「足」を使った有名な慣用句があります。一般的には「足元をすくわれる」などのように用いられます。
ところが、この言葉を間違って使う人が多いようです。ある世論調査によると、日本人の約8割が誤用しているというデータもあります。
そこで本記事では、「足元をすくわれる」の正しい意味や由来、誤用表現、類義語などを詳しく解説しました。
足元をすくわれるの意味
まず、先に結論を言ってしまうと「足元をすくわれる」は誤用です。どの辞書を調べても「足元をすくわれる」は載っていません。
よって、受験や公文書などでこの表現を使ったら誤りということになります。
では、どんな言い方が正しいかと言いますと「足をすくわれる」です。こちらは正式に辞書に載っている慣用句となります。
【足を掬う(あしをすくう)】
⇒相手のすきをついて失敗させる。
出典:デジタル大辞泉(小学館)
つまり、よく使われる「足をすくわれる」は「足をすくう」の受身の形ということです。「足をすくわれる」とは「すきを突かれて失敗させられること」を意味します。
例えば、スポーツの試合などで弱いチームと思って油断していると、負けてしまうようなことはよくあります。このような場面では、「油断して足をすくわれた」などと言われることがあります。
すなわち、「足をすくわれる」とは、上手くすきを突かれて失敗させられたり逆転されたりするような時に使う慣用句ということです。主に意外な方法や卑劣なやり方で一杯食わされるような場合に使われます。
足をすくわれるの由来・語源
「足をすくわれる」は、なぜ「足元」ではなく「足」なのでしょうか?まず、「すくう」という言葉は「下から上へ曲線を描くようにはらう」という意味があります。
イメージとしては、金魚すくいが分かりやすいでしょう。金魚すくいは、水の中の金魚を持ち上げるように動かします。このように、下から上にはらうような動作を「すくう」と言うのです。
つまり、「足をすくう」とは「立っている足をはらうようにする動き」を指すことになります。
足をはらってしまえば、当然体を支えきれずに倒れてしまいます。転じて、「失敗や逆転」を意味する言葉になったと言われています。
ここで大事なのは、「足」と「足元」は全く別の言葉ということです。「足元」とは「足が地面についている付近」という意味です。
よく「足元が暗い」などと言いますが、あれはつまり足本体ではなく足の周り付近が暗いという意味です。
ということは、「足元」をすくってみたところで何もないので空振りに終わってしまいます。立っている人間を転ばせたいのなら、「足」そのものをすくわなければ無理でしょう。
したがって、「足元をすくわれる」は誤用となるわけです。
なお、間違える人が多い理由は「足元」を使った慣用句が多いからだと言われています。
【例】
- 「足元を見る」⇒相手の弱みにつけこむ様子。
- 「足元につけこむ」⇒弱みにつけこみ、利用すること。
- 「足元に火がつく」⇒危険がせまること。
これらの言葉は「足」本体ではなく、その人の立ち位置や立場といったものを指しています。そのため、いずれも正しい使い方の慣用句です。
足をすくわれるの類義語
続いて、「足をすくわれる」の類義語を紹介します。
類義語は、油断しているところを突かれたりつけこまれたりする言葉となります。この中だと、「飼い犬に手をかまれる」は比較的よく使われることわざです。
その他、一般的な語であれば「すきを突かれる・不意をつかれる」などの語で言い換えることもできます。
足をすくわれるの英語訳
「足をすくわれる」は、英語だと次のように言います。
「to be tripped up」
「trip up」には「つまづかせる・転ばせる」などの意味があります。受け身を表す「be」をつけることで、「転ばせられる」、すなわち「スキを突かれて、失敗させられる」という訳になります。
例文だと、次のような言い方です。
I was tripped up by their action.(彼らの行動に私は足をすくわれた。)
また、受け身の形ではない「足をすくう」だと「trip up someone’s heels」などの表現も可能です。直訳すると、「誰かのひざをつまづかせる」という意味です。
足をすくわれるの使い方・例文
最後に、「足をすくわれる」の使い方を例文で紹介しておきます。
- あんまり調子に乗らないほうがいい。足をすくわれることになるから。
- 最下位チームだと油断して、足をすくわれることがないようにしよう。
- 部下に足をすくわれることになるなんて、予想していなかったようだ。
- 一瞬のすきをつかれて、足をすくわれることがないようにしてください。
- 勝ったからと気を抜くと足をすくわれることもあるので注意が必要だ。
- もっと慎重に攻めないと、思わぬ所で足をすくわれるかもしれない。
「足をすくわれる」は、例文のようにあらかじめ予防策をとるような場面で使われます。
何かの勝負をする上では、一瞬の油断や隙が命取りになります。特にスポーツなどの厳しい世界ではなおさらでしょう。
そんな時に、気を引きしめるという意味を込めて「足をすくわれないように」などのように言うわけです。
なお、「すくわれる」は基本的にひらがなで書きます。漢字だと「足を掬われる」とも書けますが、実際の例文だとこのように漢字で書くことはほぼありません。
また、ごくたまに「足を救われる」と間違って書く人もいますので注意しましょう。
まとめ
以上、本記事のまとめです。
「足をすくわれる」=すきを突かれて失敗させられること。
「語源・由来」=立っている足をはらうように転ばされることから。「足元をすくわれる」は空振りする行為なので誤用。
「類義語」=「飼い犬に手をかまれる・寝首を掻かれる・不意を突かれる・出し抜かれる」
「英語訳」=「to be tripped up」「trip up someone’s heels」
「足をすくわれる」は「足元をすくわれる」と誤用しやすい慣用句です。これを機に正しい使い方を覚えて頂ければと思います。