「保守」と「保全」にはどのような違いがあるのでしょうか?
両方とも工場の設備や製造業における機械などに使われている言葉です。ただ、具体的にどう使い分ければよいのかという疑問があります。
そこで今回は、「保守」と「保全」の違いについて詳しく解説しました。
保守の意味
まずは、「保守」の意味からです。
【保守(ほしゅ)】
①正常な状態を保つこと。
②旧来の風習・伝統・考え方などを重んじて守っていこうとすること。また、その立場。⇔革新。
出典:デジタル大辞泉(小学館)
「保守」とは「正常な状態を保つこと」を意味します。
一般的に「保守」は、機械やシステムなどの整備・点検作業を指すことが多いです。
例えば、「機械の保守」であれば「壊れた箇所の修理や傷んだ部分の修繕」、「システムの保守」であれば「ソフトウェアの更新やハードウェアの交換」といった作業です。
このように、機械やシステムを正常な状態にして保つことを「保守」と言うわけです。
また、「保守」は「今までの風習や伝統・考え方を変えずに守っていくこと」という意味もあります。この場合は、「自民党は保守政党である」などのように政治的な意味として用いるのが特徴です。
保全の意味
続いて、「保全」の意味です。
【保全(ほぜん)】
⇒保護して安全であるようにすること。
出典:デジタル大辞泉(小学館)
「保全」とは「保護して安全を保つこと」を意味します。一般的に、「保全」は安全性を保つ作業をする時に使うことが多いです。
例えば、「設備保全」であれば「設備の安全を重視した点検」、「環境保全」であれば「環境の安全を重視した工事」といったものです。
したがって、機械やシステムに対して使う際は「安全のために事前に点検しておく」といった意味合いになります。
また、「保全」には「完全な状態を保つこと」という意味もあります。この場合は「証拠の保全を行う」などのように「裁判のために証拠を確保しておく」という意味で使われることが多いです。
保守と保全の違い
ここまでの内容を整理すると、
「保守」=正常な状態を保つこと。「保全」=保護して安全を保つこと。
ということでした。
両者の違いを簡単に言うと、「作業をする目的の違い」だと言えます。
「保全」は、「安全」の「全」と書くように「安全を守ること」が目的です。一方で、「保守」の方はあくまで「正常な状態にすること」が目的です。「保守」に関しては、「安全性を保つ」という目的は特に含まれません。
よって、両者の違いは「安全」か「正常」のどちらを目的にするかということになります。
ただし、「正常な状態にする」ということは、結果的に安全につながることも多いと言えます。そのため、実際の現場では必ずしも両者は厳密に区別されているわけではないようです。
一般的には、以下のように使い分けをする会社が多いです。
「保守」=機械が故障した時に元の状態に戻す。
「保全」=機械が故障しないように普段から点検しておく。
要するに、「保守」は故障後に使うことが多く、「保全」は故障前に使うことが多いということです。「医療」で例えるなら、「保守」は「投薬や手術などの治療」、「保全」は「うがい・手洗いなどの予防」と考えると分かりやすいでしょう。
なお、両者は英語だと次のように言います。
「保守」=「maintenance(メンテナンス)」「保全」=「safeguard(セーフガード)」
「maintenance」には「補修・維持」などの意味があります。そして、「safeguard」には「守る・保護する・予防する」などの意味があります。
英語の場合は、日本語ほど厳密には区別されていません。場合によっては「保全」のことを「maintenance(メンテナンス)」と訳すこともあるので注意しましょう。
使い方・例文
最後に、それぞれの使い方を例文で紹介しておきます。
【保守の使い方】
- コンピュータシステムの保守作業を行う。
- 人身事故後の、線路の保守作業に追われる。
- エンジンに不具合が出たので、車両の保守点検を行った。
- 自動車を製造する機械を、保守する仕事を任された。
- 最近の彼は政治を勉強し、考え方が保守的になってきた。
【保全の使い方】
- 機械保全の目的は、機械が壊れないようにするためだ。
- 突発的な故障をゼロにするために、定期的な保全を行う。
- 生産設備が故障しないように、機器の保全を行った。
- この町の南部は、「緑地保全区域」に指定されている。
- 「環境保全」により、人と動植物の住環境の安全を図る。
まとめ
以上、今回のまとめとなります。
「保守」=正常な状態を保つこと。(正常にするのが目的)
「保全」=保護して安全を保つこと。(安全にするのが目的)
「違い」⇒「保守」は機械が故障した際に元の状態に戻すことで、「保全」は機械が故障しないように普段から点検しておくことを表す。
上記の使い分けはあくまで慣習的なものです。もしも会社内で統一した基準があれば、それに従うようにしましょう。