「相対的」と「絶対的」は、どちらも普段からよく使われている言葉です。主に、「相対的な評価」「絶対的な基準」などのように用います。
ただこの二つをどのように使い分ければよいのかという疑問があります。そこで今回は、「相対的」と「絶対的」の違いについて詳しく解説しました。後半では、類義語や英語訳についても触れています。
相対的・絶対的の意味
まずは基本的な意味からです。それぞれの意味を辞書で引くと、次のように書かれています。
【相対的(そうたいてき)】
⇒他との関係において成り立つさま。また、他との比較の上に成り立つさま。
【絶対的(ぜったいてき)】
⇒他の何物ともくらべようもない状態・存在であるさま。
出典:デジタル大辞泉(小学館)
「相対的」とは「他との関係や比較によって成り立つこと」を意味します。つまり、「その時々の周りの環境によって変わる」ということです。
一方で、「絶対的」とは「他との関係や比較なしに成り立つこと」を意味します。こちらは「周りの環境など関係なく成立する」ということです。
両者は反対の意味を持っているので、お互いが「対義語(反対語)」同士の関係ということになります。
また、辞書の説明にはありませんが、「絶対的」にはもう一つ意味があります。それは、「比較を超えて存在していること」という意味です。
「比較を超える」とは「比較相手などいない圧倒的な存在」と考えれば問題ありません。この意味で使う場合は、神様や王様など圧倒的な存在を表す対象に使われるのが特徴です。
相対的と絶対的の違い
「相対的」と「絶対的」の違いをもう少し詳しく見ていきましょう。両者の違いを分かりやすくするために、簡単な図を用意しました。
上記の図は、「相対的」と「絶対的」の大まかなイメージ図です。
これらを踏まえた上で、両者の違いを「学校のテスト」に例えて説明します。
100点満点のテストをAさん・Bさん・Cさんの3人に行いました。(80点以上が合格のテスト)その結果、Aさんは90点、Bさんは98点、Cさんは100点を獲得しました。
90点を獲得したAさんの成績を、絶対的に評価すれば「とても良い」と言えます。なぜなら、9割という正答率は素晴らしいですし、合格ラインの80点も余裕で超えているからです。
しかし、Aさんの成績を相対的に評価すれば、「とても良い」ではなく「良い」と評価するのです。その理由は、他の生徒(BさんやCさん)が100点に近い成績をとっていてAさんよりも点数が上だからです。
逆に、もしも他の生徒が40点や50点ばかりの中、Aさんが65点を獲得したとします。この場合、Aさんの成績は絶対的には悪くても、相対的には「とても良い」と言えるのです。
このように、「絶対的な評価」とは、BさんやCさんと比較せずにAさん本人の能力だけを見極めます。一方で、「相対的な評価」とは、BさんやCさんと比較をした後にAさん本人の能力を見極めるのです。
つまり、「相対的」と「絶対的」の違いを端的に言うと「他との比較があるかないか」ということになります。
もう一つ分かりやすい例を挙げましょう。「相対的貧困」と「絶対的貧困」という言葉があります。
「相対的貧困」とは簡単に言うと「周りの人と比較して、どれだけ貧しいか」という意味です。
例えば、その国の平均的な生活水準や文化水準を元に各世帯の所得を出し、その所得を下回っているような場合です。
対して、「絶対的貧困」とは「周りの人など関係なく、最低限の生活条件を欠くような貧困」を意味します。食べ物がない、家がないなどの貧困がこれに該当します。
どちらも貧困を意味する言葉なのは変わりません。しかし、両者は周りと比較するかどうかによって意味が異なってくるのです。
相対的なものは他と比較をするので、それ自体の価値が変わります。一方で、絶対的なものは他と比較をしないので、それ自体の価値は全く変わらないのです。
以上、整理しますと、
「相対的」⇒他と比較をするため、価値が変わる。
「絶対的」⇒他と比較をしないため、価値が変わらない。
となります。
「相対」は複数のものが存在し、それらの関係の中で比較されている状態を指します。逆に、「絶対」は「対(=関係)」を「絶つ」こと、つまり一つしかない状態を指すのです。
相対的と絶対的の類義語
次に、「相対的」と「絶対的」の「類義語」を紹介します。
【相対的の類義語】
- 「比較的」=他と比べると。他と比較すると。
- 「割と」=思っていたよりも。予想よりも。
「比較的」はよく使われる表現ですが、厳密に言うと「相対的」とは意味が異なります。
「相対的」を使う場合は、ある程度明確な基準があります。例えば、学校のテストであれば「点数」のような数値化できるものです。
一方で、「比較的」の場合は具体的な数値のような明確な基準があるわけではありません。
「比較的」は、「比較的楽しい」「比較的暑い」など感覚的なものを指す時に使います。「割と」も同じく「割と楽しい」「割とうまい」のように感覚的に比べるような時に使います。
【絶対的の類義語】
- 「決定的」=物事がほとんど決まっていて、動かしがたい様子。
- 「完全に」=必要な条件がすべてそろっている様子。
- 「唯一無二(ゆいいつむに)」=それ1つだけしかなく、2つとないもの。
「絶対的」と全く同じ意味の語(同義語)はありませんが、この中では「決定的」が一番意味としては近いでしょう。
「決定的」とは、文字通り「物事が決定されている様子」を表す言葉です。「決定的な勝利」「決定的な事件」のように使います。
比較対象がない様子や固定的な様子を表す「絶対的」と近い意味として使うことが可能です。
相対的と絶対的の英語訳
「相対的」と「絶対的」は、英語だとそれぞれ次のように言います。
「相対的」⇒「relative」
「絶対的」⇒「absolute」
基本的には、どちらも後ろに「名詞」をつけてセットで使われることが多いです。
以下はよく使われる表現となります。
- 「relative progress(相対的な進歩)」
- 「a relative amount(相対的な量)」
- 「a relative truth(相対的真理)」
- 「the absolute being(絶対的な存在)」
- 「the absolute standard(絶対的な基準)」
- 「an absolute principle(絶対的な法則)」
相対的と絶対的の使い方・例文
最後に、それぞれの使い方を実際の例文で紹介しておきます。
【相対的の使い方】
- 相対的な評価で、芸能人の人気度をランク付けする。
- 私の会社は相対的評価によって給料が決まります。
- 水の量が相対的に少ないので、量を追加してください。
- 厚生労働省により、日本の相対的貧困率が発表された。
- 時間には「相対的時間」と「絶対的時間」の2つが存在する。
【絶対的の使い方】
- 絶対的強者による搾取(さくしゅ)が行われる。
- 絶対的な支配権力をもつ政治体制が確立される。
- 彼は上司から絶対的な信頼を得ている存在だ。
- 後半戦に入り、絶対的に有利なポジションとなった。
- 昔の人々は、今よりも神様を絶対化していた。
例文のように、「相対的」の方は、数値やデータなど具体的な基準により比較できる対象に使います。一方で、「絶対的」の方は、感覚的なもの、他とは比較をできない圧倒的な対象などに対して使います。
お互いが反対語同士の言葉なので、状況に応じて上手く使い分けるようにしてください。
なお、例文5.の「相対的時間」とは「同じ24時間でも人の精神面によって時間の感じ方が変わる」ということです。例えば、楽しい時間は短く感じ、つらい時間は長く感じるようなことです。
一方で、「絶対的時間」とは「物理的に変わらない時間」のことです。こちらは、砂時計やストップウォッチなど物理的なもので計った時間が挙げられるでしょう。
まとめ
以上、本記事のまとめとなります。
「相対的」=他との関係や比較によって成り立つこと。
「絶対的」=他との関係や比較なしに成り立つこと。
「違い」=「相対的」は他と比較するので価値が変わるが、「絶対的」は他と比較しないので価値が変わらない。
どちらも様々な場面において使われる言葉です。それぞれの違いを理解した上で、実際の文章を読んで頂ければと思います。