遺跡などを当時の状態に戻すことを、「復元」もしくは「復原」と言います。どちらも「ふくげん」と読む言葉ですが、この二つはどう使い分ければいいのでしょうか?
本記事では、「復元」と「復原」の違いについて詳しく解説しました。
復元・復原の意味
まずは、「ふくげん」の基本的な意味です。
【復元/復原(ふくげん)】
⇒もとの形態・位置に戻すこと。また、戻ること。
出典:デジタル大辞泉(小学館)
「ふくげん」とは「元の形や位置に戻すこと・戻ること」を意味します。例えば、以下のように使います。
- 壁画をふくげんする。
- 民家をふくげんする。
- 文化財をふくげんする。
つまり、昔の遺跡などを元の形に戻すことを「ふくげん」と言うわけです。
また、建築関係としては「杭(くい)をふくげんする」などのように用いることもあります。この場合は、「杭」が消えたり位置がズレたりした時に「元の位置に戻す」という意味で使います。
いずれにせよ、形や位置を元の状態に戻すことを「ふくげん」と呼ぶことになります。
復元と復原の違い
「復元」と「復原」には、どのような違いがあるのでしょうか?結論から言いますと、意味自体にはほとんど違いはありません。
まず、両者の語源を確認しておくと、「復元」の「元」は「人間の丸い頭」を描いた象形文字です。そこから転じて、「はじめ」「もと」などの意味があります。
一方で、「復原」の「原」は、「岩の穴から水がわき出る」という意味の字です。転じて、「物事のもと・起源」などの意味があります。
そして、両者に共通する「復」は「もとに戻す」という意味です。
ここから両者を比較すると、
「復元」=はじめに戻すこと。「復原」=もとに戻すこと。
という意味になります。
「はじめ」も「もと」も、結局は内容として大差はありません。したがって、「どちらを使ってもほとんど意味に違いはない」という結論になるわけです。
復元と復原の使い分け
「復元」と「復原」の使い分けは、原則として「復元」の方を使うことになります。まず、新聞やテレビなどのメディアは「復元」を使うことで統一しています。
その理由は、漢字の混同を避けるためです。読み書きの世界であるメディアは、まぎらわしい漢字がある場合は一つに統一するのです。
一般的にはメディア以外の業界もこのルールに則り、「復元」を使う傾向にあります。
ただし、これには例外があり、「ふくげんりょく」「ふくげんせい」などと言う場合です。この場合は、「復原力」「復原性」のように用いるのが一般的です。
理由についてですが、おそらくは「文部科学省」の「学術用語集」の決定を尊重したものだと思われます。
「学術用語集」の「地震・土木工学編」では、「復原力」と書かれています。また、「船舶工学編」にも「復原力・復原力曲線・復原力滅失角・復元性範囲」などと書かれています。
一方で、日本規格協会の「JIS用語集」だと、
「測定用・計算用の機械器具」⇒「復元差」
「パッキン・ガスケット関係」⇒「復元率」
などとも記されています。
つまり、専門用語の場合だと「復元」と「復原」の両方が使われているということです。
結局のところ、「学術用語集」に掲げられた専門用語としての「復原力」「復原性」などを別にすれば、一般用語としては新聞・放送業界が採用している「復元」の方が使われています。
そのため、「復元」の方がより一般的な言葉という結論になるわけです。なお、「文化財」に関しては以下のように使い分けているようです。
「復元」=失われて消えた建物を、元の姿に戻すこと。
「復原」=改造された建物を、元の姿に戻すこと。
「復元」の方は完全になくなったものを推測で元に戻す時に使います。一方で、「復原」の方は改修などで形が変わった建物を、部材や文献を参考に、元の姿に戻す時に使います。
この使い分けは文化財に限った話ですので、一般業界では原則として「復元」を使うことを推奨します。
使い方・例文
最後に、それぞれの使い方を例文で確認しておきます。
【復元の使い方】
- 古代遺跡の住居をコンピューターで復元する。
- ティラノサウルスの骨格を正確に復元する。
- 測量図面によって、杭の位置を復元する。
- 波で横転してしまったヨットを復元させる。
- スマホのデータを業者に復元してもらう。
【復原の使い方】
- 船を正しく設計すれば、浮力により復原性を発揮する。
- 事故発生時における飛行機は、復原力が衰えていたようだ。
- 復原性が高いボートほど、傾いた状態からでも元の姿勢に戻れる。
例文のように、「復元」は幅広い場面で使われています。一方で、「復原」の方は、主に船などの船舶工学に対して使われます。「復原」に関しては、あくまで専門用語として限定的に使われる言葉となります。
まとめ
以上、今回は「ふくげん」について解説しました。
「復元・復原」=元の形や位置に戻すこと・戻ること。
「違い」⇒「復元」は「はじめに戻すこと」を表し、「復原」は「もとに戻すこと」を表す。
「使い分け」⇒原則として「復元」を使う。「復原」は「復原力」「復原性」などの学術用語としてのみ使う。
「復元」と「復原」は意味自体に違いはほとんどありません。一般に使う際には、「復元」を用いることになります。「復原」の方は限られた場面で使うと覚えておきましょう。