「背に腹はかえられぬ」ということわざをご存知でしょうか?
別の言い方だと「背に腹はかえられない」とも言い、慣用句としてはよく使われているものです。ただ、正確な語源や由来まで把握しているという人は少ないと思われます。
そこで本記事では、「背に腹はかえられぬ」の意味や由来、類語・誤用表現などを含め詳しく解説しました。
背に腹はかえられぬの意味・読み方
最初に、このことわざを辞書で引いてみます。
【背(せ)に腹(はら)はかえられない】
⇒さし迫った苦痛を回避するためには、他のことを犠牲にしても仕方ない。背に腹はかえられぬ。
出典:デジタル大辞泉(小学館)
「背に腹はかえられぬ」は、「せにはらはかえられぬ」と読みます。
辞書の説明だと「背に腹はかえられない」とありますが、どちらを使っても意味自体は全く同じだと考えてください。
「背に腹はかえられるぬ」とは「目の前の苦痛を回避するためなら、他のことを犠牲にしても仕方ない」という意味です。
例えば、ある人がお金に困っていて明日の生活をどうしようか迷っていたとします。そこで、目の前の苦痛を回避するために、家にある服を売ってお金に換えたとします。
このような場合に、「背に腹はかえられないので、服を売った」などと言うわけです。
つまり、「背に腹はかえられぬ」とは「本当は望んでいないけども、仕方なく選択する」というその人の差し迫った危機を表したことわざということです。
「やむを得ず行うこと」「仕方なく行うこと」であれば、「背に腹はかえられぬ」と表現することができます。
背に腹はかえられぬの語源・由来
「背に腹はかえられぬ」の語源は、「昔の戦闘」からきていると言われています。
剣を使った戦いでは、自分のお腹を守ることが非常に重要になってきます。なぜなら、人間のお腹には胃腸や大腸など大切な臓器が無防備に入っているためです。
冷静に考えれば、お腹には骨がないため、普通に殴られるだけでもかなり痛いです。そのため、戦闘においてお腹を傷つけられるのは命に関わることなのです。
一方で、「背中」はどうでしょうか?背中も剣で刺されたらさすがに傷を負ってしまいますが、殴られるくらいなら大丈夫でしょう。背中を殴られて気絶するようなことはまずありません。
したがって、体を守る優先順位としては背中よりもお腹の方が圧倒的に高いと言えます。
そのため、昔の人が「危ない時は、腹を守って背中を切らせよ」と言ったわけです。言いかえれば、「お腹を切られるくらいだったら、背中を犠牲にすべきだ」ということです。
ここで改めて言葉の意味を振り返ってみますと、「背に腹はかえられない」は「背中に腹の代わりは務まらない」と訳すことができます。
転じて、「大切なものを守るためなら、他を犠牲にしても仕方ない」という意味になるわけです。
なお、「背を腹にかえられぬ」という言い方は誤用です。なぜなら、これだと「背中とお腹は交換できない」というよく分からない意味になってしまうからです。間違える人がいますので気をつけましょう。
背に腹はかえられぬの類義語
続いて、「背に腹はかえられぬ」の類義語を紹介します。
- 仕方ない
- やむを得ない
- 泣く泣く
- 涙を飲む
- 不承不承(ふしょうぶしょう)
- 時のようには鼻をも削ぐ
「背に腹は代えられない」の類義語はいくつかありますが、この中だと「仕方ない」「やむを得ない」などは比較的近い意味だと言えます。
また、その人が追い込まれた状況にあることを表すため、「泣く泣く」や「涙を飲む」のような一種のあきらめのような感情を含んだ後も類義語に含まれます。
その他、「不承不承」とは「気が進まないままにする様子」を表した四字熟語です。
また「時の用には鼻をも削ぐ」とは、「急を要する大事な時は、鼻を切り落とすような手段でもとったほうがよい」という意味のことわざです。
「鼻を切り落とす」というのは少し乱暴に聞こえますが、「犠牲が出ても仕方ない」という点では同じ意味だと言えます。
背に腹はかえられぬの英語訳
「背に腹はかえられぬ」は、英語だと次のように言います。
「Necessity has no law.」
「Necessity」は「必然・不可避」、「law」は「ルール・決まり」などの意味です。直訳すると、「不可避の場合は決まりなどない」となります。
「不可避」=「緊急の場合」「どうしようもない場合」などと考えると分かりやすいです。
緊急の場合はルールなどに従っている余裕はありません。この事から切羽詰まった状況を伝える表現として、「Necessity has no law.」を用います。
背に腹はかえられぬの使い方・例文
最後に、「背に腹はかえられぬ」の使い方を例文で紹介しておきます。
- 背に腹はかえられないので、仕方ないが食費を削ることにした。
- サラ金だけは頼りたくなかったが、もはや背に腹はかえられない。
- あいつとだけはコンビを組みたくなかったが、背に腹はかえられないだろう。
- 今日の試合は守護神を温存したかったが、背に腹はかえられないため投入した。
- 第二志望の大学には行きたくなかったが、背に腹はかえられないので進学しよう。
- 背に腹はかえられないのか、彼は自分のことしか考えていなかったようだ。
- 背に腹はかえられないので、この家を担保に友人からお金を借りることにした。
「背に腹はかえられぬ」は、「仕方なく行う」あるいは「やむを得ず行う」といった意味を持つ慣用句です。
したがって、基本はその人が追い込まれたり切羽詰まったりしたりする状況になった際に使われます。逆に言えば、ピンチの時以外は使われない言葉と考えても問題ありません。
また、用例としては少ないですが、「追い詰められた状況で他を考える余裕がない」といった意味で使われることもあります。例文だと、6の文です。
この場合は「背」を「他人」、「腹」を「自分自身」に当てはめてると分かりやすいでしょう。要するに、「他人に自分の代わりは務まらない」=「自分の事で精一杯」という意味です。
まとめ
以上、本記事のまとめとなります。
「背に腹はかえられぬ」=目の前の苦痛を回避するためなら、他を犠牲にしても仕方ない。
「語源・由来」=背中に腹の代わりは務まらない。(背中程度では代用できないほど、腹は大事なものだ)
「類義語」=「仕方ない・やむを得ない・泣く泣く・涙を飲む」など。
「英語訳」=「Necessity has no law.」
「背に腹はかえられるぬ」は「背中よりもお腹が大事である」という意が含まれています。背中では比にならないほどお腹は大事であることから、「他を犠牲にしても仕方ない」という意味になると覚えておきましょう。