「アンビバレンス」という言葉をご存知でしょうか?
見慣れないカタカナ語ですが、心理学の用語として有名な言葉です。また、最近では音楽の歌詞や漫画、ドラマの中でもよく使われているようです。
今回はそんな「アンビバレンス」について具体例を交えなるべく簡単にわかりやすく解説しました。後半では「類義語」にも触れています。
アンビバレンスの意味
まず、「アンビバレンス」を辞書で引くと次のように書かれています。
【アンビバレンス(ambivalence)】
⇒同一の対象に対して、愛と憎しみのような相反する感情や態度が同時に存在していること。両価性。両面価値。
出典:三省堂 大辞林
「アンビバレンス」とは「同一の対象に対して、相反する感情を同時に持つこと」を意味します。
一言で、「両価性」「両面価値」などと言うこともあります。
わかりやすい具体例を挙げましょう。
Aさんは大学に合格するために、受験勉強を始めました。ところが、Aさんには付き合っている彼女がいます。
最初は、彼女に会うと勉強時間が減ってしまうため「会いたくない」と思っていました。一方で、「好きな彼女に会いたい」という気持ちも次第に芽生えてきました。
結果的に、Aさんは「彼女に会いたいけど、会いたくない」という相反する感情を抱くことになります。
このような場面で、「Aさんはアンビバレンスを抱いた」などと言うのです。
つまり、心の中に正反対の感情が同居することを「アンビバレンス」と呼ぶことになります。
「アンビバレンス」を抱くときは、必然的に心の中で相反する感情が生まれます。「相反(あいはん)する」とは「お互いが対立する関係になること」です。
したがって、心の中に「好き」と「嫌い」、「楽しい」と「辛い」などのような真逆の感情が対立することを意味するのです。
アンビバレンスの語源・由来
「アンビバレンス」は、ドイツ語の「ambivalenz(アンビヴァレンツ)」に由来します。
「ambivalenz」は日本語だと「両価性」「両面価値」「両面感情」など複数の訳がありますが正式な訳語は決まっていません。
元々この言葉は、「フロイト」という学者が唱えた精神分析の用語から広まりました。
フロイトは、「人はアンビバレンスを抱く時、自分にとって望ましくない方の感情がその人に影響を与える」と主張しました。
どういうことかと言いますと、人はプラスとマイナスの二つの感情があった場合、マイナスの方の感情に強く影響を受けてしまうという意味です。
例えば、ライバルに対して「好き」と「嫌い」という両方の気持ちを抱いていたとしましょう。
普通であれば、「好き」と「嫌い」が半々なので、どちらの気持ちも等しく影響を与えると思いがちです。
しかし、実際には、自分がライバルを尊敬していることを認めたくないために、なぜか敵対心の方をむき出しにしてしまうようなことは多々あるかと思います。
フロイトはこのような現象を主張したということです。
以上の事から考えますと、「アンビバレンス」の本来の意味は「望ましくない感情が無意識に人を抑圧すること」である事が分かります。
転じて、現在では「相反する感情を同時に持つこと」という意味で広く一般に使われているわけです。
アンビバレンスの使い方
「アンビバレンス」の使い方を具体例と共にみていきましょう。以下に、代表的な例を3つ挙げました。
①家族
家庭内で「アンビバレンス」を抱くことは多いと言えます。例えば、「父親」と「子供」の関係です。
一般的には、一家の大黒柱として働いてくれる「父」に対して、「子」は尊敬の念を抱きます。
しかし、ある日突然、父の見たくない一面を見てしまってはどうでしょうか?
当然のごとく、「尊敬」と「軽蔑」という正反対の感情を持つことになるでしょう。
このような時、「子は父にアンビバレンスを抱いた」などと言うわけです。
②仕事
「仕事」に対しても、「アンビバレンス」を抱くことは多いです。
「仕事」というのは、働けば働くほどお金はたくさんもらえます。一方で、仕事をすればするほど、自由な時間は減ってしまうでしょう。
すると、以下のような相反する感情が芽生えることになります。
- 「お金が欲しいから働きたい。」
- 「遊びたいから働きたくない。」
「働きたいけど、働きたくない」
このような心理状態は、まさに「アンビバレンス」と言えます。
③スポーツ
スポーツ選手も例外ではありません。
例えば、野球選手やサッカー選手などのアスリートは、上を目指すために常に練習を行っています。
ところが、あまりにハードな練習をしてしまうと故障のリスクは当然上がってしまいます。
そこで、
- 体力・技術を向上するために練習したい。
- 肉体の疲労をとるために練習したくない。
といった気持ちが芽生えることになります。
「練習したいけど、練習したくたい」
こういった態度は、まさに「相反する感情」だと言えます。
アンビバレンスの類義語
「アンビバレンス」の「類義語」は、以下の通りです。
一つの事象が真逆の関係性を表すような時に使われます。
【例文】
- 提出案に対して、相反性のある意見が出された。
- 色の好みは人の性格などにより相反性が表れる。
【愛憎(あいぞう)こもごも】⇒好きと嫌いが併存すること。
「愛」がありながらも「憎しみ」もあることから、「好き」と「嫌い」という感情を同時に持つことを意味します。「愛憎半ば」という「同義語」が使われる場合もあります。
【例文】
- 結婚して数年だが、愛憎こもごもの思いになってきた。
- 子育てが大変すぎて、愛憎半ばの感情が芽生えてきた。
【葛藤(かっとう)】⇒ 心の中に相反する欲求が同時に起こり、どちらを選ぶか迷うこと。
「葛藤」は、自分の心の中であれこれと悩む複雑な心理状態を指し、2つまたはそれ以上の欲求や意向が相反するような時に使います。
【例文】
- 夜食を食べようかどうか葛藤したが、食べてしまった。
- 様々な葛藤の上、断りの電話を入れることにした。
なお、「アンビバレンス」ではなく「アンビバレント」と言うこともあります。「アンビバレント」とは「アンビバレンス(名詞)が形容詞になった語」です。
英語と日本語で比較すると、次のようになります。
「ambivalence(名詞)」=両価性。両面価値。
「ambivalent(形容詞)」=両価的な。両価性の。両面価値の。
どちらもよく使われるので、両方とも覚えておきましょう。
アンビバレンスの例文
最後に、「アンビバレンス」の使い方を実際の例文で紹介しておきます。
- アンビバレンスとは、同一の対象に矛盾した感情を抱くことである。
- 彼は彼女への「愛情」と「憎悪」というアンビバレンスを抱いた。
- フロイトは、「アンビバレンス」によって人間の本能が相反すると主張した。
- 彼女は、「好きだが嫌い。嫌いだが好き」というアンビバレントな感情に揺さぶられた。
- 今の私は、「受容」と「拒絶」の2つが同居するアンビバレントな心理状態にある。
- 警察官は「強い正義感」と「不正に対する憎しみ」というアンビバレントな要素を持ち合わせていなければならない。
「アンビバレンス」は、例文のように様々な場面で使うことができます。一般的には、男女の恋愛に対して使うことが多いです。
ただし、語源の章でも紹介したように元は心理学の用語であったため、必ずしも恋愛に限定されるというわけではありません。
仕事、人間関係など人の心理が関係する状況であれば、場面を問わず普通に使うことができます。状況に応じて上手く使い分けるようにしてください。
まとめ
以上、本記事のまとめとなります。
「アンビバレンス」=同一の対象に対して、相反する感情を同時に持つこと。
「語源・由来」=ドイツ語の「ambivalenz」。元は精神用語から。
「類義語」=「相反性・愛憎こもごも・葛藤・アンビバレント」
「アンビバレンス」を抱くことは、決して悪いことではありません。むしろ人間として当然の心理だと言えます。正しい意味を理解したからには、ぜひ今後の文章で使ってみてはいかがでしょうか?