「人口に膾炙する」という慣用句をご存知でしょうか?
普段の文章や現代文などにおいても使われている有名な慣用句です。ただ、なかなか聞かない表現であるため、初めて見るという人も多いと思われます。
そこで本記事では、「人口に膾炙する」の意味や由来、使い方・類語などを詳しく解説しました。
人口に膾炙するの意味・読み方
最初に、読み方と基本的な意味を紹介します。
【人口に膾炙する(じんこうにかいしゃする)】
⇒人々の話題に上ってもてはやされ、広く知れ渡る。
出典:デジタル大辞泉(小学館)
「人口に膾炙する」は「じんこうにかいしゃする」と読みます。
意味は、「人々の話題に上ってもてはやされ、広く知れ渡ること」です。
「もてはやされる」とは「盛んにほめられたり、大勢の人に話題にされたりすること」を意味します。
例えば、ある人がノーベル賞を受賞して多くの人から称賛されて話題に上ったとします。この場合、「彼は人口に膾炙する賞を受け取った」などのように言うことができます。
他には、ある映画作品が多くの人の話題にのぼり、大ヒットを生んだ時なども「人口に膾炙する」と言われることがあります。
つまり、「人口に膾炙する」とは「広く世間に知れ渡ること」「人々の間で話題になること」などを表した慣用句ということです。
「人口に膾炙する」は、基本的に良い話題として知れ渡るような場合に使います。悪い意味として話題が広まるような場合は使われません。
また、よく間違えやすい意味として「ちょっとしたブームになる」という使い方も誤用です。一時的なームではなく、長期的に広い範囲で知れ渡るという意味の慣用句だと考えて下さい。
人口に膾炙するの語源・由来
「人口に膾炙する」の語源はどこから来ているのでしょうか?
まず、「人口」は「人の口」と書くので、「世間のうわさ」という意味があります。ここでの「人口」は1万人や10万人の「人口」という意味ではなく、「人の口」すなわち「人のうわさ」のことを表しています。
そして、「膾炙」の「膾」は「なます」と読み、「生肉を細かく刻んだもの」という意味を持っています。日本書紀や万葉集に「膾」という表記があり、その当時から「膾」は生肉を表していました。
生肉というのは元々、「生(なま)」+「肉(しし)」で「なましし」と呼ばれていたのです。この「生肉(なましし)」が転じて、「なます」になったと言われています。
そして、「膾炙」の「炙」は「炙(あぶ)る」とも読める漢字です。つまり、「お肉を炙る」などのように「火にあてて、こげ目をつける程度に焼く」という意味です。
よって、「人口に膾炙する」を直訳すると「人の口に生肉を炙ったものが行き渡る」となります。
生肉もあぶり肉も当時の人々にとっては大変貴重なごちそうでした。そのため、いったん人々の口に渡れば、「これはおいしい」ということで広く知れ渡りました。
この事から、「人口に膾炙する」は「広く世間に知れ渡る」という意味になったのです。
なお、現代では野菜をお酢で和えたものを「なます」と呼ぶため、「酢」の方を語源だと勘違いしてしまう人がいます。しかし、これは本来の語源から考えれば誤りです。
なますに酢が使われるようになったのは室町時代になってからなので、「なます」の語源は「酢」ではありません。
人口に膾炙するの類義語
「人口に膾炙する」の類義語は以下の通りです。
類義語は、「多くの人の話題になる」「大勢の人のうわさになる」といったものが多いです。ただ、全く同じ意味の言葉(同義語)というのはありません。
例えば、「脚光を浴びる」は注目される以外に、「舞台に立つ」という意味も含んでいます。また、「持て囃される」は必ずしも世の中に広く話題にされるとは限らず、範囲が限定されて特定の場所で話題になることもあります。
「喝采を博する」は同じ知れ渡ることでも、「声をあげて皆から褒められる」というニュアンスが強い言葉です。「取り沙汰される」に関しては「問題にされる・非難の対象にされる」という意味が含まれています。
最後の「口の端に上る」は、良い話題・悪い話題の両方に使われる慣用句です。この点で、良い意味としてしか使われない「人口に膾炙する」とは異なる表現だと言えます。
人口に膾炙するの英語訳
「人口に膾炙する」は、英語だと次のように言います。
「to become famous(有名になる)」
「to become well-known(よく知られるようになる)」
どちらも「become」を使った表現です。英語だと「知れ渡る」という意味を表す時は、「famous」や「well-known」を使います。
「famous」は「有名な」、「well-known」は「よく知られた」という意味の形容詞です。例文だと、次のような言い方となります。
I want to become a famous doctor.(私は有名な医者になりたいです。)
I want to become a well-known adviser.(私はよく知られたアドバイザーになりたいです。)
人口に膾炙するの使い方・例文
最後に、「人口に膾炙する」の使い方を例文で紹介しておきます。
- 芥川賞を初めて受賞し、彼は人口に膾炙することになった。
- 新種の生物を最初に見つけた学者として、人口に膾炙する。
- 現代のスマートフォンは、すっかり人口に膾炙した媒体となった。
- キリスト教は、宗教の中で最も人口に膾炙した教えであると言える。
- タイタニックは多くの人が知っている人口に膾炙した作品と言えるだろう。
- 発明能力のある彼は、常に人口に膾炙する製品を世の中に送り出してきた。
- 彼女がこの世に残した作品は、人口に膾炙したものばかりで感心しています。
「人口に膾炙する」は、普段の文章はもちろんのこと、ビジネスシーンでも使うことができます。ビジネスでは、今までにない画期的な商品を発明・販売し、世に広く行き渡ったような際に使われます。
例えば、スマートフォンなどは私たちの身近なツールとして世の中に大きく広まりました。このような、広い範囲で使われるようになった製品などはまさに「人口に膾炙したもの」だと言えます。
他には、評論文などの堅い文章においても使われることがよくあります。過去のセンター試験だと、2017年の評論文で「人口に膾炙する」という表現が実際に使われました。
科学を怪物にたとえ、その暴走を危惧するような小説は多数書かれており、ある程度人口に膾炙していたといえるからである。
出典:「科学コミュニケーション」 小林傳司 2017年センター試験国語より抜粋
この文章自体は⑫段落の一部から引用したものです。簡単に説明すると、「科学の暴走を心配するような小説は人々の間で広く知れ渡っていた」ということです。
実際の試験では意味自体を問う設問はありませんでしたが、知っておいたほうが間違いなく読解する上ではプラスになるでしょう。
まとめ
以上、本記事のまとめとなります。
「人口に膾炙する」=人々の話題に上ってもてはやされ、広く知れ渡ること。
「語源・由来」=人の口に生肉を炙ったものが行き渡ることから。(生肉は貴重品ですぐに広まったため)
「類義語」=「脚光を浴びる・持て囃される・喝采を博する・取り沙汰される・口の端に上る」
「英語訳」=「to become famous」「to become well-known」
「人口に膾炙する」は、語源を理解すると実際に使いたくなる慣用句です。これを機にぜひ正しい使い方をして頂ければと思います。