『人間の運命と科学』は、高校現代文の教科書で学ぶ評論です。学校の定期テストの範囲にも含まれています。ただ、本文を読むとその内容や筆者の主張などが分かりにくい箇所も多いです。
そこで今回は、『人間の運命と科学』のあらすじや要約文、学習の手引き、語句の意味などを簡単に解説しました。
『人間の運命と科学』のあらすじ
科学がどれだけ発達しても、科学という営みを行うのもその結果を利用して社会を営むのも人間である。であれば、私たちは最後には「人間とは何か。」という問題を考えないわけにはいかない。多くの動物はなんらかの自意識を持っていると想像されるが、ほとんどの動物は、人間のように自分とはいったいなんだろうとか、人間とはいったいなんだろう、というような高度に抽象的な問題を考えているようにはみえない。もっと単純に、今自分が有利になるにはどのように行動すべきかという単純な判断しかしていないようにみえる。「私」を認識しなければいけない進化的な意味は、「他」の存在との相対的な意味で、自分の利益を守らなければ生き延びられない、という場合にだけ生じる。私たちがごくあたりまえに思っている「私」やコミュニケーションですら、人間という生物が進化の過程で獲得してきたものなのである。
人間とは何か、人間と他の動物を分けるものは何か、といったことは分類の問題なので、完全な答えはないし、科学の問題でもない。個人的には、人間を人間たらしめているのは、生存に必要なことだけを追求するのではない、という点にあると考えている。人間に特有の「無駄な」行動の根拠は、知性である可能性が高く、知性こそが人間性だと言えるだろう。科学とは、知性に根拠を置くものであり、客観的な理論と検証により現実操作のツールとして大きな力を持つのだから、その力を用いたら人間がすぐ先の利益を最大化することが可能である。しかし、世界はとても複雑なシステムであり、人間は複雑なものを複雑なままに理解したり、いくつもの力学系が絡むシステムの挙動を予測するのが苦手だ。ということを考えると、そのような目先の利益を追求することは思わぬ結果を招かないとも限らない。科学は人間の欲望をかなえる力を持つが、その欲望を実現していくと、長期的存続の可能性を下げてしまう可能性がある。これは、科学が人間にしかけた罠であり、科学とどう付き合っていくのかは、私たちの人間性そのものが試されているのだと言える。
『人間の運命と科学』の要約解説
本文は、行空きによって二つの段落から構成されています。まず、第一段落では「人間とは何か。」という問題以前に、そもそもそういう問題自体を考えるのは人間だけであるということを進化の過程から述べています。そこで問題になっているのは、「自意識」の存り方です。この事を説明するために、「自意識」というのは「他」の存在があって初めて生まれるものであるということを『ソラリスの陽のもとに』を例として挙げています。つまり、人間というのは単独で生きることはできず、あくまで「他」の存在に囲まれて生きているということです。
そして、第二段落では「人間とは何か。」という問題について筆者の考えが述べられています。それは、「知性」こそ人間性なのである、ということです。さらに、その「知性」を根拠として「科学」が発達したとも述べています。最後に、科学は人間の欲望をかなえてくれるけども、目先の利益にばかり夢中になっていると、長期的には人間の存続の可能性を下げてしまう可能性があるため、科学とどう付き合っていくかが人間の運命を決めるのだと主張しています。
『人間の運命と科学』の意味調べノート
【科学(かがく)】⇒体系的な知識のこと。広い意味では「知識や学問」を指し、狭い意味では「自然科学」を指す。「自然科学」とは自然について研究する学問のこと。
【価値観(かちかん)】⇒物事を評価したり、行動を決定するときの基準になる判断基準。
【自意識(じいしき)】⇒周囲と区別された自分自身についての意識。
【特有(とくゆう)】⇒そのものだけが特にもっていること。
【抽象的(ちゅうしょうてき)】⇒個々の事物から共通する性質だけを抜き出して、一般化して考えるさま。対義語は「具体的」。例えば、「僕の母親はどんな人だろう?」という考えは、個々の事物そのものについての考えなので、「具体的」となる。対して、そのような個々の事物の中から「母親⇒人間」という共通点を抜き出して、「人間ってなんだろう?」と考えるのが「抽象的」ということになる。
【著しい(いちじるしい)】⇒はっきりわかるほど目立つさま。明白である。
【原初(げんしょ)】⇒物事のいちばん初め。
【相対化(そうたいか)】⇒物事を他との比較や関係の下に置くこと。
【概念(がいねん)】⇒物事の一般的な意味内容。似た言葉で「観念」があるが、「観念」は「個々の人間が頭の中に抱く考え」のことで、それぞれの人によって意味が異なってくる。対して、「概念は「頭の中に抱く考え」であっても、それが誰でもほぼ同じ意味内容を持ってくる。「私」「我々」が概念だという場合は、誰もがその意味内容を同じように受け取ることを意味している。
【相対的(そうたいてき)】⇒他との関係や比較によって成り立つさま。
【本質的(ほんしつてき)】⇒物事の本質にかかわるさま。
【SF】⇒サイエンス・フィクション。空想的な世界を科学的な想像に基づいて描いた物語。
【浮き彫りにする(うきぼりにする)】⇒くっきりと見えるようにする。はっきりと分かるようにする。
【意図(いと)】⇒ある目的を持って、何かをしようとすること。また、その考え。
【意思疎通(いしそつう)】⇒互いの考えを伝えあい、認識を共有すること。
【定かではない(さだかではない)】⇒確実ではない。
【ご愛敬(あいきょう)】⇒ちょっとしたサービス。座興。遊び。
【~たらしめる】⇒~であることを保証する。~であるようにする。
【必須(ひっす)】⇒なくてはならないこと。
【適応的意義(てきおうてきいぎ)】⇒「適応」とは「生物が環境に応じて形態や生理的な性質、習性などを長い年月の間に適するように変化させる現象」のこと。その現象が生ずる上で意味があることが、「適応的意義」である。
【観点(かんてん)】⇒物事を判断するときの立場。
【客観的(きゃっかんてき)】⇒特定の立場にとらわれず、物事を見たり考えたりするさま。
【検証(けんしょう)】⇒物事を調査して、事実を証明すること。
【システム】⇒様々な要素が深い関係を持ってできあがっている全体のこと。例えば、「自動車」は多くの部品が組み合わされてできているものなので、一つのシステムである。同様に、「世界」や「自然」「人間」もシステムと捉えることができる。要素の関係は、自動車や自然を考えれば分かるとおり、多くは極めて「複雑」である。
【直近(ちょっきん)】⇒現時点から最も近いこと。
【デメリット】⇒欠点。短所。
【認知的バイアス】⇒偏った見方や、やり方で物事を捉えること。
【果ては(はては)】⇒最後には。行き着くところは。
『人間の運命と科学』のテスト対策問題
次の傍線部の仮名を漢字に直しなさい。
①人目をサける。
②分かるハンイで答える。
③強い雨がカンソクされた。
④意思のソツウを図る。
⑤金メダルをカクトクする。
⑥応募者にヒッスの条件。
⑦時間をムダにする。
【それまでの動物】⇒自分の範囲を認識し、自分が有利になるにはどのように行動するべきかを考える意識。
【人類】⇒自分とは何か、人間とは何かというような高度に抽象的な問題を考える意識。
まとめ
以上、今回は『人間の運命と科学』について解説しました。科学について論じた文章は、入試においてもよく出題されます。ぜひ正しい意味での読解をして頂ければと思います。
国語力アップ.com管理人
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