裁判の判決などで、「棄却」と「却下」がよく使われます。「最高裁で棄却された」「訴えを却下された」
ただ、この二つをどう使い分ければいいのかという疑問があります。そこで本記事では、「棄却」と「却下」の違いについて詳しく解説しました。
棄却の意味
まずは、「棄却」の意味からです。
【棄却(ききゃく)】
①捨て去ること。捨てて取り上げないこと。
②裁判所が受理した訴訟について、審理の結果、その理由がないとして請求などをしりぞけること。刑事訴訟では、手続きの無効を理由に手続きを打ち切る場合にもいう。
出典:デジタル大辞泉(小学館)
「棄却」とは「訴えの内容を審理した上で、退けること」を意味します。
「審理」とは「訴えた内容の事実関係を詳しく調べること」です。つまり、裁判所が詳しく調べた結果、「あなたの訴えは通りません」と判断を下すことを「棄却」と呼ぶわけです。
例えば、「最高裁判所は上告を棄却した」などのように使います。この場合は、「最高裁が審理した上で、原告側の訴えを退けた」ということです。
ポイントは、裁判所が審理する点にあります。「棄却」はただ単に退けるのではなく、裁判所がしっかりと訴えの内容を審理した上で退けるのです。
却下の意味
続いて、「却下」の意味です。
【却下(きゃっか)】
①願い出などを退けること。
②裁判所・官庁などの国家機関が、訴訟上の申し立てや申請などを取り上げないで排斥すること。民事訴訟では、訴えの内容を審理しないで不適法として門前払いすることをいい、棄却と区別される。
出典:デジタル大辞泉(小学館)
「却下」とは「訴えの内容を審理せずに、退けること」を意味します。
例えば、「最高裁判所は、原告の請求を却下した」などのように使います。
「却下」は「訴えの内容を審理しない」という点がポイントです。言い換えれば、「門前払いをする」ということです。
訴訟というのは、ある程度条件を満たしていないと訴えることができません。そのため、手続き上に不備がある場合などは、裁判所側は門前払いをすることができます。
つまり、「あなたは訴える資格がないので、審理すらしない」。このように退けることを「却下」と言うのです。
棄却と却下の違い
ここまでの内容を整理すると、
「棄却」=訴えの内容を審理した上で、退けること。
「却下」=訴えの内容を審理せずに、退けること。
ということでした。
両者の違いを簡単に言うと、「退け方の違い」だと言えるでしょう。
どちらも「訴えを退ける」という点は共通しています。
しかし、「棄却」の場合は内容を検討した上で退けます。一方で、「却下」の場合は内容すら検討せずに退けるのです。
分かりやすい例を挙げますと、AさんがBさんを相手に裁判を起こそうとしました。
Aさん「私はBさんより顔が不細工だ。」「そんなのは不公平だから訴えることにしよう。」
この場合、裁判所側は間違いなく訴えを「却下」します。なぜなら、そんなことを訴えても裁判として成立しないからです。裁判所は意味のないことはしてくれないわけですね。
一方で、Aさんが以下のような裁判を起こしたとします。
Aさん「私はBさんに顔が不細工だと侮辱された。」「すごく傷ついたので、10万円を払ってほしい。」
この場合、裁判所は訴えを「却下」しません。
なぜなら、「BさんがどのようにAさんを侮辱したか?」ということを調べて判断する必要があるからです。
場合によっては、名誉を棄損したので「名誉棄損罪」という罪が成立する可能性もあります。したがって、安易に訴えを却下できないわけです。
ちなみに、これらの区別はあくまで「民事訴訟」の場合です。「刑事訴訟」の場合は、そこまで厳密に両者は区別されていません。
一般的には「刑事訴訟」だと「棄却」を使うことが多いですが、保釈や拘留時は「却下」を使うこともあります。
使い方・例文
最後に、それぞれの使い方を例文で紹介しておきます。
【棄却の使い方】
- 彼らは最高裁に上告したが、棄却された。
- 適切な判断の上で訴えを拒否することを棄却と言う。
- 裁判所は、一審の判決を支持し、控訴を棄却した。
- 最高裁は、検察側の上告を棄却する判断を下した。
- 公訴棄却とは、刑事訴訟で公訴を無効にすることを言う。
【却下の使い方】
- 申し立て自体が不適切とされ、訴えは却下された。
- 却下は、訴訟要件すら満たしていない場合に行われる。
- 被告の名前を間違えて申請したため、却下された。
- 口頭弁論すら設けずに退けることを却下と呼ぶ。
- 容疑者の保釈請求を要求したが、却下された。
まとめ
以上、本記事のまとめとなります。
「棄却」=訴えの内容を審理してから、退けること。
「却下」=訴えの内容を審理せずに、退けること。
「違い」⇒「棄却」は「検討した上での拒否」、「却下」は「門前払い(検討以前の問題)」を表す。
「棄却」は訴えの内容を検討した上で退けます。一方で、「却下」は訴えの内容すら検討せずに退けます。両者の違いを理解した上で、正しく使って頂ければと思います。