「蛇の生殺し」ということわざがあります。
気になるのは「なまごろし」と「へび」という言葉ではないでしょうか?ヘビが殺すのか、あるいは殺される側なのかも疑問に思う人も多いかと思います。
今回はそんな謎が多いことわざ、「蛇の生殺し」の意味や語源、例文、類語などを解説しました。
蛇の生殺しの意味・読み方
最初に、読み方と基本的な意味を紹介します。
【蛇の生殺し(へびのなまごろし)】
⇒生かしも殺しもしない、半死半生の状態にしておく様子を意味する語。物事をはっきりさせずにおくさまを指すことも多い。
出典:実用日本語表現辞典
「蛇の生殺し」は、「へびのなまごろし」と読みます。「蛇」は、ひらがなとカタカナの両方で書く場合があり、別表記だと「へびの生殺し」「ヘビの生殺し」とも書きます。
意味は二つあり、一つ目は「生かしも殺しもせず、半死半生の状態にしておく」という意味です。
【例】⇒野良猫同士で喧嘩をしていた。片方は蛇の生殺しのような状態だったよ。
「半死半生(はんしはんしょう)」とは、文字通り「半分死んでいて半分生きているような状態」です。実際にはほぼ死にかかっていたり、もう少しで死にそうな様子を表す時に使うことが多いです。
そして二つ目は、「物事をはっきりさせずにしておくさま」という意味です。
【例】⇒蛇の生殺しのような状態にせずに、早く結論を出してやるべきだ。
この意味の場合は、物事に決着をつけず、曖昧なままにしておくような時に使います。どちらの意味でも使うことができますが、実際の用例としては二つ目の意味として使うことの方が多いです。
蛇の生殺しの由来・語源
「蛇の生殺し」ということわざは、蛇をさんざんに痛めつけたあげく、殺しもせずに放っておく様子からできたものです。
まず、「へび」という動物は、非常に生命力の強い生き物として知られています。例えば、人がちょっとやそっとの力で叩いたり棒で殴ったりしてもそう簡単に死ぬということはありません。
また、仮に弱らすことができたとしても、毒を持った牙で噛みつかれる危険性があるため、うかつにとどめを刺すこともできません。ある話によれば、頭部を切断されたコブラが、数時間経った後も毒の牙で人を殺傷することができたという逸話もあるほどです。
そのため、昔から蛇は人間にとって簡単には殺すことのできない怖い生き物という認識がありました。むしろ殺そうとすると自分に被害が及ぶ危険もあったので、あえて殺さずに決着がつかないまま勝負を終わらせるということもありました。
この事から、相手にとどめを刺さずに半死半生の状態にしておくことを「蛇の生殺し」と言うようになったのです。
現在使われている「決着をつけず、あいまいにする」という意味もここから派生したものだと言われています。
以上の事から考えますと、このことわざは、人間が蛇を半殺しにする状態から生まれたものであることが分かるかと思います。決して、蛇が獲物を捕まえて半殺しにしたりすることが本来の由来というわけではないので注意してください。
なお、「生殺し」の「生」はここでは「中途半端にする」という意味の接頭語として使われています。つまり、「生かしも殺しもせず中途半端な状態にする」ということです。
したがって、「蛇の半殺し」などと言うのは誤用だということが分かるかと思います。これはよくある間違いなので注意してください。
「蛇の生殺し」⇒「正」 「蛇の半殺し」⇒「誤」
蛇の生殺しの類義語
続いて、「蛇の生殺し」の類義語を紹介します。
類義語としては、二つの意味に分かれます。前半四つは「半分死なせた状態にする」という意味の言葉です。一方で、後半三つは「中途半端な状態にする」という意味の言葉です。
その他、「蛇の生殺し」から派生したことわざで「蛇の生殺しは人を咬む」という言葉もあります。これは「生殺しのような半端な中途状態にしておくとひどい目にあわされる」という意味の慣用句の一種です。「とどめを刺さずに生かしておくと、蛇に咬まれて痛い目をみる」という先人による教訓から生まれたものです。
蛇の生殺しの英語訳
「蛇の生殺し」は、英語だと次のように言います。
- 「half-kill(半殺しにする)」
- 「half dead(半分死んだ状態)」
- 「unfinished(中途半端な)」
- 「half-finished(中途半端な)」
英語の場合もどちらの意味で訳すかによって使う単語が異なってきます。まず言葉通り相手を痛めつけて半死半生にするのであれば、「half-kill」や「half dead」を使うのが適切です。
一方で、中途半端な状態にする言葉であれば、「unfinished」や「half-finished」を使います。「finish」は「終わらせる」という意味なので、前に「un」や「half」を付けることで「中途半端な」という意味で用いることができます。
例文だと、それぞれ以下のような言い方です。
He half-killed a dog.(彼は犬を蛇の生殺しにした。)
She was half‐dead and was taken to the hospital.(彼女は蛇の生殺しの状態で病院へ運ばれた。)
Today’s work is still unfinished.(今日の仕事はまだ終わっていない。)
This painting is still half-finished.(この絵画はまだ半分終わったところである。)
蛇の生殺しの使い方・例文
最後に、「蛇の生殺し」の使い方を例文で紹介しておきます。
- 猫は意外と残酷な生き物だね。ネズミを捕まえて蛇の生殺しのようにしているよ。
- いつまで蛇の生殺しのような状態にするつもりなんだ?早く彼女に返答してあげなよ。
- 恋人と別れるかどうかもう一週間も返事を出していない。蛇の生殺しとはこのことだね。
- 面接してからずっと連絡が来ない。できれば蛇の生殺しのようにされるのはご勘弁願いたいよ。
- ずっと蛇の生殺しのような状態が続いている。いっそのこと、はっきりと断ってくれないか?
- 蛇の生殺しは人を噛むと言うけどまさにそうだ。私は相手を倒したと思って完全に油断していたよ。
「蛇の生殺し」ということわざは、例文のように様々な場面で使うことができます。ビジネスや恋愛、普段の会話などその用途を問いません。
主な用例としては、「どっちつかずな様子」「中途半端な様子」を嘆くような否定的な意味として使われることが多いです。理由は簡単で、結論や答えを先延ばしにして曖昧にするのは、相手に対して不親切な受け答えだからです。
また、場合によっては「蛇の」という言葉を除き、「生殺し」という単語のみで使うこともあります。この言葉自体でも「蛇の生殺し」とほぼ同じような意味を持っています。
したがって、「蛇の生殺し」≒「生殺し」と覚えて頂いても構いません。
まとめ
以上、本記事のまとめです。
「蛇の生殺し」=生かしも殺しもせず、半死半生の状態にしておくこと。物事をはっきりさせずにしておくさま。
「語源・由来」=人が蛇をさんざんに痛めつけたあげく、殺しもせずに放っておく様子から。
「類義語」=「半殺し・半死半生・生かさず殺さず・どっちつかず・宙ぶらりん・飼い殺し」
「英語訳」=「half-kill」「half dead」「unfinished」「half-finished」
「蛇の生殺し」は、蛇が簡単には死なない様子からできたことわざです。蛇が獲物を生かしたり殺したりするような意味は含まれていないということを覚えておきましょう。