「アイロニー」という言葉をご存知でしょうか?普段の文章だけでなく、入試現代文の重要単語として使われることもあります。
ただ、この言葉は複数の意味があるため、イメージがつかみにくいと感じる人も多いと思われます。そこで今回は、「アイロニー」の意味や類義語・対義語などをなるべく簡単に分かりやすく解説しました。
アイロニーの意味
まず、「アイロニー」の意味を調べると次のように書かれています。
【アイロニー(イロニー)】
①皮肉。あてこすり。
②反語。逆説。
③修辞学で、反語法。
④ソクラテスの問答法。無知を装いながら、知者を自認する相手と問答を重ね、かえって相手が無知であることをあらわにし、その知識が見せかけのものでしかなかったことを悟らせる。
出典:デジタル大辞泉(小学館)
「アイロニー」は辞書の説明だと4つの意味が書かれていますが、一般的には①と②の意味で使われることがほとんどです。
そのため、①「皮肉」と②「反語・逆説」の2つを覚えておけば問題ありません。
まず、「皮肉」とは「遠回しな表現で相手を非難すること」を意味します。
例えば、会社に遅刻して来た人がいたとしましょう。普通であれば、以下のような言い方をします。
- 「30分遅刻ですよ?」
- 「なんで遅刻したの?」
- 「ずいぶんと遅かったね?」
ところが、「皮肉」というのはあえて本当の気持ちとは反対のことを言います。
例えば、以下のような言い方です。
「ずいぶんと早いですね。」
こんな言い方をされれば、普通に怒られるよりもショックでしょう。
つまり、「アイロニー」とは「正反対のことを言うことにより、逆に相手に真意を悟らせる」のです。
多くは相手をバカにしたり軽蔑したりするような時に使います。したがって、あまり良い意味では使われない言葉です。
また、「反語」とは「表面では褒めながらも、裏には反対の意味を含ませる表現」のことを指します。
「皮肉」と「反語」は似たような意味ですが、厳密に言うと「反語」は悪口や軽蔑とは限りません。
「反語」は、断定を強調するために疑問形にする場合もあります。
【例】⇒「死なない人間はいるだろうか?いや、いるはずがない。」
これらの表現も、広い意味で反語(アイロニー)と言うわけです。
なお、「逆説」とは「普通とは反対の方向から考えを進めるさま」を意味します。
この「逆説」という言葉は、現代文の用語としてよく出てきます。
アイロニーの語源・由来
「アイロニー」は、英語だと「irony」と表記します。「irony」は、ギリシャ語の「エイローネイアειρωνεία」を由来とします。
「エイローネイア」とは「虚偽・仮面」などの意味です。「虚偽」とは「ウソや偽り」のこと、「仮面」とは「本当の姿を隠すもの」を指します。
この事から、「ウソにより本当の事実を隠すこと」を英語で「irony」と呼ぶようになりました。転じて、「遠回しな表現で相手を非難する」という現在の意味になったと言われています。
英語の「irony」の場合は、日本語よりも多少ユーモアを含み、穏やかなニュアンスで使われるのが特徴です。
アイロニーの類義語
次に、「アイロニー」の類義語を紹介します。
風刺とは
「風刺」とは「遠回しに批判すること」です。
主に社会や有名人の欠点を批判して、対象を嘲笑的に表現する場合に使われます。
批判の手段としては、文章や絵、漫画、イラスト、映像などを使うのが一般的です。
「風刺」は様々な手段によって批判するのに対し、「アイロニー」は文章や言葉により批判する点が両者の違いだと言えます。
嫌みとは
「嫌み」とは「相手に対して遠回しに与える不快な言動」という意味です。
「嫌み」は遠回しでありながらも、相手に対してすぐに不快感を与えるような言動を指します。
例えば、遅刻してきた人に対して、「よくそんな毎回遅刻してくるね君は?」などと言うことを「嫌み」と言います。
つまり、「皮肉」よりも直接的に相手が分かるような表現をするのが「嫌み」ということです。
シニカルとは
「シニカル」とは、英語の「cynical」をカタカナにした言葉で「冷笑的・嘲笑的」という意味です。
「冷笑的」とは「相手を見下して笑うさま」、「嘲笑的」とは「相手をバカにして笑うさま」を意味します。
「相手に対して皮肉な態度をとること」なので、どちらも類義語だと言えます。
ただ、「アイロニー」よりも「シニカル」の方が相手を軽蔑してバカにするという意味合いが強い言葉です。
「アイロニー」そのものは「皮肉」を指しますが、「アイロニー」の方は一種のユーモアさが含まれる場合があります。
天邪鬼とは
「天邪鬼」とは「ひねくれた性格」という意味です。
相手の意見にいちいち反対したり、相手からの褒め言葉を素直に喜ばなかったりする人を対象とします。
「天邪鬼」は、相手からの受け答えがひねくれている人を指します。「アイロニー」のように、こちら側が主体的に発した言動に対しては使いません。
また、「アイロニー」自体には「ひねくれた」という意味は含まれていない点も両者の違いです。
逆説とは
「逆説」とは「普通とは逆の方向から物事を考えるさま」という意味です。
例えば、約束の時間に遅れそうな時に、近道を通らずにわざわざ遠回りをして目的地に向かうようなことを「逆説」と言います。
普段慣れていない近道を通れば、事故やトラブルなどに巻き込まれる可能性が高くなります。
実際には遠回りでも「確実に向かえるルートの方が安全で早く到着できる」という考えの元、逆説的な行動を起こすのです。
「逆説」という言葉はこのように「一見すると正しくなさそうな言動が実は正しいこと」という意味で使われます。
したがって、事実を暗に伝える「アイロニー」の類義語となります。
以上、5つを紹介しましたが、その他には「当て付け」「当てこすり」なども類義語に含まれます。これらの言葉は「皮肉」と同じ意味なので、「同義語」だと考えても問題ありません。
アイロニーの対義語
一方で、「アイロニー」の「対義語」としては以下のような言葉が挙げられます。
- 素直
- 正直
- 堂々
- ストレート
- そのままの
- 裏表のない
- 隠すことのない
「アイロニー」は、相手に対して遠回しに発言することでした。したがって、相手に対して直接的にストレートに発言するような言葉が反対語となります。
その他、「隠れた意図がないこと」を表す言葉も広い意味で反対語に含まれます。
アイロニーの使い方・例文
最後に、「アイロニー」の使い方を実際の例文で紹介しておきます。
- 彼はテストの点数が悪かった人に「勉強頑張っていたからだね」とアイロニーを言った。
- 寝坊した人に彼はアイロニーを漂わせる口調で言った。「君、本当に早起きだね」と。
- 上司は意地の悪いアイロニーを決して認めなかったよ。本当にタチが悪いと思ったね。
- 彼女の作詞は普通の人とは異なるので、アイロニーに満ちていると言えるだろう。
- この映画の特徴は、アイロニーをふんだんに取り入れたストーリー展開である。
- 雨天中止になる予定が思いのほか晴れてしまったのは、アイロニーと言える。
- 織田信長が亡くなった本能寺の変は、歴史のアイロニーとも呼べる事件だった。
- 冷戦終結により逆に世界の紛争が激しくなったのは、歴史のアイロニーとも言える。
「アイロニー」は、基本的に相手を遠回しに非難するような時に使います。
ただし、場合によっては「期待していたのとは違った結果になること」という意味で使うこともあります。
例文7.や8.が当てはまりますが、この意味が意外と評論文などでよく出題されます。
例文8だと、「冷戦」が終わるというのは普通に考えれば平和が訪れることです。
しかし、実際にはもっと紛争が激しくなってしまったので、「予想と結果が外れた」という意味で「アイロニー」を使うのです。
この場合は「相手をバカにすること」や「遠回しに指摘すること」とは全く異なる意味なので注意してください。
もしも評論文でこの意味を問われた場合は、「予想(意図)されたこと」と「結果的に起こったこと」をしっかりと整理する必要があります。
なお、「アイロニー」は「アイロニカル」という形容詞で使うこともあります。よく使われるのが、社会学における「アイロニカルな没入(ぼつにゅう)」という表現です。
「アイロニカルな没入」とは「ドラマや映画などを見るときに、ウソやニセモノ(演技)だと分かりながら没入してしまう態度」のことです。
「ウソという予想」にも関わらず、「熱中したという結果」なので「アイロニー」が使われます。
まとめ
以上、本記事のまとめとなります。
「アイロニー」=皮肉。反語。逆説。予想と違う結果になること。
「語源・由来」=ギリシャ語の「エイローネイア(虚偽・仮面)」から。
「類義語」=「風刺・嫌み・シニカル・天邪鬼・逆説」など。
「対義語」=「素直・正直・ストレート・裏表のない・隠すことのない」など。
「アイロニー」とは、一言で言えば「皮肉」や「反語」のことです。しかし、実際には「予想と違う結果になること」という意味もあります。文脈によってどの意味で使われているかを判断するようにしましょう。