国語の技法で「擬人法」と呼ばれるものがあります。小説や詩、短歌・俳句などで用いられており、受験生にとっては必須の内容とも言われています。
ただ、実際には意味が分かりにくいと感じる人も多いです。そこで今回は、「擬人法」の意味を、身近な例や短文などを使い簡単に解説しました。
後半では「比喩」との違いについても触れています。
擬人法の意味
まず、「擬人法」の意味を調べると次のように書かれています。
【擬人法(ぎじんほう)】
⇒人間以外のものを人間に見立てて表現する修辞法。
出典:デジタル大辞泉(小学館)
「擬人法」とは「人間以外の物を人間に例えること」を意味します。
例えば、「風が僕たちにささやきかける。」という一文は「擬人法」を使った表現だと言えます。なぜなら、「風」を「人間」に例えているからです。
普通に考えれば、「風」はささやいたりしゃべったりはしません。「風」は生き物ではないので当然と言えば当然ですね。
つまり、人でないものをあたかも人のように表現することを「擬人法」と呼ぶのです。
大事なポイントは、「人でない物に使う」ということです。
「擬人法」の「擬」という字は、「擬態」「模擬」などの熟語があるように「にせ・もどき」という意味があります。
したがって、人でない物を人に似せたりする時にこの技法を使うわけです。
擬人法の例文
擬人法を使った例文は、他にどんなものがあるでしょうか?
以下によくある短文を10個挙げました。一つずつみていきましょう。
①空が泣いている。
【意味】⇒「雨が降っている。」
普通に考えれば、空が泣くはずがありません。「泣く」という行為は人間がするものです。
それを、あたかも空が泣いているかのように表現しています。
②火山が怒り出す。
【意味】⇒「火山が噴火する。」
「怒る」という感情は、火山にはありません。
それをあえて人間のように怒らせることにより、噴火の勢いや威力を表現しています。
③海が招く。
【意味】⇒「海が(人を)歓迎する。」
「海」も人間のように動いたりはしません。
しかし、まるで「海」が「ようこそ」と言わんばかりに待っているということです。
当然、天気が良くて泳ぎやすい日などに使います。
④大地が怒る。
【意味】⇒「大地が震動する。」
地震などで大地が揺れる時に、「大地が怒る」と表現する場合があります。
言葉のイメージ通り、強く激しく揺れるような時に使います。
自然というのは感情がありませんが、時に私たちに大きな牙を向くことがあるので、人間の怒りに例えることがあるのです。
⑤花がほほえむ。
【意味】⇒「花が笑う。」
この場合は、花の美しさを人の笑顔に例えています。
実際には「花がほほえむ」などということはありませんが、まるで花が笑っているかのように美しいということです。
植物の美しさを表現するような時に使います。
⑥鳥が歌う。
【意味】⇒「鳥が鳴いている。」
自然界の鳥が、元気よく鳴く様子を表した表現です。
「歌う」という行為は、人が陽気に歌ったり皆で集まって合唱をしたりすることを表します。
そのようなにぎやかな様子を人間でない鳥に当てはめて使うこともあります。
⑦ペンが走る。
【意味】⇒「スラスラと文が書ける。」
「ペンが走る」とは、次々とアイデアが浮かび、スラスラと文が書けるような時に使われる表現です。
実際にはペンを走らせているのは人ですが、人ではなく勝手にペンが動くほど非常にスピード感があるということです。
用例としては、「ペンが走るように原稿を書いた」のように使います。
⑧台風が襲撃する。
【意味】⇒「台風が来る。台風が起こる。」
一見すると普通の表現にも見えますが、「台風」は自然現象です。
結果的に人間に被害が及ぶこともありますが、人を襲ったり建物を壊すことが目的ではありません。
そのため、「擬人法」の一種ということになります。
⑨スマホが水におぼれた。
【意味】⇒「スマホが水に落ちた。」
「おぼれる」という行為は、人間などの生物が行うものです。決して、スマホはおぼれたりはしません。
したがって、スマホなどの機械に対しても「擬人法」を使うことが可能なのです。
⑩北風がドアをノックする。
【意味】⇒「北風によりドアの音が鳴る。」
こちらは小説文などでよく使われる表現です。
「北風」という冷たい風により、まるで人がドアを叩くような様子を表しています。
特に冬の寒さを表現したい場合に用います。
以上、10個の例文を挙げました。
このように比較すると、「擬人法」は植物やモノ・自然現象などに使うことが多いということが分かるでしょう。
もちろん、犬や猫・鳥などの動物にも使うことはできます。しかし、実際は、人間と全く異なる対象に使うことの方が多いです。
擬人法の効果
「擬人法」の効果は、どのようなものがあるでしょうか?以下に代表的なものを3つ挙げました。
①生き生きとした印象を与える。
「擬人法」は、基本的に生きていないものに使います。
したがって、それらを人間に例えることにより、生き生きとした文章にするという効果があります。
例えば、小説を書く時に風景の描写ばかりが続き、人間が全く登場しないシーンが続くとしましょう。読者からすれば、何となく無機質な印象を感じてしまいます。
そこで、所々に擬人法を使った文を混ぜることにより、読者に生き生きとした印象を与えられるのです。
当たり前のことかもしれませんが、全く生命感のない文章よりも、所々で命を入れた方が人間的な文章となるのです。
②イメージを伝えやすくする。
「擬人法」を使うことにより、具体的な風景をイメージできます。
例えば、ただ単に「草花がある」と言うよりも、「草花がおどる」と言った方がイメージがしやすいです。
また、「海があった」と一言で表すよりも、「海が招いた」などと表したほうが脳に残りやすいです。
人間は文字を読む時に、必ず頭の中でイメージをふくらませます。そして、そのイメージを元に次の文章を読み進めていきます。
したがって、具体的な表現の方が頭に残りやすく、なおかつ理解もしやすいのです。
③単調な表現をさける。
文章というのは、どうしても単調になりがちです。多くの人にとって、強弱がない文章は面白みを感じません。
そこで、「擬人法」を入れることにより文章に強弱を持たせます。すると、読者に飽きを生じさせにくくするという効果があるのです。
これは擬人法に限らず、文章を書く作家などが常に意識していることだと言われています。
擬人法と比喩の違い
「擬人法」と似た言葉で、「比喩(ひゆ)」があります。
「比喩」とは「何かを他の何かに置き換えて表現する方法」のことです。
例えば、以下のような文は「比喩」を使った表現だと言えます。
- 彼女はまるで太陽のように明るい人だ。
- 彼はライオンのように凶暴な性格の持ち主だ。
- 人生とはゲームである。
いずれも何かを別の何かに置き換えている文です。
1は彼女という人物を太陽に、2は彼という人物をライオンに、3は人生そのものをゲームに置き換えています。
このように、何かを何かに置き換える表現法を「比喩」と呼ぶのです。
ここで言う「何か」とは、人間や動植物・モノなどすべてのものが含まれます。
つまり、「比喩」は「擬人法」を含んだ言葉ということになります。「比喩」という大きな項目の中に「擬人法」が入っていると考えて下さい。
例えるなら、「スポーツ」という項目の中に、「野球」が入っているようなものです。
したがって、「擬人法」は「比喩」の一種という結論になります。
なお、「比喩」の中の一つとして、「直喩」と「隠喩」があります。
「直喩」と「隠喩」については、以下の記事を参照してください。こちらも受験生にとっては必須の内容となっています。
まとめ
以上、本記事のまとめです。
「擬人法」=人間以外の物を人間に例えること。
「使い方」=自然現象や植物・物などに使うことが多い。
「効果」=①生き生きとした印象を与える。②イメージを伝えやすくする。③単調な表現をさける。
「擬人法と比喩の違い」=比喩の中に擬人法が含まれる。(擬人法は比喩の一種)
使い方や例文も解説したので、理解が深まったのではないでしょうか。この記事をきっかけに「擬人法」をうまく使いこなして頂ければと思います。