「ミイラ取りがミイラになる」ということわざがあります。
このことわざ自体は映画やマンガなどでもよく登場するため、一度は目にしたことがあるという人も多いかもしれません。
ただ、具体的にいつから存在するのか、またどんな由来を持つのかといった疑問があります。
そこで、本記事では「ミイラ取りがミイラになる」の意味や語源、例文・類義語などを詳しく解説しました。
ミイラ取りがミイラになるの意味・読み方
最初に、このことわざを辞書で引いてみます。
【ミイラ取りがミイラになる】
⇒人を捜しに行った者がそのまま帰ってこないで、捜される立場になってしまう。また、人を説得に行った者が、かえって説得され、先方と同意見になってしまう。
出典:デジタル大辞泉(小学館)
「ミイラ取りがミイラになる」は「みいらとりがみいらになる」と読みます。
意味は、「人をさがしに行った者が帰ってこなくなること」「人を説得しようとした者が、逆に説得されてしまうこと」などを表したものです。
簡単な例を紹介しますと、例えばAさんが「Bさんを呼んで来る」と言って部屋を出ていったものの一向に戻って来なかったとします。
そのため、様子を見にったらなんとAさんはBさんと一緒に部屋でゲームをしていました。このような場面では、人をさがしに行った者(Aさん)が帰って来ないので、「ミイラ取りがミイラになる」と言うことができます。
また、他の例だと例えば、息子に勉強の大切さを教えようとした親がいたとします。ところが、逆に息子の方から 「勉強よりもっと大事なものがある」などと言いくるめられてしまいました。この場合も同じく、「ミイラ取りがミイラになった」と言えます。
つまり、「ミイラ取りがミイラになる」とは本来の目的を達成しようとした者が逆の立場になって達成できなくなることを表すわけです。
ミイラ取りがミイラになるの語源・由来
次に、このことわざの語源を確認しておきましょう。まず、「ミイラ」とは「死体に防腐剤を塗り、生前のままの姿で乾燥させたもの」を指します
なぜこのようなことをするかと言いますと、古代エジプトでは「死者を後世まで残す」という目的があったからです。私たちがよく聞く「ミイラ」は、まさにこのような「死体」というイメージでしょう。
しかし、ここで大事なのは「ミイラ」にはもう一つ意味があるということです。それは、「ミイラ作成に使う防腐剤」という意味です。
「防腐剤(ぼうふざい)」とは「モノを腐らせないための薬品」のことを指します。
当時のエジプトでは、死体に「ミルラ(myrrh)」と呼ばれる没薬(もつやく)を塗っていました。「没薬」とは植物性のゴム樹脂のことです。
現在使われている「ミイラ」という言葉は、この没薬から来ていると言われています。つまり、没薬によって死体を腐らせないようにしてたということです。
そして、当時のミイラは貴重な万能薬として信じられていました。「ミイラ取り」というのは、この万能薬を盗もうとした人だと言われています。
ミイラを盗むためには、熱帯で乾燥した危険な砂漠を通らなくてはいけません。実際に、この過酷な砂漠により多くの盗賊が命を落としたと言われています。
この事から、「ミイラを盗もうとした者が、逆にミイラになる」という事態が多発しました。転じて、現在では「人をさがしに行った者が帰ってこなくなったり、相手を説得しようとした者が、逆に言いくるめられてしまうような事」を表す言葉になったわけです。
なお、「ミイラ」のことを漢字では「木乃伊」と書きます。ミイラ自体はポルトガル語の「mirra」が語源と言われていますが、日本に入ってきた時に中国の書物により「木乃伊」と訳されるようになりました。
ミイラ取りがミイラになるの類義語・同義語
続いて、「ミイラ取りがミイラになる」の類義語を紹介します。
以上、ことわざ二つと四字熟語二つを紹介しました。
「木菟」とは「ミミズクという鳥」、「木兎引き」とは「目の見えない夜行性のミミズクに対してからかってつつく鳥」を指します。からかいにきた鳥が逆に猟師に捕まえられてしまうことから、「逆に自分がやられてしまう」という意味になりました。
また、「人捕る亀が人に捕られる」は、人を食おうとした亀が逆に人に捕まえられることから成ることわざです。
「本末転倒」は、本来の目的を達成できなくなるような時に使います。「主客転倒」の「主客」は「主人」と「客人」、転じて、「重要なこと」と「そうでないこと」を指します。
どれも似たような言葉ですが、全く同じ意味の言葉(同義語)というのはありません。
なお、四字熟語や慣用句以外だと以下の言葉も類義語となります。
こちらは、相手に説き伏せられるようなイメージを持つ言葉です。
「ミイラ取りがミイラになる」は説得しようとした者が逆に説得されてしまうことを表すため、「相手に支配されてしまう」という意味の言葉も類義語となります。
ミイラ取りがミイラになるの英語訳・中国語
「ミイラ取りがミイラになる」は、英語だと次のように言います。
「Many go out for wool and come home shorn.」
直訳すると「羊の毛を求めて行ったのに、逆に刈られた」となります。「shorn」は「shear」の過去分詞で、「shear」とは「毛を刈る」という意味です。
英語ではミイラそのもを表した単語を使うのではなく、このように羊を使った表現を使うのが適しています。
また、「ミイラ取りがミイラになる」は中国語だと次のように言います。
「稻草人救火=(案山子の火消し)」
ミイラ取りがミイラになる使い方・例文
最後に、「ミイラ取りがミイラになる」の使い方を例文で紹介しておきます。
- 迷子をさがしに行ったのに、今度はあいつが迷子になっている。ミイラ取りがミイラになるとはこのことだ。
- 遭難者を探しに行った救助隊が一向に戻ってこないようだ。ミイラ取りがミイラになってしまったようだね。
- タバコの危険性を説いていた専門家が、今では毎日吸っている。ミイラ取りがミイラになるとはよく言ったものだ。
- お客に商品を説明しないといけないのに、なんでお客の方が詳しいんだ?ミイラ取りがミイラになるようなものだよ。
- 相手から逆に説得されてしまう可能性もあるので、ミイラ取りがミイラになるようなことにならないように気を付けよう。
- 迷い人を捜しに行ったはずなのに、一向に彼女は戻ってこないね。ミイラ取りがミイラになるようなことが起こらないといいが。
- バイクは危ないからやめるようにと言っていたくせに、今では彼もバイクに乗っている。まさにミイラ取りがミイラになる状態だ。
「ミイラ取りがミイラになる」は、当人が本来の目的を達成できなくなったような時に使われます。例えば、迷子探しの人が迷子になったり、救助隊の人が逆に遭難者になったりといったことです。
したがって、多くの場合は「呆然とする」「呆れてものも言えない」などその人の負の感情が込められた上で用いられます。簡単に言えば、「なんでお前が逆の立場になっているんだ?」のような呆れた感情です。
また、場面によっては例文5のように事前に予防策を取るような意味で使われることもあります。この場合は、「ちゃんと本来の目的を達成するように」という一種の注意喚起の意味も込めて使われます。
まとめ
以上、本記事のまとめです。
「ミイラ取りがミイラになる」=人を捜しに行った者が帰ってこなくなること。人を説得しようとした者が逆に説得されてしまうこと。
「語源・由来」=ミイラ(貴重な没薬)を盗もうとした盗賊が、逆に砂漠でミイラ(死体)になったことから。
「類義語」=「木兎引きが木兎に引かれる・人捕る亀が人に捕られる」「本末転倒・主客転倒」など。
「英語訳」=「Many go out for wool and come home shorn.」
「ミイラ」という言葉には「死体」だけではなく、「没薬」という意味もあります。この没薬を盗もうとした盗賊が由来となり、「ミイラ取りがミイラになる」が生まれたと覚えておきましょう。