルフがお上手ですね」などのように敬語を使うようにしましょう。
元々、「板につく」は役者の成長を観客がほめる様子から生まれました。したがって、成長した人よりも上からの目線で使うのが正しいのです。
まとめ
以上、本記事のまとめです。
「板につく」=積み重ねの結果として立場や境遇が似合ってくること・ふさわしい技術が身に付くこと
「語源・由来」=役者が舞台上で経験を積み、その演技が舞台(板)にぴったり調和する様子から。
「類義語」=「様になる」「堂に入る」「身につく」「物にする」
「英語訳」=「to get used to~」「to be at home in~」
「板につく」はその人の立場がふさわしいものになることを意味します。誰かの成長に気がついたら、ぜひほめ言葉として使ってみましょう。