『藤野先生』は、魯迅による小説作品の一つです。高校国語・現代文の教科書にも載せられています。
ただ、実際に本作を読み進めるとその内容や登場人物の心理などが分かりにくい箇所もあります。そこで今回は、『藤野先生』のあらすじやテスト対策、学習の手引きなどをわかりやすく解説しました。
『藤野先生』のあらすじ
中国から日本に留学した「私」は、東京の中国人留学生に反発と嫌悪を感じ、ほかの土地へ行こうと思った。
仙台の医学専門学校へ入学した私は、中国人留学生がいないその土地で優待を受けた。学校では多くの先生に接して講義を受けたが、その中の一人に解剖学担当の藤野厳九郎先生がいた。彼は自己紹介のあと、日本の解剖学の発達史を説いたが、日本は決して中国より早くはないと私は思った。一週間後、私は藤野先生から呼び出され、ノートを見せるようにと言われた。彼はその差し出したノートを、全部朱筆で添削して数日のうちに返してくれた。私はある種の困惑と感激に襲われたが、残念ながら当時の私はいっこうに不勉強であり、時にはわがままだった。
私は学年試験で落第せずにすみ、第二学年に進級した。ある日、学生会のクラス幹事が私の下宿へ来てノートを見せてくれといった。私がノートを出すと、見ただけで持ち帰りはしなかったが、彼が帰るとすぐに「汝、悔い改めよ」で始まる分厚い手紙が届けられた。続く文面には、藤野先生がノートに印をつけてくれたので私には出題が分かり、だから点が取れたという意味の事が書かれていた。
続いて私は、ロシア軍のスパイとして日本軍に捕らえられた中国人が、銃殺される場面の幻灯を見た。その時上がった「万歳!」という歓声が耳にこたえた。そして、この時に私の考えは変わった。第二学年の終わりには、私は藤野先生を訪ねて、医学の勉強をやめたいこと、仙台を離れるつもりだと告げた。彼は落胆したが、「惜別」と裏に書いた写真を一枚くれた。
仙台を離れたあと、私は一通の手紙も一枚の写真も送らずじまいだったが、今でもよく彼のことを思い出す。私にとって彼は偉大な人格である。なまけたくなるとき、彼の写真を見るとたちまち良心が呼びもどされ、勇気も加わる。そして、私は「正人君子」たちから忌み嫌われる文章を書くのである。
『藤野先生』の本文解説
私(魯迅)が中国から日本へ留学したのは、1902年~1909年(明治35年~明治42年)である。時代としては、日清戦争(1894年~1895年)で日本が当時の中国(清)に勝った後の時代だった。
そのため、当時の日本人の中国への感情は大きな優越感を伴っていたと考えられる。そうした情勢の中で、私が屈辱や怒り、反発などを感じたのはある意味で当然とも言える。
一方で、藤野先生は私を一人の学生として公平に扱い、真心のこもった指導をした。特に、軍国主義的なナショナリズムがもてはやされた時代に、一人の外国人留学生のためにノートを添削し続けた藤野先生は、印象深いものがある。この藤野先生を、私は「偉大な人格」と讃え、心の支えとしたのである。
本作のテーマとしては、主に次の二つが挙げられる。
- 中国人の「私」が日本の学校生活の中で感じた屈辱と怒り。
- 偉大な人格者である藤野先生への尊敬と思慕の念。
上記二つの主題は、決して別々のものというわけではない。なぜなら、時代の流れの中で人間はどうあるべきかという問題提起であり、またそれに対する一つの答えでもあるからだ。
歴史を振り返っても、人間は国家や政治の状況に翻弄されるのが当たり前だった。しかし、真心にあふれた「偉大な人格」というのはそうしたものを超えて私たちを励まし続けてくれる、ということをこの小説は教えてくれるのである。
『藤野先生』のテスト対策問題
次の傍線部の仮名を漢字に直しなさい。
①授業料をメンジョする。
②カン違いをする。
③朱筆でテンサクする。
④誤りをテイセイする。
⑤イカンに思う。
⑥トクメイの手紙。
⑦フンガイに堪えない。
⑧セキベツの情。
⑨シンボウ強い。
⑩セイメイを記入する。
①東京を去って仙台に行ったのはなぜか?
②医学の勉強をやめ、仙台を去ったのはなぜか?
①東京での清国留学生の辮髪を切れないような卑屈な態度や、彼らが夕方になるとダンスの稽古に熱中するといった勉強への不熱心な態度に失望し、他の土地に期待をかけたから。
②試験問題が漏洩した事件と幻灯の時の歓声により、屈辱と無力を感じ、自分がこれから中国人としてどのように生きるべきかという問題を突き付けられたから。
次の部分は、それぞれどのようなことを表しているか?
①下宿屋が囚人の賄いを兼業しようと私には無関係と思った。
②ある種の困惑と感激に襲われた。
③「正人君子」たちから忌みきらわれる文章を書きつぐことになる。
①下宿屋が囚人の賄いを兼業していることが、よくないことだとは私は全く考えてなかったということ。
②自分がこの先生の熱意に応えられるのだろうかという困惑を感じ、同時に先生の真心のこもった指導に感激したということ。
③「成人君子」として権威や権力を持ってそれにしがみつき、好き勝手なことばかりしている人々に対して、良心に基づき、勇気をもって彼らを批判する文章を書き続けていこうと私が考えていたこと。
まとめ
以上、今回は『藤野先生』について解説しました。ぜひ定期テストの対策として頂ければと思います。なお、本文中の重要語句について以下の記事でまとめています。
国語力アップ.com管理人
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